パーフェクトワールド

木原あざみ

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第三部

パーフェクト・ワールド・エンドΦ ⑨

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「それで? なに、その顔。そんな気に食わないことでもあったわけ?」
「最悪な議題だった」
「最悪って。寮生委員会からの簡易報告だけだっただろ、今日」

 顔も上げず吐き捨てた成瀬に、篠原が不思議そうに眉を上げる。

「うちの新入生は問題ありませんよ、っていう。そもそも寮のことはあっちに権限があるわけだし、報告聞いて終わりだったんじゃねぇの」
「そのはずだったんだけど。終了間際に若葉の寮長が馬鹿な議題ぶち込んできて」
「若葉って、本尾かよ」
「いや、まぁ、本尾は寮長じゃないけど」
「ほとんど本尾みたいなもんだろうが」

 実質的にあの寮を取り仕切っているのが風紀だということは、周知の事実だった。だから、篠原の言うことはなにも間違っていない。その「馬鹿な議題」というのを言わせたのは本尾だ。
 面倒くさそうに、篠原が溜息を吐いた。

「それで、おまえのその態度って。まさかもうすでに派手にやってきたあとなわけ?」
「議論の域は越えてないつもりだけど。まぁ、ふざけんなとは思ったけど、一意見としては、……腹の立つことにそうおかしなことではなかったし」
「おまえ自身が気に食わないだけで、そこまで変な議題ではなかった、ってことか」

 その言葉に、成瀬がむっと眉間に皺を寄せた。けれどすぐに感情を切り替えた顔に戻る。

「うちで揉めた一件があっただろ」

 そう言って経緯を説明し始めた声も、いつもどおりに近いものだった。

「それにかこつけて、第二の性を公表したらどうかって言ってきたの。その、……公表とまではいかなくても、健全な寮運営のためにも寮生委員は知っておく権利があるんじゃないかって」
「おかしいか、それ? まぁ、個人情報って言ったらそうだし、寮生委員が秘密を守るっていう大前提はいるけど。知っておくことで防げるもんもあるんじゃねぇの」

 今回も、ほら、オメガが襲われた、みたいな噂も出回ってるし、と篠原が言う。

「仮に、本当にオメガだったとしたら、寮長には配慮してやる義務があるだろ」
「仮にも、なにも」

 苛立ちの混ざった声で、成瀬は言い切った。

「オメガだとか、なんだとか。そうやって勘ぐること自体が気に食わないって、そう言ってるんだよ」

 また始まったというように、篠原が肩をすくめた。潔癖としか評せない持論を成瀬が展開するのは、決して珍しいことではない。それを篠原が適当なところに落ち着くように宥めてやっていることも。

 ――でも、まぁ、なにもおかしくはないな。

 篠原の言うことのほうがもっともだと向原も思っているし、そもそもで言えば、今回はじめて出た案だというわけでもない。

「おまえの言うことも、わからなくはないけど。でも、ほら、『オメガじゃない』って一回の書類提出で証明できるんなら、それはそれでいいと思うけどな。そうしたら、妙な噂も消えるだろうし」
「ふつうの学園生活送ってるだけなのに、なんでプライバシーを公表しなきゃならないんだ。誰がどんな性だろうが関係ない」
「いや、まぁ、そうはそうだけどな」
「それに、たとえ、どんな性だろうが、襲ったほうが百パーセント悪いに決まってるだろ。オメガだったら寮長が配慮してやる義務があるもなにも、手ぇ出そうとするほうを監視しとけよ」
「……」
「と、俺は思うけど」

 言いたいことを言って気が済んだのか、そこでやっと声音がゆるんだ。

「おまえ、それ主張してきたわけ? さっきの会議で」
「もうちょっとオブラートには包んだけど?」
「おまえがそれ言うとさぁ、なんていうか、追い出したのもあたりまえみたいに聞こえるから。その、……うん。まぁ、いいけど」

 後半は自身に言い聞かせるような調子だったが。篠原は「でも、まぁ、よかったな」で話を締めくくった。

「結局、おまえのその言い分が通ったんだろ」
「通ったっていうか、個人情報にかかわることだから、学園側からの許可が下りないと思うよ。でも、そういう声がたびたび上がるってこと自体が、俺はあんまり好きじゃない」
「好きじゃないって」
「オメガだからどうだ、アルファだからどうだ、っていうのが、そもそもとしておかしいだろ」

 呆れた声音を遮るようにして、そう言い切る。飽きもせずそういった反応をするから、向こうも懲りずに同じことを繰り返すのだ。わざわざ言わなくても、本人もわかっているのだろうが。
 わかっているのに改めない時点でどうかと思うが、こちらがなにを言っても変える気はないのだろう。あの夜と同じ答えしか返ってこないのだと思えば、言及する気にはなれなかった。

「だってさ」

 会話に入る気のない調子が気になったらしい篠原に水を向けられて、しかたなく口を開く。
 喧嘩しているなどと気遣われ続けることも面倒だったからだ。

「本尾が言いそうなこと、当ててやろうか?」
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