パーフェクトワールド

木原あざみ

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第三部

パーフェクト・ワールド・エンド13 ①

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[13]


 恋をしてはいけないよ。このまま、きみがアルファであり続けたいのならね。

 ピルケースの中身を数えているうちに、溜息が漏れた。どうにも鬱屈とした気分だ。
 おまけに、落ち込むだけならまだしも、苛々とした攻撃的な感情も混ざっているから、なおさら性質が悪い。

 ――でも、これ、どうやったところで学期末までもたないよな。

 定められた量を服用していればこんなことにはなっていないし、薬をなくしたというのも、自分のことをよく知っている大人に聞かせる言い訳としては無理がある。
 オーバードーズ気味の自覚も、もちろんある。――でも。

「しかたねぇだろ、効かねぇんだから」

 ひとりごちて、ピルケースをベッドに置く。代わりに手に取ったのは、携帯電話だった。好き好んで連絡を取りたい相手ではないが、この場合はしかたがないだろう。
 連絡先を選んで発信しようとしたところで、またひとつ溜息がこぼれた。電話をしたらなにを言われるかの想像は易くて、それがひどく面倒だった。

 ――こんなことを言うと、きみのお母さんには怒られると思うんだけどね。

 苦笑いとしか言いようのない表情で、彼が言ったことを成瀬は覚えている。陵の寮に入る前の話だ。幼いころから診てもらっていたオメガの専門医。全寮制の学校に入学することに最後まで難色を示していたのも彼だった。

 ――そもそもとして、身体ができあがる前から多量の薬を飲むことは、良いことではないんだよ。それでも「常用する」という選択をきみが取ることは、わかっているけれどね。


 あたりまえの話に、ただ成瀬は頷いた。飲まなくて済むのならそれに越したことはなくても、それで済む性に生まれていないのだ。だったら我慢するしかないだろう。
 それなのに、なぜか彼は困ったような笑みを崩さなかった。

 ――薬で抑えることも、もちろん重要だ。けれど、もうひとつ大切なことがあるという話をしたよね。覚えているかな。

 覚えてはいた。わかりきったことを何度も言われることは面倒だったが、素直さを装って頷く。同情心からでも、彼が医者として自分を心配してくれていることはわかっていたからだ。
 第二の性の診断が出てすぐのころからの付き合いなのだ。この病院に通って、もう六年になる。そのあいだ、ずっと彼は自分を気遣っていた。

 ――自律神経が乱れると、フェロモンのバランスは崩れやすくなる。そういう意味では、きみのように強い心を持って平静を保つことは、とても重要なことだ。

 問題ないです、と成瀬は答えた。いまさらだと思いながら。
 いくら寮に入るからと言って、心配しすぎだとも思っていた。念押しされなくても、自分は問題なくやれている。生活環境が変わろうとも、周囲にいる人間が変わろうとも、問題はない。うまくやれる。そう信じていた。アルファなんかに負けるはずがないと思っていた。
 実際に、自分より優れた同年代のアルファに会ったことなんて、一度もなかったのだ。
 あっさりと請け負った成瀬をじっと見つめていた彼が、にこりとほほえんだ。

 ――ところで、きみは恋をしたことがあるのかな。
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