パーフェクトワールド

木原あざみ

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第三部

パーフェクト・ワールド・エンド16 ③

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 でも、表面上いくらそうだったとしても、心の奥までは誰にもわからない。笑っていたからと言って、平気な顔をしているからと言って、傷つかないわけがないし、気にしていないわけがない。
 高藤や茅野のほうが付き合いはずっと長いだろうけれど、自分だからこそ、わかることもあると行人は思っていた。
 だって、自分は「同じ」だから。
 最近のこの学園は、気持ちが悪い。それが行人の率直な思いでもあった。抑えきれなかった不安をとうとう高藤にぶつけた。昨夜のことだ。

 以前から、いろんな噂が流れることはあった。四谷の言うとおり、閉鎖的な学園だからこそ、学内の有名人の一挙一動にみなが注目する。けれど、ここまであからさまにバース性が絡んでくることはなかった。最低限の一線は、きちんと引かれていた。
 それが変わったのは、水城が入ってきてからだ。水城が言わなくてもいいようなことを入学式で公言して、アルファとオメガだけが入会可能だという同好会をつくってからだ。

 ――紹介してやろうか、ハルちゃんに。

 親切心ですといわんばかりの笑顔で話しかけてきたのは、普通科に在籍している数少ないアルファの同級生だった。そのときにはじめて、水城がつくったという「秘密の薔薇結社」の存在を行人は認知した。

 ――紹介?

 思いきり眉をひそめた行人に気を悪くしたふうでもなく、その同級生は嬉々として説明を始めた。

 ――ハルちゃんがつくった同好会があるんだよ。「秘密の薔薇結社」っていうんだけど。本当は、ハルちゃんが認めたアルファしか会員になれないんだけど、オメガは有りだって聞いたから。

 オメガは有りって、なんだよ。癪に障ったが、どうにか文句を呑み込む。これ以上、学内でもめごとを起こすわけにはいかなかったからだ。

 ――「秘密の薔薇結社」は、この学園のアルファとオメガのための集まりなんだよ。
 ――アルファとオメガだけ?
 ――そう。でも、あたりまえだろ。アルファとベータが対等なわけがないんだし。

 差別的なことを当然と言い切って、その同級生は笑った。

 ――中等部に入って、この学園の色に染められて、その「あたりまえ」を忘れるとこだった。よかったわ、本当。ハルちゃんが思い出させてくれて。

 大嫌いな高慢なアルファの顔で告げられた台詞に、行人は必死で感情を抑えた。なにを言っても無駄だと言い聞かせて。けれど、そんなふうに言わせたくは、本当はなかった。
 たとえ、あたりまえじゃなかったのだとしても、行人は、第二の性に左右されないとするこの学園が好きで、――救われてきていたから。
 必要ない、と淡々と断ることが、せいいっぱいだった。

 必要ない。そんな集まりも、なにもかも。この学園には、必要はない。そう思っていたかったのに、また別の日に、行人は「秘密の薔薇結社」の話を聞かされた。特別に集まりに混ぜてもらったのだと言ってはしゃいでいたクラスメイト。彼は、今のこの学園は過渡期なのだと主張していた。
 ハルちゃんという特別なオメガの出現で、変わろうとしているのだ、と。その変化に自分も関わることができるのなら、すごく光栄なことなのだ、と。

 編入生が新しい風を吹き込むことは、必然なのかもしれない。ずっと同じままということがおかしいのかもしれない。
 けれど、行人は変わりたくなかった。あの人がつくってくれたこの場所を守っていきたかった。
 自分の願いに、高藤を巻き込んでいることもわかっていたけれど、それでも、このままでいたかった。


「ごめん、ちょっと出てくる」
「出てくるって、……生徒会室? あと二時間我慢できないわけ?」

 昼休みを半ば過ぎた時間になって席を立った行人に、四谷は呆れた顔を隠さなかった。

「そりゃ、まぁ、教室に行くよりはマシかもしれないけど」
「うん、ごめん」
「……着いて行こうか?」

 こちらの意志が固いと知って折れてくれたらしい。その提案を、大丈夫だからと断って、行人はそのまま教室を出た。
 生徒会室にいるという確証もないし、自分のわがままに付き合わせるわけにもいかない。それに、なによりも、この学園でひとり歩きができない状態になっているとは思いたくなかったのだ。
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