パーフェクトワールド

木原あざみ

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第三部

パーフェクト・ワールド・エンドⅡ 5 ⑥

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「玄関が開いてたなら、大丈夫だと思いますけど」
「あ、俺、鍵持ってるから」

 だから門限は関係がないとも取れる口ぶりに首を傾げたのだが、違う方向に解釈されてしまった。

「そうか。ええとね、茅野と柏木が持ってるのはあたりまえなんだけど、俺と向原も持ってて。その、生徒会権限ってやつで」

 そういう意味ではなかったのだが、「そうだったんですね」と素直に相槌を打つ。生徒会っていろんな権限があるんだなぁ、と感心もしながら。

「そう。まぁ、生徒会役員が素行不良はしないだろうっていう暗黙の了解の上で成り立ってる取り決めなんだけど。ちょっと取り上げられそうになってて」
「え」
「いや、本当に、あいつの閻魔帳はどうなってるんだろうね。おまえはどこそこの日にいなくなってただろう、とか、向原もどこそこはいなかって、もうずらっと並べられちゃって。生徒会への信用度は皆無だとまで言われても、まぁ、ぜんぶ事実だから返す言葉もないんだけど」

 事実なんだ、と思ったものの、態度には出さなかった。校内でふらりと姿を消すという話はたびたび聞いていたけれど、寮でも同様だったらしい。

 ――っていうか、すごいな、茅野さん。成瀬さんにもだけど、向原先輩にも説教できるんだ。

 校内のことはともかくとして、寮の中でのことは俺に決定権があるとは、常日頃から言っている気はするけれど。

「それで、あと一回なんかやらかしたら部屋変えるって宣言されてんの。だから、ちゃんと今日は帰ってきたんだけど」
「……なるほど」

 つまり、めちゃくちゃ業を煮やされているらしいということは伝わってきたのだが、無難な相槌しか繰り出せなかった。
 高藤あたりにもの言いたげな顔をされる原因はこれなんだろうなぁ、ともわかっているのだが、染み込んだ習性というべきなのか、すりこみというべきなのか。とにもかくにも盲信したくなってしまうし、否定的なことを口にする気になれないのだ。

「なんで俺だけって言ったら、直近で目に余ってるのがおまえのほうだからだって、ばっさり。俺のこと暴君暴君って言うけど、あいつも大概だから、本当」

 そう苦笑しているものの、彼の口調は優しかった。つられたように、小さな笑みが浮かぶ。そこで、行人は、こんなふうにふたりで話すこともひさしぶりだったのだと気がついた。
 だから、気を使ってどうでもいいような話をしてくれていたのかもしれない。遅ればせながら、そう思い至る。
 口数が少ないとまでは言わないけれど、自分のことはほとんどと言っていいほど話さない人だし、愚痴のようなことも言わない人だ。

「茅野さんらしいですね、なんか」
「まぁ、そうなんだけどね。なにをどう言えば効果的なのかわかってるから厄介というか。このあいだも、最終的には、なんならまたおまえらふたりを同室に戻してやってもいいが、流血沙汰を起こされてもたまらんからな、とか言ってたからね。まったく信用がない」
「流血沙汰って、成瀬さん向原先輩と喧嘩したりするんですか?」
「ん? しないよ」

 したことなんて一度もないと言わんばかりの顔で否定されてしまったのだが、そんなことはないと思う。そうでなければ、この一ヶ月ほどの胃の痛みはなんだったのだという話になってしまうではないか。
 手の出る喧嘩はしない、という意味だったのかもしれないけれど。不納得の雰囲気がにじんでいたのか、取り成すように成瀬が笑った。

「というか、あいつはね、普段怒らない分、したら駄目な人間」
「駄目な人間?」
「そう。喧嘩に強い人間ってね、二種類いると俺は思うんだけど。純粋に、空手とかボクシングとか、そういったものをやってて強いっていう人種と、暴力を振るうことに躊躇がないから強い人種。で、前者は話せばわかるけど、後者はそうはいかない。だから、絡まないで済むなら絡まないに越したことはない」

 そう説明してみせた成瀬が、内緒話をするように声をひそめる。

「ちなみにね。向原は後者だけど、本尾はああ見えて前者。篠原も前者。あいつなんだかんだでまともだから。で、茅野は後者」

 なんだかあまり知りたくない情報だった。特に最後は。黙り込んだ行人に、成瀬がにこりとほほえんだ。
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