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第三部
パーフェクト・ワールド・エンドⅡ 8 ⑥
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「そう、……だったんだ」
怒っている原因がそこにあるとは思っていなかったから、歯切れの悪い返事にしかならなかった。
なんだかんだと言ったところで真面目で情の厚い人間だから、自分のことのように腹を立ててくれたのだろうとわかっても、なんだかちょっと落ち着かない。
「そうなんだよ。まぁ、成瀬さんは、べつに水城に対して怒ってはなかったと思うけど」
「え? でも……」
「このあいだのことを言ってるなら、あれ、完全なパフォーマンスだよ。感情的な部分では怒ってなかった。そもそも、あの人が感情的に怒ったところって、俺、見たことないし。もちろん、叱られたことはあるけどね」
「でも、じゃあ……だったら、なんで」
「だから、パフォーマンスでしょ」
行人の戸惑いを、高藤はあっさりと一蹴した。
「実際、あれでまたちょっと潮目は変わったしね。良くも悪くも、あの人の公のために動いてるだけだと思うし。でも、俺はいいひとではないし、そこまで割り切ったこともできないから。せめて、これからすることに私的な感情が混じることは、自覚しておこうと思ってるんだけど」
なにを言っていいかわからないまま、「あたりまえだろ」とだけ行人は言った。あたりまえだとは思ったからだ。
成瀬のことをすごいとは思っているけれど、だからと言って、高藤の言ったことが間違っているとも思わない。
「そうかもしれないけど。でも、それは俺の問題で。……だから、まぁ、さっきも言ったけど、ぜんぶ榛名のせいじゃないから、これは本当に」
ちゃんと言っておこうとは思ってたから、話せてよかった、とも高藤は言った。
――おまえのせいじゃないから、か。
随分と前にも、そんな言葉をかけてもらったことがあった。そのことをなぜか行人は思い出していた。
ちょうど三年前のことだ。この学園に入ったばかりで、ずっと気を張っていて、そうでなくても、キャパオーバーになりそうなことがあって。
精神的にもギリギリで、その状態で踏みとどまることができたのは、成瀬が手を差し伸べてくれたからだった。けれど、なにも言わないでただ近くにいてくれた高藤の存在のおかげでもあった。
なかなか素直に認めることはできなかったけれど、でも、そうだった。
「俺もやる」
そう思ったら、その言葉はするりと零れ落ちていた。責任感が強いことも知っている。倫理観も真っ当で、だから、同じ学年で水城の対抗馬になれるのが自分しかいないとなったら、矢面に立てるのだということも。
でも、だからと言って、ひとりで泥を被らないでほしかった。自分も関わってしまっていると思うことだからこそ、余計に。
「俺もって……」
「いや、べつに、たいしたことできないし、生徒会に入るとか、そういう話ではないけど」
戸惑った顔に向かって、行人は迷いながらも言い募った。らしくないことを言ったような気もするし、「やる」と言ったところで、自分にできるようなことはさしてないだろうとわかっている。……でも。
「その、こんなふうに話聞くくらいなできるし、もしかしたら、それですっきりすることもあるかもしれないし」
高藤はなにも言わない。どう思われてるんだろうと不安になりながらも、さらに言葉を紡ぐ。
「だから、あんまりなんでもひとりでやろうってすんなよ」
すべてが終わってから、「もうここは安全ですよ」と告げられても、なにもうれしくはない。上級生にやられても寂しさや多少の不満はあるくらいだ。
それなのに、手伝えるはずの、一緒にやっていくこともできるはずの、同級生になんて、絶対やられたくない。
そう思うのが自分のプライドなのか、なになのかはわからなかったけれど。
「そうだよな。榛名に言われるとは思わなかったけど」
そこでようやくそう言って、高藤が小さく笑った。苦笑というよりは、すこし力の抜けたようなそれで。
俺に言われるとはってどういう意味だよ、と思ったけれど、受け入れてもらえたことへの安堵が強くて、ぎこちなく笑うことしかできなかった。その顔をもう一度じっと見つめてから、高藤が頷く。
「俺も、そう思う」
怒っている原因がそこにあるとは思っていなかったから、歯切れの悪い返事にしかならなかった。
なんだかんだと言ったところで真面目で情の厚い人間だから、自分のことのように腹を立ててくれたのだろうとわかっても、なんだかちょっと落ち着かない。
「そうなんだよ。まぁ、成瀬さんは、べつに水城に対して怒ってはなかったと思うけど」
「え? でも……」
「このあいだのことを言ってるなら、あれ、完全なパフォーマンスだよ。感情的な部分では怒ってなかった。そもそも、あの人が感情的に怒ったところって、俺、見たことないし。もちろん、叱られたことはあるけどね」
「でも、じゃあ……だったら、なんで」
「だから、パフォーマンスでしょ」
行人の戸惑いを、高藤はあっさりと一蹴した。
「実際、あれでまたちょっと潮目は変わったしね。良くも悪くも、あの人の公のために動いてるだけだと思うし。でも、俺はいいひとではないし、そこまで割り切ったこともできないから。せめて、これからすることに私的な感情が混じることは、自覚しておこうと思ってるんだけど」
なにを言っていいかわからないまま、「あたりまえだろ」とだけ行人は言った。あたりまえだとは思ったからだ。
成瀬のことをすごいとは思っているけれど、だからと言って、高藤の言ったことが間違っているとも思わない。
「そうかもしれないけど。でも、それは俺の問題で。……だから、まぁ、さっきも言ったけど、ぜんぶ榛名のせいじゃないから、これは本当に」
ちゃんと言っておこうとは思ってたから、話せてよかった、とも高藤は言った。
――おまえのせいじゃないから、か。
随分と前にも、そんな言葉をかけてもらったことがあった。そのことをなぜか行人は思い出していた。
ちょうど三年前のことだ。この学園に入ったばかりで、ずっと気を張っていて、そうでなくても、キャパオーバーになりそうなことがあって。
精神的にもギリギリで、その状態で踏みとどまることができたのは、成瀬が手を差し伸べてくれたからだった。けれど、なにも言わないでただ近くにいてくれた高藤の存在のおかげでもあった。
なかなか素直に認めることはできなかったけれど、でも、そうだった。
「俺もやる」
そう思ったら、その言葉はするりと零れ落ちていた。責任感が強いことも知っている。倫理観も真っ当で、だから、同じ学年で水城の対抗馬になれるのが自分しかいないとなったら、矢面に立てるのだということも。
でも、だからと言って、ひとりで泥を被らないでほしかった。自分も関わってしまっていると思うことだからこそ、余計に。
「俺もって……」
「いや、べつに、たいしたことできないし、生徒会に入るとか、そういう話ではないけど」
戸惑った顔に向かって、行人は迷いながらも言い募った。らしくないことを言ったような気もするし、「やる」と言ったところで、自分にできるようなことはさしてないだろうとわかっている。……でも。
「その、こんなふうに話聞くくらいなできるし、もしかしたら、それですっきりすることもあるかもしれないし」
高藤はなにも言わない。どう思われてるんだろうと不安になりながらも、さらに言葉を紡ぐ。
「だから、あんまりなんでもひとりでやろうってすんなよ」
すべてが終わってから、「もうここは安全ですよ」と告げられても、なにもうれしくはない。上級生にやられても寂しさや多少の不満はあるくらいだ。
それなのに、手伝えるはずの、一緒にやっていくこともできるはずの、同級生になんて、絶対やられたくない。
そう思うのが自分のプライドなのか、なになのかはわからなかったけれど。
「そうだよな。榛名に言われるとは思わなかったけど」
そこでようやくそう言って、高藤が小さく笑った。苦笑というよりは、すこし力の抜けたようなそれで。
俺に言われるとはってどういう意味だよ、と思ったけれど、受け入れてもらえたことへの安堵が強くて、ぎこちなく笑うことしかできなかった。その顔をもう一度じっと見つめてから、高藤が頷く。
「俺も、そう思う」
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