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第三部
パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 1 ①
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[1]
「成瀬さん」
ちょっといいですか、とかけられた声に、生徒会室に向かうところだった足を止めて、成瀬は振り返った。
一番、二番と言っていいくらいにかわいがっている後輩の声だ。自然と柔らかな笑みが浮かぶ。
「行人」
ひさしぶり、と言いかけた言葉を呑み込んで、どうしたの、と問いかける。ぱたぱたと近づいてきた行人が、ほっとした顔で胸を押さえた。
「よかった、会えて」
新学期が始まって一週間。来月から本格的になる生徒会選挙の準備にかこつけて寮にいる時間を減らしていたから、声をかけるタイミングがなかったのかもしれない。
そう思い至ると、途端に申し訳ない気持ちが湧いてくる。
「ごめんな、最近あんまり寮にいなくて」
「あ、……いえ、ちょっと俺が話したかっただけなので。その、高藤に聞いたら、生徒会室に行くのが一番早いって言ってたから、それで。授業終わったらすぐ来るつもりだったんですけど、ちょっと遅くなっちゃって」
でも、会えてよかった、とはにかむ衒いのない調子に、うん、と頷いてから背後の生徒会室に視線を向ける。
「生徒会室でよかったら来る?」
「え……」
「今、誰もいないから」
「そうなんですか。あ、……もしかして、すごく忙しかったり」
「いや、まぁ、忙しいと言えば忙しいんだけど。ほら、十月の終わりに選挙があるでしょ。と言っても、俺は今日外に出る予定はないから」
どうしようかと迷っている顔に、おいで、と手招いて成瀬は歩き出した。少し遅れて着いてきた足音を確認して、生徒会室にこもることになった事情を明かす。
「というか、俺が出る予定だった会議、ぜんぶ取られちゃって。だから本当に暇なの」
「取られる、ですか」
「そう、そう。篠原がこれ以上余計な火種つくるなってうるさくて。夏季休暇に入る前の会議で、ちょっとつついただけだったんだけど。それが気に入らなかったみたいなんだよね」
「え?」
「ごめん、嘘」
驚くを通り越して固まっているのが気の毒になって、冗談めかすことを選ぶ。まぁ、なにひとつ嘘ではなかったのだが、知らなかったのなら、しかたがない。
「……え?」
「嘘というか、冗談というか。皓太に経験積んでもらおうと思って、代わりに行ってもらっただけ」
「あぁ、そっか。そうですよね」
生徒会室の鍵を開けながらそう説明すれば、行人が納得した顔になった。
皓太が会長選に出るという話のほうは、さすがに聞き及んでいたらしい。
――そこは最低限よかったとしても、もうちょっと話してもいいと思うんだけどな。
あいかわらずと言うべきなのか、行人が心配しそうなことは、ぜんぶ自分で呑み込んでいるようだ。
幼いころから構いすぎたせいか、もともとの生まれ持った性が、ふたつ年下の幼馴染みは、昔から精神的に大人びていた。同級生ではなく、自分たちといるほうが話も合っておもしろいという程度には。
信頼できる仲間をつくったほうがいいと言ったとき、信頼できる仲間とやっていきたいと皓太は答えてはいたけれど。その仲間の頭数に本当の意味で何人を入れることができているのか、少し気になっていたのだ。
とは言え、そこまでのことをこの場で口に出すつもりはなかったので、苦笑気味に「そう、そう」と相槌を打つに留める。
「なにごとも経験だしね。まぁ、篠原には着いて行ってもらってるんだけど。向原はもともと入ってた別の会議に出てるし。どっちにしろ、しばらくはみんな帰ってこないかな。ほかの子も今日は出てもらってるから」
「そうなんですか」
「うん、だから遠慮しなくていいよ」
本当に中に誰もいなかったことに安心したのか、肩の力が抜けた様子で、室内を物珍しそうに見渡している。
――そういえば、最近……というか、高等部入ってから来てなかったな。
中等部にいたころは、もう少し頻繁に顔を出してくれていた気がするから、おそらく遠慮をしていたのだろう。
篠原などは、「向原にひるまず顔を出し続けているあたり、見かけによらず神経が太い」と面白がっていたけれど。
「そこ、座る? いつも皓太が使ってるとこだけど」
ほかの席より座りやすいだろうと勧めると、そうしますと頷いた行人が椅子を引いた。座ってからも、その視線は興味深そうに机の周りに注がれている。
ほほえましく思いながら、隣に椅子を持ってきて成瀬は話しかけた。
「ちゃんときれいに使ってるでしょ、性格出るよね」
「寮の部屋も、たしかにきれいですね、昔から」
「だろうね。――それで、どうしたの。なんの用だった?」
「あ、えっと……」
そこで、行人は律義に座り直して姿勢を正した。
「用事っていうほどのことではなかったんですけど」
「うん」
「終業式の前に相談してたことで、ちょっと聞いてもらいたいことがあって」
「成瀬さん」
ちょっといいですか、とかけられた声に、生徒会室に向かうところだった足を止めて、成瀬は振り返った。
一番、二番と言っていいくらいにかわいがっている後輩の声だ。自然と柔らかな笑みが浮かぶ。
「行人」
ひさしぶり、と言いかけた言葉を呑み込んで、どうしたの、と問いかける。ぱたぱたと近づいてきた行人が、ほっとした顔で胸を押さえた。
「よかった、会えて」
新学期が始まって一週間。来月から本格的になる生徒会選挙の準備にかこつけて寮にいる時間を減らしていたから、声をかけるタイミングがなかったのかもしれない。
そう思い至ると、途端に申し訳ない気持ちが湧いてくる。
「ごめんな、最近あんまり寮にいなくて」
「あ、……いえ、ちょっと俺が話したかっただけなので。その、高藤に聞いたら、生徒会室に行くのが一番早いって言ってたから、それで。授業終わったらすぐ来るつもりだったんですけど、ちょっと遅くなっちゃって」
でも、会えてよかった、とはにかむ衒いのない調子に、うん、と頷いてから背後の生徒会室に視線を向ける。
「生徒会室でよかったら来る?」
「え……」
「今、誰もいないから」
「そうなんですか。あ、……もしかして、すごく忙しかったり」
「いや、まぁ、忙しいと言えば忙しいんだけど。ほら、十月の終わりに選挙があるでしょ。と言っても、俺は今日外に出る予定はないから」
どうしようかと迷っている顔に、おいで、と手招いて成瀬は歩き出した。少し遅れて着いてきた足音を確認して、生徒会室にこもることになった事情を明かす。
「というか、俺が出る予定だった会議、ぜんぶ取られちゃって。だから本当に暇なの」
「取られる、ですか」
「そう、そう。篠原がこれ以上余計な火種つくるなってうるさくて。夏季休暇に入る前の会議で、ちょっとつついただけだったんだけど。それが気に入らなかったみたいなんだよね」
「え?」
「ごめん、嘘」
驚くを通り越して固まっているのが気の毒になって、冗談めかすことを選ぶ。まぁ、なにひとつ嘘ではなかったのだが、知らなかったのなら、しかたがない。
「……え?」
「嘘というか、冗談というか。皓太に経験積んでもらおうと思って、代わりに行ってもらっただけ」
「あぁ、そっか。そうですよね」
生徒会室の鍵を開けながらそう説明すれば、行人が納得した顔になった。
皓太が会長選に出るという話のほうは、さすがに聞き及んでいたらしい。
――そこは最低限よかったとしても、もうちょっと話してもいいと思うんだけどな。
あいかわらずと言うべきなのか、行人が心配しそうなことは、ぜんぶ自分で呑み込んでいるようだ。
幼いころから構いすぎたせいか、もともとの生まれ持った性が、ふたつ年下の幼馴染みは、昔から精神的に大人びていた。同級生ではなく、自分たちといるほうが話も合っておもしろいという程度には。
信頼できる仲間をつくったほうがいいと言ったとき、信頼できる仲間とやっていきたいと皓太は答えてはいたけれど。その仲間の頭数に本当の意味で何人を入れることができているのか、少し気になっていたのだ。
とは言え、そこまでのことをこの場で口に出すつもりはなかったので、苦笑気味に「そう、そう」と相槌を打つに留める。
「なにごとも経験だしね。まぁ、篠原には着いて行ってもらってるんだけど。向原はもともと入ってた別の会議に出てるし。どっちにしろ、しばらくはみんな帰ってこないかな。ほかの子も今日は出てもらってるから」
「そうなんですか」
「うん、だから遠慮しなくていいよ」
本当に中に誰もいなかったことに安心したのか、肩の力が抜けた様子で、室内を物珍しそうに見渡している。
――そういえば、最近……というか、高等部入ってから来てなかったな。
中等部にいたころは、もう少し頻繁に顔を出してくれていた気がするから、おそらく遠慮をしていたのだろう。
篠原などは、「向原にひるまず顔を出し続けているあたり、見かけによらず神経が太い」と面白がっていたけれど。
「そこ、座る? いつも皓太が使ってるとこだけど」
ほかの席より座りやすいだろうと勧めると、そうしますと頷いた行人が椅子を引いた。座ってからも、その視線は興味深そうに机の周りに注がれている。
ほほえましく思いながら、隣に椅子を持ってきて成瀬は話しかけた。
「ちゃんときれいに使ってるでしょ、性格出るよね」
「寮の部屋も、たしかにきれいですね、昔から」
「だろうね。――それで、どうしたの。なんの用だった?」
「あ、えっと……」
そこで、行人は律義に座り直して姿勢を正した。
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「うん」
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