パーフェクトワールド

木原あざみ

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第三部

パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 2 ⑦

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「それはそうとして、ハルちゃんが気持ち悪いくらい大人しいって言ってたの、取り消すわ。いいのか、あれ。ほっといて」
「あいつには言うなよ」
「言うなもなにも、いまさらどうとも思わねぇだろ、その点に関しては」

 それもまた、完全に呆れ切った調子だった。

「でも、まぁ、三年経っても燻ってるのを目の当たりにすると……、なんだ。あいつが気にする気にしないっていうのはちょっと置いておいたとしても、おまえの『変に首突っ込むな』が正しかったんだろうな、とは思うわ、本当」
「聞く気ゼロだったけどな」
「成瀬だしな。……でもって言うと、おまえはいい気しないと思うけど、榛名にとっては成瀬がいてよかったんだと思うけどな。そうじゃなかったら、今、あんなふうに元気にしてないだろ」

 それも、最初から関わるなって言ってたんだけどな、ということは口にしないまま、視線を向ける。非難が含まれていると思ったのか、「だって、そうだろ」と篠原がわずかに苦笑をこぼした。

「そこくらい認めてやれよ。多少の面倒はあってもおさまった話だし、直接会いに行ったハルちゃんの行動力には恐れ入ったけど、それでなにができるってわけでもなし」
「べつに」

 ただ、呆れていただけだ。
 オメガと関わって、ろくなことになるのか、と、ずっと忠告はしていた。その忠告に従わなかったから、ろくでもない結果になっている。
 向原には、悪気のかけらもない分、榛名のほうが水城よりも性質が悪く見えていた。

「どっちかって言うと、俺は、成瀬が現在進行形で敵つくりまくって遊んでることのほうが気になんだけど」

 そう言えば、夏季休暇に入る前にも、生徒会室で何度かやり合っていた。言っても聞かないとわかっているのに、律義に苦言を呈していたあたり、本当に無駄に人が良い。

「休みの前に笑って言ってたの、絶対、本気だぞ、あいつ。向こうが先に手ぇ出してくれるまでの待ちの態勢に完全に入ってるし。本当、そういうとこ性格悪い」
「それこそ、いまさらだろ」
「そうだけど。殴られてやる程度で済めばラッキーだと思ってんのか、その程度で済まなくてもべつにいいって踏んでんのかも知らねぇけど、いくらあいつが良くても、見てるこっちがさすがに気になる」
「おまえ、そういうとこ人間できてるよな」
「人間できて……って、あたりまえだわ。というか、あいつが規格外すぎんの、いろいろと」

 おまえも規格外だけど、と言いつつ、それに、ともうひとつの懸念をこぼす。

「風紀は風紀で妙に大人しいし」

 水城を追い払って以降、目立った動きのひとつも取っていないことが、気にかかっていたらしい。

「あいつ、昔から、なにもしてない顔して、最後に一番おいしいとこしらっと取ってくからなぁ」
「まぁ、そうかもな」
「なぁ」

 おざなりな相槌をものともせず、会話を続けてこようとする。しかたなく、向原は問い返した。

「なんだよ、次は」
「おまえ、なんで、水城のこと、ここまで放っておいたわけ? 前聞いたときは、なんか似非くさいこと言ってたけど」

 真面目に尋ねてきているらしい顔を一瞥して、かすかな笑みを浮かべてみせる。いまさらだったからだ。もう事態は転がるところまで転がりきっている。

「物事を動かすには、ある程度の悪ってやつが必要だからな。ちょうどよかったんだ」

 この歪なバランスの学園を、内側から歪だと糾弾する存在。それが、いるはずのない――それでいて絶対的に庇護されていたオメガで、成瀬が甘い顔をする「年下」の「弱い」存在であれば、なおのこと。
 直接、本尾が潰そうとしても、こうはいかなかっただろう。だから、あの男も、体よく利用しているのだ。
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