パーフェクトワールド

木原あざみ

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第三部

パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 5 ③

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「あぁ、そういう」

 解釈もあるのかと素直に納得したのだが、火に油だったらしい。もともと注ぐつもりだったので、それはそれでいいのだが、「おまえのそういうところがものすごく腹が立つ」というようなことを言われてしまったので、一度方向性を変えることにした。ちょうど気になってもいたのだ。

「長峰って、そんなに本気で水城のこと好きなの?」

 そんなことを聞かれるとは思っていなかったのか、対峙していた顔から、虚を突かれたように険が抜ける。その顔を見つめたまま、淡々と成瀬は続けた。

「正直、よくわからないな」

 役に立つ相手だから、水城が気分が良くなるように転がしていた結果なのか。それとも、オメガとするのは、そんなにやみつきになるものなのだろうか。
 それとも――、もっと純粋に、あの性格も含めて好きだとでも言いたいのだろうか。
 黙って聞いていた長峰が、そこで小さく溜息を吐いた。先ほどまでとは違う、落ち着いた調子で応じる。

「まぁ、いい子だからな。おまえがどう思ってるかは聞きたくねぇけど、少なくとも、俺にとって」

 ――いい子か。

 まぁ、いい性格をしているとは思うが。どう思ってるかは聞きたくないと制されてしまっていたので、もうひとつ問いかける。

「好きだっていうのに、ほかの男と水城が寝るのはよかったんだ?」
「しかたないだろ」

 半ば自分自身に言い聞かせている言い方なのに、残りの半分は本当にそう思っているような雰囲気であることが、やはりよくわからなかった。

「つがいになんてできないんだ。それなのに勝手なこと言えないだろ。あの子も、ちゃんとわかってる」

 自分ではこの学園に通うアルファのつがいにはなれないと、そうわきまえていると言わんばかりの台詞に、「へぇ」と揶揄するように笑う。
 アルファの上からの理論にはいいかげん慣れていたつもりだが、明確に少し腹が立ったのだ。そもそもどうして、選ぶ権限もすべて自分にあると思っているのか。とは言え、その思考回路自体はよくよくわかりはするのだが。
 そういうふうにできているのだ。アルファという生き物のほとんどは。

「本当に好きなら、べつにできないなんてことはないと思うけど」
「……おまえも、おまえに懐いてたオメガ、つがいにしなかっただろうが。それと一緒だ」
「行人のこと?」

 一緒にされたくはないな、と思いながらも、苦笑いを返す。

「それだったら、皓太に任せるほうが適任だって判断しただけだけど」
「適任?」
「そう、適任。行人は皓太のことが好きだし、皓太もそうだ。だったら、そうするのが自然だろ。俺の出る幕じゃない」
「出る幕じゃない、ね」

 そう繰り返した長峰が、やり返すように笑った。

「つがいにできるわけがないからか?」
「またそれ?」

 困ったように、成瀬は再び苦笑してみせた。夏季休暇前にも一度言われた話だ。そのときも、煽ってようやく飛び出した、という程度ではあったわけだが。
 重要なのは「そういう噂があること」を認識して多少なりとも意識していることだ。

「べつにどう思われてもかまわないんだけど。……まぁ、かまわないというか、疑ってる人間になに言ったところで意味もないと思うし」

 IDを提示して黙らせるような野暮な真似をするつもりもないし、地雷が水城であることにも間違いはない。

 ーーまぁ、あと一押し、二押しってところかな。

「でも、そうだな」

 そう踏んで、にこりと成瀬はほほえんだ。母に似ていると評される自分の顔は好きではない。けれど、どういうふうに表情をつくれば、そう見えるのかは知っている。

「そんなに気になるなら、確かめさせてやろうか?」

 相手の顔色が変わったタイミングで、「まぁ、冗談だけど」と、いつもの調子で笑う。

「でも、似てただろ、水城に」

 こういう言い方、選ぶと思ったんだよな、と軽く嘲る。
 長峰の反応で、水城ならそうするだろうという予想でしかなかったものが、確信に変わった。
 わかりやすく、あからさまに。オメガだと主張するやり方で。アルファを誘って、秩序を壊した。
 異分子だと承知の上で自分が放置していた過去が今を生んだのだとしたら、正してから終わるべきだ。
 それに、とも思う。そのくらいしてやらないと、皓太に対しても申し訳が立たない。
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