346 / 484
第三部
パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 5 ③
しおりを挟む
「あぁ、そういう」
解釈もあるのかと素直に納得したのだが、火に油だったらしい。もともと注ぐつもりだったので、それはそれでいいのだが、「おまえのそういうところがものすごく腹が立つ」というようなことを言われてしまったので、一度方向性を変えることにした。ちょうど気になってもいたのだ。
「長峰って、そんなに本気で水城のこと好きなの?」
そんなことを聞かれるとは思っていなかったのか、対峙していた顔から、虚を突かれたように険が抜ける。その顔を見つめたまま、淡々と成瀬は続けた。
「正直、よくわからないな」
役に立つ相手だから、水城が気分が良くなるように転がしていた結果なのか。それとも、オメガとするのは、そんなにやみつきになるものなのだろうか。
それとも――、もっと純粋に、あの性格も含めて好きだとでも言いたいのだろうか。
黙って聞いていた長峰が、そこで小さく溜息を吐いた。先ほどまでとは違う、落ち着いた調子で応じる。
「まぁ、いい子だからな。おまえがどう思ってるかは聞きたくねぇけど、少なくとも、俺にとって」
――いい子か。
まぁ、いい性格をしているとは思うが。どう思ってるかは聞きたくないと制されてしまっていたので、もうひとつ問いかける。
「好きだっていうのに、ほかの男と水城が寝るのはよかったんだ?」
「しかたないだろ」
半ば自分自身に言い聞かせている言い方なのに、残りの半分は本当にそう思っているような雰囲気であることが、やはりよくわからなかった。
「つがいになんてできないんだ。それなのに勝手なこと言えないだろ。あの子も、ちゃんとわかってる」
自分ではこの学園に通うアルファのつがいにはなれないと、そうわきまえていると言わんばかりの台詞に、「へぇ」と揶揄するように笑う。
アルファの上からの理論にはいいかげん慣れていたつもりだが、明確に少し腹が立ったのだ。そもそもどうして、選ぶ権限もすべて自分にあると思っているのか。とは言え、その思考回路自体はよくよくわかりはするのだが。
そういうふうにできているのだ。アルファという生き物のほとんどは。
「本当に好きなら、べつにできないなんてことはないと思うけど」
「……おまえも、おまえに懐いてたオメガ、つがいにしなかっただろうが。それと一緒だ」
「行人のこと?」
一緒にされたくはないな、と思いながらも、苦笑いを返す。
「それだったら、皓太に任せるほうが適任だって判断しただけだけど」
「適任?」
「そう、適任。行人は皓太のことが好きだし、皓太もそうだ。だったら、そうするのが自然だろ。俺の出る幕じゃない」
「出る幕じゃない、ね」
そう繰り返した長峰が、やり返すように笑った。
「つがいにできるわけがないからか?」
「またそれ?」
困ったように、成瀬は再び苦笑してみせた。夏季休暇前にも一度言われた話だ。そのときも、煽ってようやく飛び出した、という程度ではあったわけだが。
重要なのは「そういう噂があること」を認識して多少なりとも意識していることだ。
「べつにどう思われてもかまわないんだけど。……まぁ、かまわないというか、疑ってる人間になに言ったところで意味もないと思うし」
IDを提示して黙らせるような野暮な真似をするつもりもないし、地雷が水城であることにも間違いはない。
ーーまぁ、あと一押し、二押しってところかな。
「でも、そうだな」
そう踏んで、にこりと成瀬はほほえんだ。母に似ていると評される自分の顔は好きではない。けれど、どういうふうに表情をつくれば、そう見えるのかは知っている。
「そんなに気になるなら、確かめさせてやろうか?」
相手の顔色が変わったタイミングで、「まぁ、冗談だけど」と、いつもの調子で笑う。
「でも、似てただろ、水城に」
こういう言い方、選ぶと思ったんだよな、と軽く嘲る。
長峰の反応で、水城ならそうするだろうという予想でしかなかったものが、確信に変わった。
わかりやすく、あからさまに。オメガだと主張するやり方で。アルファを誘って、秩序を壊した。
異分子だと承知の上で自分が放置していた過去が今を生んだのだとしたら、正してから終わるべきだ。
それに、とも思う。そのくらいしてやらないと、皓太に対しても申し訳が立たない。
解釈もあるのかと素直に納得したのだが、火に油だったらしい。もともと注ぐつもりだったので、それはそれでいいのだが、「おまえのそういうところがものすごく腹が立つ」というようなことを言われてしまったので、一度方向性を変えることにした。ちょうど気になってもいたのだ。
「長峰って、そんなに本気で水城のこと好きなの?」
そんなことを聞かれるとは思っていなかったのか、対峙していた顔から、虚を突かれたように険が抜ける。その顔を見つめたまま、淡々と成瀬は続けた。
「正直、よくわからないな」
役に立つ相手だから、水城が気分が良くなるように転がしていた結果なのか。それとも、オメガとするのは、そんなにやみつきになるものなのだろうか。
それとも――、もっと純粋に、あの性格も含めて好きだとでも言いたいのだろうか。
黙って聞いていた長峰が、そこで小さく溜息を吐いた。先ほどまでとは違う、落ち着いた調子で応じる。
「まぁ、いい子だからな。おまえがどう思ってるかは聞きたくねぇけど、少なくとも、俺にとって」
――いい子か。
まぁ、いい性格をしているとは思うが。どう思ってるかは聞きたくないと制されてしまっていたので、もうひとつ問いかける。
「好きだっていうのに、ほかの男と水城が寝るのはよかったんだ?」
「しかたないだろ」
半ば自分自身に言い聞かせている言い方なのに、残りの半分は本当にそう思っているような雰囲気であることが、やはりよくわからなかった。
「つがいになんてできないんだ。それなのに勝手なこと言えないだろ。あの子も、ちゃんとわかってる」
自分ではこの学園に通うアルファのつがいにはなれないと、そうわきまえていると言わんばかりの台詞に、「へぇ」と揶揄するように笑う。
アルファの上からの理論にはいいかげん慣れていたつもりだが、明確に少し腹が立ったのだ。そもそもどうして、選ぶ権限もすべて自分にあると思っているのか。とは言え、その思考回路自体はよくよくわかりはするのだが。
そういうふうにできているのだ。アルファという生き物のほとんどは。
「本当に好きなら、べつにできないなんてことはないと思うけど」
「……おまえも、おまえに懐いてたオメガ、つがいにしなかっただろうが。それと一緒だ」
「行人のこと?」
一緒にされたくはないな、と思いながらも、苦笑いを返す。
「それだったら、皓太に任せるほうが適任だって判断しただけだけど」
「適任?」
「そう、適任。行人は皓太のことが好きだし、皓太もそうだ。だったら、そうするのが自然だろ。俺の出る幕じゃない」
「出る幕じゃない、ね」
そう繰り返した長峰が、やり返すように笑った。
「つがいにできるわけがないからか?」
「またそれ?」
困ったように、成瀬は再び苦笑してみせた。夏季休暇前にも一度言われた話だ。そのときも、煽ってようやく飛び出した、という程度ではあったわけだが。
重要なのは「そういう噂があること」を認識して多少なりとも意識していることだ。
「べつにどう思われてもかまわないんだけど。……まぁ、かまわないというか、疑ってる人間になに言ったところで意味もないと思うし」
IDを提示して黙らせるような野暮な真似をするつもりもないし、地雷が水城であることにも間違いはない。
ーーまぁ、あと一押し、二押しってところかな。
「でも、そうだな」
そう踏んで、にこりと成瀬はほほえんだ。母に似ていると評される自分の顔は好きではない。けれど、どういうふうに表情をつくれば、そう見えるのかは知っている。
「そんなに気になるなら、確かめさせてやろうか?」
相手の顔色が変わったタイミングで、「まぁ、冗談だけど」と、いつもの調子で笑う。
「でも、似てただろ、水城に」
こういう言い方、選ぶと思ったんだよな、と軽く嘲る。
長峰の反応で、水城ならそうするだろうという予想でしかなかったものが、確信に変わった。
わかりやすく、あからさまに。オメガだと主張するやり方で。アルファを誘って、秩序を壊した。
異分子だと承知の上で自分が放置していた過去が今を生んだのだとしたら、正してから終わるべきだ。
それに、とも思う。そのくらいしてやらないと、皓太に対しても申し訳が立たない。
11
あなたにおすすめの小説
結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした
紫
BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。
実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。
オメガバースでオメガの立場が低い世界
こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです
強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です
主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です
倫理観もちょっと薄いです
というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります
※この主人公は受けです
【完結】それ以上近づかないでください。
ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」
地味で冴えない小鳥遊凪は、ずっと憧れていた蓮見馨に勢いで告白してしまう。
するとまさかのOK。夢みたいな日々が始まった……はずだった。
だけど、ある出来事をきっかけに二人の関係はあっけなく終わる。
過去を忘れるために転校した凪は、もう二度と馨と会うことはないと思っていた。
ところが、ひょんなことから再会してしまう。
しかも、久しぶりに会った馨はどこか様子が違っていた。
「今度は、もう離さないから」
「お願いだから、僕にもう近づかないで…」
普通のβだった俺は
りん
BL
普通の大学生として過ごす白瀬凪が、αの先輩に絡まれる話
凪は普通の大学生だ。βで、容姿も中身も平均値ぐらいだと認識している。ある日、大学でもよく噂されている先輩に声をかけられる。先輩の独特の雰囲気と空気に、次第に巻き込まれていく凪。
書き殴り状態なので少しずつ修正するつもりですです…。
流れる星、どうかお願い
ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる)
オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年
高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼
そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ
”要が幸せになりますように”
オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ
王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに!
一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので
ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが
お付き合いください!
いい加減観念して結婚してください
彩根梨愛
BL
平凡なオメガが成り行きで決まった婚約解消予定のアルファに結婚を迫られる話
元々ショートショートでしたが、続編を書きましたので短編になりました。
2025/05/05時点でBL18位ありがとうございます。
作者自身驚いていますが、お楽しみ頂き光栄です。
【完結】この契約に愛なんてないはずだった
なの
BL
劣勢オメガの翔太は、入院中の母を支えるため、昼夜問わず働き詰めの生活を送っていた。
そんなある日、母親の入院費用が払えず、困っていた翔太を救ったのは、冷静沈着で感情を見せない、大企業副社長・鷹城怜司……優勢アルファだった。
数日後、怜司は翔太に「1年間、仮の番になってほしい」と持ちかける。
身体の関係はなし、報酬あり。感情も、未来もいらない。ただの契約。
生活のために翔太はその条件を受け入れるが、理性的で無表情なはずの怜司が、ふとした瞬間に見せる優しさに、次第に心が揺らいでいく。
これはただの契約のはずだった。
愛なんて、最初からあるわけがなかった。
けれど……二人の距離が近づくたびに、仮であるはずの関係は、静かに熱を帯びていく。
ツンデレなオメガと、理性を装うアルファ。
これは、仮のはずだった番契約から始まる、運命以上の恋の物語。
モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)
夏目碧央
BL
兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。
ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?
もう殺されるのはゴメンなので婚約破棄します!
めがねあざらし
BL
婚約者に見向きもされないまま誘拐され、殺されたΩ・イライアス。
目覚めた彼は、侯爵家と婚約する“あの”直前に戻っていた。
二度と同じ運命はたどりたくない。
家族のために婚約は受け入れるが、なんとか相手に嫌われて破談を狙うことに決める。
だが目の前に現れた侯爵・アルバートは、前世とはまるで別人のように優しく、異様に距離が近くて――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる