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3:鬼狩りの矜持 編
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「だから言ったのに。びっくりするくらい、所長が童顔だったって」
「聞いたわよ。聞いたけど。まさか、本当にあんな学生みたいな見かけをしてるとは思わないじゃない……!」
はは、と乾いた笑いを浮かべて、あたしはお味噌汁に口を付けた。やっぱりお出しの味って、ほっとする。
何を隠そう、みっちゃんは、あの日の夜。ちょっと疲れて、自室で一人、チューハイを空けていて。そしてお酒に弱いみっちゃんは、あっという間にほろ酔いになっていて。酔い覚ましにと自室の窓を開けて。そこで見てしまったわけだ。何をって、あたしとあたしを送ってくれた所長を、だ。
「あら。奈々ってば、忙しい、忙しいって泣きながらどこでオトコ掴まえたのかしら、なーんて思ったあたしが馬鹿だった」
「……」
「もしかして年下の学生かしら。やだー、奈々ってば、可愛いの掴まえちゃってー、なんて思ったあたしが馬鹿だった」
まぁ、あの夜は、いつにもましてな格好だったからなぁ、所長、と。あたしはその一点に置いてはみっちゃんに同情した。
「なんで、あたし、あんなことしちゃったのかしら……。いや、酔ってたのよ。ちょっと、酔ってたのよ。ちょっと可愛い年下を揶揄いたかっただけなのよ」
頭を抱えていたみっちゃんは、顔を上げるなり、やけくそ気味に叫んだ。
「まさか、それが特Aの天野の人間だなんて思わなかったものでね!」
つまるところ、みっちゃんは。うっかりあたしと所長を見てしまって。うっかり、所長を同年代どころか年下と判断して。……うっかり、窓から親し気に手を振って。それだけに飽き足らず、投げキスまでプレゼントしたそうだ。投げキスって今日日聞かないなぁと思ったが、さすがにその追い打ちはかけなかった。なんと言うか、打ちひしがれているみっちゃんの姿があまりにもあまりだったので。
「普段は、あれだよ。スーツを着てたら、もうちょっと年相応に見えるよ?」
「何のフォローにもなってないわよ。と言うか、年相応っていくつなのよ、結局。あんたのところの所長様は」
「……知らない」
知らない? と声を裏返らせたみっちゃんを「まぁまぁ」と宥めながら、話を戻す。桐生さんより年下と言うことは、二十代後半くらいかなぁと踏んではいるけれど。どちらにしても二人とも特Aライセンス所持者と言うにはすこぶる若いことに変わりはない。
「恭子先生に変わりはなかった?」
「えぇ。そりゃぁもう、いつも通りよ」
珈琲を飲んで一息ついたみっちゃんが、ふと顔を和らげた。
「恭子先生、あんたのこと、心配してたわよ。ミス・藤子は元気にやっていますかって」
「恭子先生……」
やっぱり、優しいなぁ、と。頭に浮かんだエレガントな先生の微笑に、あたしの顔も自然と綻ぶ。こうやって、卒業しても気にかけてくれるのだから、本当に先生は先生の鏡のような人で、そんな先生が担当だったあたし達は幸せ者だ。
「で? どうなのよ、紅屋は」
「うん。所長も桐生さんもすごい人で、でも良い人だよ」
幸せを嚙みしめたまま、ふへと笑ったあたしに、みっちゃんはどこか呆れたように眉を上げた。
「あんたって」
「なぁに?」
「初日はあれだけ死んでたくせに。どういう心境の変化なわけ」
そう言えば、みっちゃんに泣きついたあの日から半月ほどしか経っていないのだった。
――やっぱり、あたしって現金だなぁ。仕事が死にそうなことには変わりないのに、所長に送ってもらったあの夜以来、精神的な辛さが全然、違うんだもん。
「聞いたわよ。聞いたけど。まさか、本当にあんな学生みたいな見かけをしてるとは思わないじゃない……!」
はは、と乾いた笑いを浮かべて、あたしはお味噌汁に口を付けた。やっぱりお出しの味って、ほっとする。
何を隠そう、みっちゃんは、あの日の夜。ちょっと疲れて、自室で一人、チューハイを空けていて。そしてお酒に弱いみっちゃんは、あっという間にほろ酔いになっていて。酔い覚ましにと自室の窓を開けて。そこで見てしまったわけだ。何をって、あたしとあたしを送ってくれた所長を、だ。
「あら。奈々ってば、忙しい、忙しいって泣きながらどこでオトコ掴まえたのかしら、なーんて思ったあたしが馬鹿だった」
「……」
「もしかして年下の学生かしら。やだー、奈々ってば、可愛いの掴まえちゃってー、なんて思ったあたしが馬鹿だった」
まぁ、あの夜は、いつにもましてな格好だったからなぁ、所長、と。あたしはその一点に置いてはみっちゃんに同情した。
「なんで、あたし、あんなことしちゃったのかしら……。いや、酔ってたのよ。ちょっと、酔ってたのよ。ちょっと可愛い年下を揶揄いたかっただけなのよ」
頭を抱えていたみっちゃんは、顔を上げるなり、やけくそ気味に叫んだ。
「まさか、それが特Aの天野の人間だなんて思わなかったものでね!」
つまるところ、みっちゃんは。うっかりあたしと所長を見てしまって。うっかり、所長を同年代どころか年下と判断して。……うっかり、窓から親し気に手を振って。それだけに飽き足らず、投げキスまでプレゼントしたそうだ。投げキスって今日日聞かないなぁと思ったが、さすがにその追い打ちはかけなかった。なんと言うか、打ちひしがれているみっちゃんの姿があまりにもあまりだったので。
「普段は、あれだよ。スーツを着てたら、もうちょっと年相応に見えるよ?」
「何のフォローにもなってないわよ。と言うか、年相応っていくつなのよ、結局。あんたのところの所長様は」
「……知らない」
知らない? と声を裏返らせたみっちゃんを「まぁまぁ」と宥めながら、話を戻す。桐生さんより年下と言うことは、二十代後半くらいかなぁと踏んではいるけれど。どちらにしても二人とも特Aライセンス所持者と言うにはすこぶる若いことに変わりはない。
「恭子先生に変わりはなかった?」
「えぇ。そりゃぁもう、いつも通りよ」
珈琲を飲んで一息ついたみっちゃんが、ふと顔を和らげた。
「恭子先生、あんたのこと、心配してたわよ。ミス・藤子は元気にやっていますかって」
「恭子先生……」
やっぱり、優しいなぁ、と。頭に浮かんだエレガントな先生の微笑に、あたしの顔も自然と綻ぶ。こうやって、卒業しても気にかけてくれるのだから、本当に先生は先生の鏡のような人で、そんな先生が担当だったあたし達は幸せ者だ。
「で? どうなのよ、紅屋は」
「うん。所長も桐生さんもすごい人で、でも良い人だよ」
幸せを嚙みしめたまま、ふへと笑ったあたしに、みっちゃんはどこか呆れたように眉を上げた。
「あんたって」
「なぁに?」
「初日はあれだけ死んでたくせに。どういう心境の変化なわけ」
そう言えば、みっちゃんに泣きついたあの日から半月ほどしか経っていないのだった。
――やっぱり、あたしって現金だなぁ。仕事が死にそうなことには変わりないのに、所長に送ってもらったあの夜以来、精神的な辛さが全然、違うんだもん。
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