42 / 61
5:鬼を狩る 編
04
しおりを挟む
「改めるって、どう言うこと? 懲らしめるってこと?」
「自分がしたことがどう言うことだったか、これからどうすべきか、それをしっかりと考えてもらいたいの。しかるべきところで」
現状、ハヤギ・リュウトに出ている令状で、ハヤギが死刑になることはない。もし、所長の言う新しく発見された死体が、ハヤギ・リュウトが成した罪の結果であったとしても、大人しく同行すれば、死刑になる確率は低い。それは、被害者からすれば、許しがたいことであるかもしれないけれど。あたしたちの法は、そうなっている。
「でも、そのためには、パパに悪いことと向き合ってもらわなければならないの」
あたしたちの法は、鬼であれ、人間であれ、その存在の持つ善を信じている。疑わしきは罰せず、改心の可能性を信じる。あたしたちはそんな世界を生きているのだ。鬼は怖い。けれど、怖い鬼ばかりではない。お互いに親和をはかり共存していけるのだと、あたしも信じていたい。
「今、あなたのパパは、怒っています。それは、分かるよね」
また、背後で何かが壊れる音がした。大丈夫。桐生さんは大丈夫。だって、特Aだから。あたしなんかには想像の付かないすごい鬼狩りだから。言い聞かせて、後ろを振り返る代わりに、あたしは男の子の手を掴んだ。冷えた指先は、外にいるからだけではないだろう。緊張と恐怖から、熱が失われている。ぎゅっと握りしめているうちに、じんわりと熱が伝道するように、小さな指先が赤くなる。
「うん」
逡巡のあと、男の子は頷いた。
「パパの声がする。怒ってる。いっぱい、怒ってる。あんなパパを僕は知らない」
あたしには聞こえなかったけれど、きっと、人間よりもずっと鋭敏な感覚を持つ「鬼」の子の耳には届いているのだろう。
「それは、あなたがいなかったからなの」
「え?」
「いなかったあなたを探しているの。あたしたちが、あなたをどこかへ連れて行ってしまったのではないかと疑って、それで怒っているの。戦っているの、あなたのために」
まじまじとあたしを見つめている男の子の瞳が驚愕に染まる。けれど、きっとそれが事実だ。
「でも、そうじゃないよね。あなたは、ちょっと外に出ていて、それだけだったんだよね」
迷うように子どもの表情がぶれる。駄目押すようにあたしは静かに畳みかけた。
「だから、それをパパに教えてあげて、……パパの気持ちを落ち着けて欲しい」
そうであれば、あたしたちの話を聞いてくれるかもしれない。大人しく同行の求めに応じてくれるかもしれない。
「そのお手伝いをして欲しいの」
脅すようなことを言っていると分かっていた。けれど、続ける。
「このままだと、あなたのパパは死んでしまうかもしれない。もし、そうなったら、もう二度と逢えない。でも、生きてさえいれば、いつか逢えます。罪を償った、その先で」
鬼の寿命は、永いとされている。個体差はあるとも言われているが、平均して百五十年。なかには三百年近く鬼もいるとされているけれど。とどのつまり、人間よりよほど長く生きるのだ。人間よりよほど強靭な肉体を持ち、強い力を持つ彼らを、人間と同等だと思うことが間違いなのかもしれない。けれど、そうあるための最後の要が、あたし達の仕事なのだ。
少なくとも、あたしは学校で、恭子先生にそう教えられた。
「自分がしたことがどう言うことだったか、これからどうすべきか、それをしっかりと考えてもらいたいの。しかるべきところで」
現状、ハヤギ・リュウトに出ている令状で、ハヤギが死刑になることはない。もし、所長の言う新しく発見された死体が、ハヤギ・リュウトが成した罪の結果であったとしても、大人しく同行すれば、死刑になる確率は低い。それは、被害者からすれば、許しがたいことであるかもしれないけれど。あたしたちの法は、そうなっている。
「でも、そのためには、パパに悪いことと向き合ってもらわなければならないの」
あたしたちの法は、鬼であれ、人間であれ、その存在の持つ善を信じている。疑わしきは罰せず、改心の可能性を信じる。あたしたちはそんな世界を生きているのだ。鬼は怖い。けれど、怖い鬼ばかりではない。お互いに親和をはかり共存していけるのだと、あたしも信じていたい。
「今、あなたのパパは、怒っています。それは、分かるよね」
また、背後で何かが壊れる音がした。大丈夫。桐生さんは大丈夫。だって、特Aだから。あたしなんかには想像の付かないすごい鬼狩りだから。言い聞かせて、後ろを振り返る代わりに、あたしは男の子の手を掴んだ。冷えた指先は、外にいるからだけではないだろう。緊張と恐怖から、熱が失われている。ぎゅっと握りしめているうちに、じんわりと熱が伝道するように、小さな指先が赤くなる。
「うん」
逡巡のあと、男の子は頷いた。
「パパの声がする。怒ってる。いっぱい、怒ってる。あんなパパを僕は知らない」
あたしには聞こえなかったけれど、きっと、人間よりもずっと鋭敏な感覚を持つ「鬼」の子の耳には届いているのだろう。
「それは、あなたがいなかったからなの」
「え?」
「いなかったあなたを探しているの。あたしたちが、あなたをどこかへ連れて行ってしまったのではないかと疑って、それで怒っているの。戦っているの、あなたのために」
まじまじとあたしを見つめている男の子の瞳が驚愕に染まる。けれど、きっとそれが事実だ。
「でも、そうじゃないよね。あなたは、ちょっと外に出ていて、それだけだったんだよね」
迷うように子どもの表情がぶれる。駄目押すようにあたしは静かに畳みかけた。
「だから、それをパパに教えてあげて、……パパの気持ちを落ち着けて欲しい」
そうであれば、あたしたちの話を聞いてくれるかもしれない。大人しく同行の求めに応じてくれるかもしれない。
「そのお手伝いをして欲しいの」
脅すようなことを言っていると分かっていた。けれど、続ける。
「このままだと、あなたのパパは死んでしまうかもしれない。もし、そうなったら、もう二度と逢えない。でも、生きてさえいれば、いつか逢えます。罪を償った、その先で」
鬼の寿命は、永いとされている。個体差はあるとも言われているが、平均して百五十年。なかには三百年近く鬼もいるとされているけれど。とどのつまり、人間よりよほど長く生きるのだ。人間よりよほど強靭な肉体を持ち、強い力を持つ彼らを、人間と同等だと思うことが間違いなのかもしれない。けれど、そうあるための最後の要が、あたし達の仕事なのだ。
少なくとも、あたしは学校で、恭子先生にそう教えられた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
香死妃(かしひ)は香りに埋もれて謎を解く
液体猫(299)
キャラ文芸
第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞受賞しました(^_^)/
香を操り、死者の想いを知る一族がいる。そう囁かれたのは、ずっと昔の話だった。今ではその一族の生き残りすら見ず、誰もが彼ら、彼女たちの存在を忘れてしまっていた。
ある日のこと、一人の侍女が急死した。原因は不明で、解決されないまま月日が流れていき……
その事件を解決するために一人の青年が動き出す。その過程で出会った少女──香 麗然《コウ レイラン》──は、忘れ去られた一族の者だったと知った。
香 麗然《コウ レイラン》が後宮に現れた瞬間、事態は動いていく。
彼女は香りに秘められた事件を解決。ついでに、ぶっきらぼうな青年兵、幼い妃など。数多の人々を無自覚に誑かしていった。
テンパると田舎娘丸出しになる香 麗然《コウ レイラン》と謎だらけの青年兵がダッグを組み、数々の事件に挑んでいく。
後宮の闇、そして人々の想いを描く、後宮恋愛ミステリーです。
シリアス成分が少し多めとなっています。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる