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第一章:ようこそ「あやかしよろず相談課」
河童の川探し③
上流に近い河川敷で車は停まった。お昼を過ぎたばかりの明るい時間帯なのに、人の気配はない。
中流域の河川敷を通り過ぎたときは、散歩をしている人たちをちらほらと目にしたのだけれど。
――このあたりは開発がまだ進んでないからかなぁ。
人工的に補正されていない河川敷は、ぼうぼうと草が生い茂っている。適切な管理もされていなさそうだ。
「ところで、このあたりで待ち合わせなんですか?」
配属されて二週間、風変わりな依頼にも少し慣れてきたけれど。いつも変なところで待ち合わせなんだよなぁとは思ってしまう。
「もしかして、今度は川掃除とか言わないですよね?」
「なんか文句あんのか?」
「いや、その、そういうわけじゃ」
ぎろりと睨まれて、しどろもどろに言葉を濁す。いや、そういうわけじゃ。……ちょっとはあったかもしれないけれど。
「先輩のつなぎは市役所内で正直かなり浮いてましたけど、理に適ってるんだなと納得したというか」
ちょっといいなぁと羨んだのは、男性職員には入庁時に作業着が配布されるのに女性職員にはなにも配布されないからだ。
先輩のこれは作業着とは仕様が異なるから、自前なのだろうけれど。
「よしわかった。頼んでおいてやる」
「え? それ、うちの作業着なんですか。もしかして」
なぜかご機嫌そうな先輩の横顔とつなぎを交互に観察してから、やっぱり謎が多いと内心で首を捻る。
配属されてから、あたしはごみ掃除しかしていないのだ。これが窓際部署というやつなのだろうかと、ひっそり疑ってしまったのは内緒だ。
「あの、それで、待ち合わせの方って……」
「あれだ」
茂みを見渡していた先輩が、おもむろに指をさす。
「ん?」
本気でどこかわからなくて、あたしは思い切り背伸びをした。二十センチ近い身長差で見えている範囲が違うのかもしれないが、本当になにをさしているのかわからない。
「すみません、あの」
「あそこだ、あそこ。目も悪いのか」
目も、って。その複数形はどこにかかっているんだ、いったい。むっとしながらも、先輩の指の先に目を凝らす。
……なんか、あれみたいだな。ほら、あの、赤白ボーダーのおじさんを探せ、的な。
口にすれば、「おまえも俺のこと言えない程度には無神経で無遠慮だからな」と言われかねないので、黙ったままきょろきょろと周囲を探る。そして。
「え」
一言呟いたきり、あたしは絶句した。
先輩の指さす方向に、たしかにそれはいた。「いた」というよりも「突如として姿を現した」と評したい唐突さではあったけれど。
先輩を思わず無言で仰ぎ見る。
「だから、そこにいるっつったろ」
「い、言いましたけど!」
小声であたしは叫び返した。言ったけど、小柄なおばあちゃんが茂みのなかにぼんやり立っているなんて、想像の範囲外だ。
「緑のお着物が、その、あんまりにも同化されていらっしゃって、その」
「紛らわしいもの着て無言で突っ立ってんなよ、ばばぁ、ってか。おまえも、なかなか言うな」
「言ってませんから!」
先輩のつなぎの袖を焦って引く。先輩なら面と向かって言いかねない。そのあたしの必死さを完全に無視して、「おい、来たぞ」と恒例の子どものような声をかける。
まったくもって市役所職員らしくない態度なのだが、なぜかいつも受け入れられている。
「おいって。ばあさん」
「はいはい、少しお待ちくださいね」
想像していたよりもずっと上品な声だった。茂みががさこそと動いて、おばあさんが近づいてくる。あたしたちの前までやってきたおばあさんは着物に付いた葉を払い落としながら、にこりとほほえんだ。
その笑顔はいかにも優しげで、無意味に怖がったことが申し訳なくなる。
中流域の河川敷を通り過ぎたときは、散歩をしている人たちをちらほらと目にしたのだけれど。
――このあたりは開発がまだ進んでないからかなぁ。
人工的に補正されていない河川敷は、ぼうぼうと草が生い茂っている。適切な管理もされていなさそうだ。
「ところで、このあたりで待ち合わせなんですか?」
配属されて二週間、風変わりな依頼にも少し慣れてきたけれど。いつも変なところで待ち合わせなんだよなぁとは思ってしまう。
「もしかして、今度は川掃除とか言わないですよね?」
「なんか文句あんのか?」
「いや、その、そういうわけじゃ」
ぎろりと睨まれて、しどろもどろに言葉を濁す。いや、そういうわけじゃ。……ちょっとはあったかもしれないけれど。
「先輩のつなぎは市役所内で正直かなり浮いてましたけど、理に適ってるんだなと納得したというか」
ちょっといいなぁと羨んだのは、男性職員には入庁時に作業着が配布されるのに女性職員にはなにも配布されないからだ。
先輩のこれは作業着とは仕様が異なるから、自前なのだろうけれど。
「よしわかった。頼んでおいてやる」
「え? それ、うちの作業着なんですか。もしかして」
なぜかご機嫌そうな先輩の横顔とつなぎを交互に観察してから、やっぱり謎が多いと内心で首を捻る。
配属されてから、あたしはごみ掃除しかしていないのだ。これが窓際部署というやつなのだろうかと、ひっそり疑ってしまったのは内緒だ。
「あの、それで、待ち合わせの方って……」
「あれだ」
茂みを見渡していた先輩が、おもむろに指をさす。
「ん?」
本気でどこかわからなくて、あたしは思い切り背伸びをした。二十センチ近い身長差で見えている範囲が違うのかもしれないが、本当になにをさしているのかわからない。
「すみません、あの」
「あそこだ、あそこ。目も悪いのか」
目も、って。その複数形はどこにかかっているんだ、いったい。むっとしながらも、先輩の指の先に目を凝らす。
……なんか、あれみたいだな。ほら、あの、赤白ボーダーのおじさんを探せ、的な。
口にすれば、「おまえも俺のこと言えない程度には無神経で無遠慮だからな」と言われかねないので、黙ったままきょろきょろと周囲を探る。そして。
「え」
一言呟いたきり、あたしは絶句した。
先輩の指さす方向に、たしかにそれはいた。「いた」というよりも「突如として姿を現した」と評したい唐突さではあったけれど。
先輩を思わず無言で仰ぎ見る。
「だから、そこにいるっつったろ」
「い、言いましたけど!」
小声であたしは叫び返した。言ったけど、小柄なおばあちゃんが茂みのなかにぼんやり立っているなんて、想像の範囲外だ。
「緑のお着物が、その、あんまりにも同化されていらっしゃって、その」
「紛らわしいもの着て無言で突っ立ってんなよ、ばばぁ、ってか。おまえも、なかなか言うな」
「言ってませんから!」
先輩のつなぎの袖を焦って引く。先輩なら面と向かって言いかねない。そのあたしの必死さを完全に無視して、「おい、来たぞ」と恒例の子どものような声をかける。
まったくもって市役所職員らしくない態度なのだが、なぜかいつも受け入れられている。
「おいって。ばあさん」
「はいはい、少しお待ちくださいね」
想像していたよりもずっと上品な声だった。茂みががさこそと動いて、おばあさんが近づいてくる。あたしたちの前までやってきたおばあさんは着物に付いた葉を払い落としながら、にこりとほほえんだ。
その笑顔はいかにも優しげで、無意味に怖がったことが申し訳なくなる。
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