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第二章:白狐と初恋
VS先輩②
「これ。これ見てください!」
パソコンの画面を指差すと、先輩がいかにも渋々と顔を近づけて、そして椅子に深く座り直した。
「……で?」
聞きたくないとの本音が駄々洩れのおざなりさにもめげず、あたしは訴えた。
「上森出身の優太くん。どう考えてもこれ怪しくないですか? そういえば、前に静山さん野球部だったって言ってらっしゃったような」
「それで?」
「だから、静山さんが『ゆうたくん』じゃないかなって思うんですけど」
神様に「ゆうたくん」を会わせてあげることができるかもしれない。弾むあたしの声とは裏腹に、先輩の声は低い。
「あの、先輩?」
問いかけると、先輩は嫌そうな態度を隠そうともせず「それで」と詰め寄った。
「どうしたいんだ、おまえは。静山が仮にその『ゆうたくん』とやらだったとして、どう言うつもりなんだよ。神様に逢いに来てくださいってか? 頭おかしいって思われんのが関の山だぞ」
突き放すような言い方に、心臓がきゅっとすくむ。
「で、でも」
それでもあたしはなんとか必死で言葉を紡いだ。
「でも? でも、なんだよ」
「でも、あたしは……信じましたよ」
河童だとか、狸だとか。神様だとか。そういった存在は絵空事だと思っていたけれど、この課に来て、本当に実在しているのだと知った。
たしかにそれは自分の常識が百八十度ひっくり返るような感覚ではあったけれど。でも。
先輩が、ふいと視線を逸らした。そして呟く。
「そりゃ、おまえが見えたからだろ」
「違います」
理由はわからないけれど悲しくて、あたしは力強く否定した。
「先輩がちゃんと話してくれたからです」
河童さんのことも、化け狸のおばあさんのことも。先輩がちゃんとあたしに教えてくれたから、本音で伝えてくれたから。あたしは自分の目が見たものを疑わなかったのだ。
「だから、静山さんもきっと話したらわかってくれると思うんです」
また少し沈黙があった。溜息を吐いて、先輩が「あのな」と言い聞かせるように口を開く。
先ほどまでのような冷たさはない代わりに、ひどく淡々とした声だった。
「もし仮におまえが話して、静山が信じたとしてもな。あいつに白狐が見えるとは限らない。そうやって自然に忘れていくんだ。ある意味でそれは健全なことなんだ。だから俺たちがどうのこうのと手を出すようなことじゃない」
「でも」
「俺たちがおかしいんだ」
喧嘩腰ではないから余計に、なにも言えなかった。でも、そんなのは悲しい。なにもする前から諦めるのは寂しい。
「わかったな」
話は終わりだというように口調を強めた先輩に、気がつけばあたしは「わかりません!」と反論していた。
「は?」
虚を突かれたようだった先輩の顔に、徐々に険が含まれていく。負けじとあたしは声を張った。
「わかりませんというか、わかりたくありません。いや、先輩の言うことはわかりますけど、でもそんなの寂しいじゃないですか」
「ガキか」
「ガキかもしれませんけど、でも、あたしは……」
纏まらない感情がぐるぐると渦巻いていく。ガキだ。まさしく子どものようなことを言っている。それもわかっているが引くに引けない状態に陥ったあたしは、感情のままに口走った。
「会いたいと思ってる人には会わせてあげたいって思うのが、人の性じゃないですか!」
完全なる堂々巡りだ。呆れ切った瞳で見つめられても、なにも反論できない。が、引く気もない。心底面倒くさそうに先輩が頭を振った。
「そういうのをお節介って言うんだろうが」
いやごもっともで。心のなかではそう思ったものの、あたしは「ほうっておいてください」と言い返した。引くに引けなかっただけだ。
これ見よがしに溜息を吐いた先輩が、あたしから視線を外してパソコンを立ち上げる。冷戦開始のゴングが鳴った気分で、あたしもパソコンに向き直った。
なんでこんなことになったのか、自分でもちょっと意味がわからない。だが引きたくない。そんな意地の下で、しかめっ面のまま昨夜七海さんと考えた計画文書に目を通していると、がちゃりとドアが開いた。
「あれ、おはよう。真晴くん早いんだね……、って」
にこにこ顔だった七海さんが、あたしたちを見比べて困ったように首を傾げる。
「僕、喧嘩してって言ったつもりはなかったんだけどなぁ」
あたしだってありませんでしたよと言う代わりに、あたしは「おはようございます!」と無駄に声を張り上げた。
パソコンの画面を指差すと、先輩がいかにも渋々と顔を近づけて、そして椅子に深く座り直した。
「……で?」
聞きたくないとの本音が駄々洩れのおざなりさにもめげず、あたしは訴えた。
「上森出身の優太くん。どう考えてもこれ怪しくないですか? そういえば、前に静山さん野球部だったって言ってらっしゃったような」
「それで?」
「だから、静山さんが『ゆうたくん』じゃないかなって思うんですけど」
神様に「ゆうたくん」を会わせてあげることができるかもしれない。弾むあたしの声とは裏腹に、先輩の声は低い。
「あの、先輩?」
問いかけると、先輩は嫌そうな態度を隠そうともせず「それで」と詰め寄った。
「どうしたいんだ、おまえは。静山が仮にその『ゆうたくん』とやらだったとして、どう言うつもりなんだよ。神様に逢いに来てくださいってか? 頭おかしいって思われんのが関の山だぞ」
突き放すような言い方に、心臓がきゅっとすくむ。
「で、でも」
それでもあたしはなんとか必死で言葉を紡いだ。
「でも? でも、なんだよ」
「でも、あたしは……信じましたよ」
河童だとか、狸だとか。神様だとか。そういった存在は絵空事だと思っていたけれど、この課に来て、本当に実在しているのだと知った。
たしかにそれは自分の常識が百八十度ひっくり返るような感覚ではあったけれど。でも。
先輩が、ふいと視線を逸らした。そして呟く。
「そりゃ、おまえが見えたからだろ」
「違います」
理由はわからないけれど悲しくて、あたしは力強く否定した。
「先輩がちゃんと話してくれたからです」
河童さんのことも、化け狸のおばあさんのことも。先輩がちゃんとあたしに教えてくれたから、本音で伝えてくれたから。あたしは自分の目が見たものを疑わなかったのだ。
「だから、静山さんもきっと話したらわかってくれると思うんです」
また少し沈黙があった。溜息を吐いて、先輩が「あのな」と言い聞かせるように口を開く。
先ほどまでのような冷たさはない代わりに、ひどく淡々とした声だった。
「もし仮におまえが話して、静山が信じたとしてもな。あいつに白狐が見えるとは限らない。そうやって自然に忘れていくんだ。ある意味でそれは健全なことなんだ。だから俺たちがどうのこうのと手を出すようなことじゃない」
「でも」
「俺たちがおかしいんだ」
喧嘩腰ではないから余計に、なにも言えなかった。でも、そんなのは悲しい。なにもする前から諦めるのは寂しい。
「わかったな」
話は終わりだというように口調を強めた先輩に、気がつけばあたしは「わかりません!」と反論していた。
「は?」
虚を突かれたようだった先輩の顔に、徐々に険が含まれていく。負けじとあたしは声を張った。
「わかりませんというか、わかりたくありません。いや、先輩の言うことはわかりますけど、でもそんなの寂しいじゃないですか」
「ガキか」
「ガキかもしれませんけど、でも、あたしは……」
纏まらない感情がぐるぐると渦巻いていく。ガキだ。まさしく子どものようなことを言っている。それもわかっているが引くに引けない状態に陥ったあたしは、感情のままに口走った。
「会いたいと思ってる人には会わせてあげたいって思うのが、人の性じゃないですか!」
完全なる堂々巡りだ。呆れ切った瞳で見つめられても、なにも反論できない。が、引く気もない。心底面倒くさそうに先輩が頭を振った。
「そういうのをお節介って言うんだろうが」
いやごもっともで。心のなかではそう思ったものの、あたしは「ほうっておいてください」と言い返した。引くに引けなかっただけだ。
これ見よがしに溜息を吐いた先輩が、あたしから視線を外してパソコンを立ち上げる。冷戦開始のゴングが鳴った気分で、あたしもパソコンに向き直った。
なんでこんなことになったのか、自分でもちょっと意味がわからない。だが引きたくない。そんな意地の下で、しかめっ面のまま昨夜七海さんと考えた計画文書に目を通していると、がちゃりとドアが開いた。
「あれ、おはよう。真晴くん早いんだね……、って」
にこにこ顔だった七海さんが、あたしたちを見比べて困ったように首を傾げる。
「僕、喧嘩してって言ったつもりはなかったんだけどなぁ」
あたしだってありませんでしたよと言う代わりに、あたしは「おはようございます!」と無駄に声を張り上げた。
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