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第二章:白狐と初恋
稲荷神社の夏祭り⑤
「今日は懐かしいところに顔を出せてよかったよ、ありがとう、最上。三崎ちゃんも」
思いがけないお礼の言葉に、あたしは慌てて首を振った。先輩もどこかきまり悪そうに頭を掻いている。
「おかげでまた仕事が頑張れそうだよ」
「またそれかよ。おまえといい、三崎といい、国保はあれだな。仕事中毒ばっかりだな」
救えねぇと鼻で笑った先輩に、静山さんは「繁忙期だからなぁ」と肩をすくめた。
「で、ですよね。すみません、お忙しいときに」
「いや、本当に大丈夫だよ。気にしないで」
にこと笑う静山さんに申し訳なさが募って、あたしは先輩の袖をそっと引いた。
「ねぇ、先輩」
「なんだよ」
「国保はこれから戦争に突入するんです」
「あ、そう」
「はい。だから」
今度、一緒に陣中見舞いに行きましょう。そう告げると、先輩は呆れ切った目であたしを一瞥した。
「それ、まったく俺は関係ねぇだろうが」
「い、いいじゃないですか。同じ職場なんです。仲間みたいなもんですよ」
先輩が壁を作っているだけで、本当は先輩のことを知りたいと思っている人もいっぱいいるのだと思う。
……先輩のいいところを知る人が増えるのはうれしい反面、ほんの少し複雑な気もするけれど。
あたしたちの声が聞こえたらしい静山さんが「楽しみにしておこうかな」と笑った。
「ぜひ鈴木さんの誤解も解いていただきたいところだしね」
続いたそれに、あたしははたと我に返って先輩の様子を窺った。案の定というべきか、不機嫌さ全開の魔王オーラが迸っている。
「せ、先輩……」
「だから」
地の底を這う声は、けれど、半分くらいは諦めの色が混ざっている。
「嫌なんだ、あの田舎の市役所は」
和気あいあいと言えば響きはいいが、あのみな知り合いといった空気が苦手な人は一定数いるだろう。わからなくはないので、あたしは愛想笑いを浮かべて誤魔化した。
あやかしよろず相談課もなかなかのものですよとの真実は、武士の情けというやつで飲み込んで。
旧館のもじゃおさんは、実は格好良くて、そして案外といい人なんです。
みんなに主張したいような、あたしだけの秘密にしておきたいような。そんなよくわからない感情を抱えたまま、宥めにかかる。
「コミュニケーションは、最終的におのれを助けてくれるんですよ」
おばあちゃんの受け売りだ。にこと笑えば、先輩は不承不承という顔で溜息を吐いた。
「なんですか?」
「べつに。あいかわらず変なやつだって思っただけ」
先輩に言われたくないと心の底からのあたしの叫びは、「最上には言われたくないよねぇ」との笑い声に吸収合併されていく。
夏の夜空には、ほわほわと光の玉が楽しそうに浮いていた。きっと彼女が見てくれているのだろう。それとももっと話したいと思っているのだろうか。
わからないから、その答えを聞きに、またここにやってこようとあたしは決めた。
先輩とふたり、あやかしよろず相談課の公用車で。かわいい神様に逢いに。
思いがけないお礼の言葉に、あたしは慌てて首を振った。先輩もどこかきまり悪そうに頭を掻いている。
「おかげでまた仕事が頑張れそうだよ」
「またそれかよ。おまえといい、三崎といい、国保はあれだな。仕事中毒ばっかりだな」
救えねぇと鼻で笑った先輩に、静山さんは「繁忙期だからなぁ」と肩をすくめた。
「で、ですよね。すみません、お忙しいときに」
「いや、本当に大丈夫だよ。気にしないで」
にこと笑う静山さんに申し訳なさが募って、あたしは先輩の袖をそっと引いた。
「ねぇ、先輩」
「なんだよ」
「国保はこれから戦争に突入するんです」
「あ、そう」
「はい。だから」
今度、一緒に陣中見舞いに行きましょう。そう告げると、先輩は呆れ切った目であたしを一瞥した。
「それ、まったく俺は関係ねぇだろうが」
「い、いいじゃないですか。同じ職場なんです。仲間みたいなもんですよ」
先輩が壁を作っているだけで、本当は先輩のことを知りたいと思っている人もいっぱいいるのだと思う。
……先輩のいいところを知る人が増えるのはうれしい反面、ほんの少し複雑な気もするけれど。
あたしたちの声が聞こえたらしい静山さんが「楽しみにしておこうかな」と笑った。
「ぜひ鈴木さんの誤解も解いていただきたいところだしね」
続いたそれに、あたしははたと我に返って先輩の様子を窺った。案の定というべきか、不機嫌さ全開の魔王オーラが迸っている。
「せ、先輩……」
「だから」
地の底を這う声は、けれど、半分くらいは諦めの色が混ざっている。
「嫌なんだ、あの田舎の市役所は」
和気あいあいと言えば響きはいいが、あのみな知り合いといった空気が苦手な人は一定数いるだろう。わからなくはないので、あたしは愛想笑いを浮かべて誤魔化した。
あやかしよろず相談課もなかなかのものですよとの真実は、武士の情けというやつで飲み込んで。
旧館のもじゃおさんは、実は格好良くて、そして案外といい人なんです。
みんなに主張したいような、あたしだけの秘密にしておきたいような。そんなよくわからない感情を抱えたまま、宥めにかかる。
「コミュニケーションは、最終的におのれを助けてくれるんですよ」
おばあちゃんの受け売りだ。にこと笑えば、先輩は不承不承という顔で溜息を吐いた。
「なんですか?」
「べつに。あいかわらず変なやつだって思っただけ」
先輩に言われたくないと心の底からのあたしの叫びは、「最上には言われたくないよねぇ」との笑い声に吸収合併されていく。
夏の夜空には、ほわほわと光の玉が楽しそうに浮いていた。きっと彼女が見てくれているのだろう。それとももっと話したいと思っているのだろうか。
わからないから、その答えを聞きに、またここにやってこようとあたしは決めた。
先輩とふたり、あやかしよろず相談課の公用車で。かわいい神様に逢いに。
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