こちら夢守市役所あやかしよろず相談課

木原あざみ

文字の大きさ
52 / 72
第三章:真夏の恐怖怪談

税務課の相馬さん②

「そんなこと言われたくらいでどうにかなるような神経してないでしょっていうのが課の総意だったらしいけど。俺は鬱なんだなんて言われたら、きつく言いにくいじゃない。診断書までは出してこなかったらしいけど。妙なこと言ったら、コンプライアンスに訴えられそうだし」
「す、すごいね」
「仮に相馬さんが人事課に言っても、その噂も人となりも知ってる以上、税務を一方的に咎めることはないと思うけどね。面倒は避けたいでしょ。だから、触らぬ神になんとやら、みたいな扱いが定着しちゃってるらしいのよ。まぁ、自分が気に入っている人とはそれなりにコミュニケーションも取ってるらしいけど、気に入らない人への当たりはひどいらしいから」

 一緒の課にはなりたくないタイプよねと言った夏梨ちゃんに、あたしは心の底から同意した。
 旧館のもじゃおさんのほうが百倍マシだ。噂だけで判断するのはどうかと思うけど。

「ちょっとだけ、先輩が言ってくれたありがたさが身に染みたかも」
「先輩って、最上さんよね。どうかしたの?」
「その、相馬さんがいろんな意味で心配になっちゃって、余計なお世話だろうなって思ったんだけど、税務課に様子見に行きましょうかって言ったんだけど」
「げ。本当にお節介ね、あんた」
「わかってるよ、知ってます。でも気になっちゃったんだもん。そうしたら先輩が、あいつに絡まれたら退職するまで目の敵にされるからやめとけって」

 もしかすると、先輩はすでに目を付けられているのかもしれない。先輩は良くも悪くも気にしないだろうけれど。
 夏梨ちゃんは「あぁ」と遠い目で頷いた。

「最上さんが正しいわ。よかったじゃない。気にかけてもらえて」
「うーん、どうなんだろ。最終的に自分に飛び火するのを防いでるだけの気がしないでもないけど。でも、そうだね、優しいよ、先輩は。なんだかんだ言っても」

 物言いはきついけど、理不尽なことは言わないし、ちゃんと説明もしてくれるし、あたしの話に耳も傾けてくれる。まぁ、無視されることもあるが。
 なんだかんだと先輩は言うけれど、きちんと指導していただいていると思っている。
「旧館のもじゃおさん」なんて呼んでいる人たちも、色眼鏡を捨てれば先輩のいいところが見えるだろうにと思うと、もったいないような気もするけれど。

「まぁ、はなはさ」

 やってきた店員さんに生ビールの追加と枝豆を頼んでから、夏梨ちゃんがほほえんだ。

「なんだかんだでよろ相でうまくやってるみたいで安心したよ。最初は大丈夫かなって思ったけど、ちゃんとかわいがってもらってるみたいだし」
「かわいがって……は、よくわからないけど、なんとかやれてるはやれてるよ」
「うん、だから。妙なことに首を突っ込まなくていいんじゃないかなとあたしも思うわけよ。どうせ長くいる職場だもの。質のいい人間関係を保持したいじゃない」
「そうだよね」

 頷いたものの、やっぱりほんの少しだけお節介の虫が騒めいている。だって、あれだよ。変な人ってだけならまだしも、公文書を失くした上に、すぐに報告もせずに変な噂を頼ってくるような人だよ。
 絶対に自分の失態を上司に報告したりしないでしょ。というか下手したら、誰かに責任を擦り付けるでしょ。それは黙認しちゃ駄目でしょ、みたいな。

 とはいえ、夏梨ちゃんが心配してくれていることはわかっているので、あたしは「そうする」と笑って頷いた。
感想 0

あなたにおすすめの小説

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

皇太子殿下は、幼なじみの頬しか触らない

由香
恋愛
後宮には、美しい妃が大勢いる。 けれど皇太子・曜は、誰にも触れないことで有名だった。 ――ただ一人を除いて。 幼なじみの侍女・翠玉。 彼女の頬だけは、毎日のようにつつき、摘まみ、抱き寄せる。 「殿下、見られてます!」 「構わない」 後宮中が噂する。 『皇太子は侍女に溺れている』 けれど翠玉はまだ知らない。 それが幼なじみの距離ではなく、皇太子の独占欲だということを。

【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて

ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」 お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。 綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。 今はもう、私に微笑みかける事はありません。 貴方の笑顔は別の方のもの。 私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。 私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。 ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか? ―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。 ※ゆるゆる設定です。 ※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」 ※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

火輪の花嫁 ~男装姫は孤高の王の夢をみる~

秦朱音|はたあかね
キャラ文芸
王を中心に五家が支配する、綺羅ノ国。 五家に覡(かんなぎ)として仕える十六夜家の娘、久遠(くおん)は、幼い頃から男として育てられてきた。 都では陽を司る日紫喜家の王が崩御し、素行の悪さで有名な新王・燦(さん)が即位する。燦の后選びに戦々恐々とする五家だったが、燦は十六夜家の才である「夢見」を聞いて后を選ぶと言い始めた。そして、その夢見を行う覡に、燦は男装した久遠を指名する。 見習いの僕がこの国の后を選ぶなんて、荷が重すぎる――! 久遠の苦悩を知ってか知らずか、燦は強引に久遠を寝室に呼んで夢見を命じる。しかし、初めて出会ったはずの久遠と燦の夢には、とある共通点があって――? 謎に包まれた過去を持ち身分を隠す男装姫と、孤独な王の恋と因縁を描く、和風王宮ファンタジー。 ※カクヨムにも先行で投稿しています