こちら夢守市役所あやかしよろず相談課

木原あざみ

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第三章:真夏の恐怖怪談

エピローグ②

「でもね。まぁ、なんというか、僕たちは特別な力を持っているわけではないんだ。漫画に出てくる霊能者のようなことができるわけでもない。ふつうの人より少しだけ感覚が過敏で、あやかしが見える。話すこともできる。けれど、それしかできない」 
「それしかできないって、十分にすごいことですよ」 
「そうだね。ふつうでは括れないのかもしれない。特に真晴くんは僕たちのなかでもそれが強く出ていてね、先祖返りとでも言うべきなのかな」
 「強くですか」

  あたしは白狐様の言葉を思い出した。あのとき、上森の神社で白狐様はたしかこう言っていた。先輩は、あたしたちよりほんの少し自分に近い生き物だと。
  半分以上聞き流して、今の今まで忘れていたけれど。

「そう、強い。まぁ諸般の事情は省くけれど、そんなわけで僕が出逢ったころにはすっかり捻くれていたというか、妙に世を達観したところのある子になっていてねぇ」

 茶化すような言葉尻に、あたしはぎこちない笑みを浮かべた。
 さっきからずっと、頭のなかで、この半年のあいだにあったことが再生され続けている。
 口にしていないようなことまで当ててしまう先輩の察しのよさ。
 相馬さんの言動を嘘か嘘でないか一瞬で見分けてしまう聡さ。

「厄介で面倒な子だよね。でもね、その彼がきみが来て本当に変わったんだ」

 信じられなくて、あたしはただ七海さんを見ていた。

「嘘じゃないよ、本当に。身内びいきで申し訳ないけれど、僕はきみがここに来てくれたことに本当に感謝してるんだ」
「……そんなふうには、とても思えないですけど」
「きみはそれでいいよ。ただ僕はそう思っているし、真晴くんもきっとそう思ってる」

 にこ、と笑って七海さんが続ける。

「だから、そういうことでいいんじゃないかな」

 どう言えばいいのかわからないまま、あたしは頷いた。

「ありがとう、ございます」

「でもね。だからこそ、もしここが嫌になったら、そう言ってほしい。ちゃんと本館に戻してあげるから。たしかにここは閉鎖的だけどね、一度来たら戻れない墓場だっていうのは、かなり誇張が入ってる」

 おどけるように七海さんが肩をすくめる。七海さんから聞いたぜんぶを噛み締めてから、あたしは口を開いた。あたしがそんな影響を与えているとは信じられないけれど、これだけははっきりと言うことができる。

「あたし、ここに来てよかったです」
「そう」
「七海さんや課長や、先輩と会えて。一緒に働けて、本当だったら知らなかったことも知ることができて」
「そうかい」
「だから、感謝しています」

 それが本心だった。愛想笑いでもなんでもない笑顔で断言する。「それならいいんだ」と優しくほほえんだ七海さんが、ドアのほうに視線を向けた。

「噂をすればなんとやら。帰ってきたみたいだね、ふたりとも」

 その言葉のとおり、ドアが開く。

「お帰りなさい!」

 勢いがよすぎたのか、課長にまでぎょっとした顔を向けられてしまった。あやしかっただろうかと気を揉んでいるあいだに、課長は「いや、元気でいいね」と笑みを浮かべて通り過ぎていく。
 七海さんの先輩に対する態度もたいがいアレだが、課長は課長でちょっと保父さん感がある。

 ……いや、いい職場だと思うけどね。その、アットホームな。

 配属当初、ブラック企業かよと思って胸に仕舞い込んだフレーズである。胡乱な視線を感じて意識を戻す。犯人は言わずもがなだ。

「なんですか?」

 不機嫌そうな顔も態度もすっかり見慣れてしまったので、いまさらビビりはしない。先輩にあたしの感情が気が付かれていようが、どうでもいいことだ。どうせ、図太いやつくらいにしか思われていないのだろうし。

「べつに」

 溜息交じりに先輩が言う。

「あいかわらず幸せそうな頭してんなって思っただけ」
「だって、同じ毎日なら笑っていたほうがいいじゃないですか」

 そう信じて、あたしは毎日を生きている。駄目押しでにこりとほほ笑むと、呆れた顔で、「変なやつ」とぼやく。
 いつもどおりのやりとりに、なんだかほっとして、よかったとも思った。
 課長がいて七海さんがいて先輩がいる。あやかしよろず相談課。あたしの職場。

「あ、電話! 取ります」

 鳴り出した電話に、いの一番に手を伸ばす。無理して作らなくても、自然と口からは明るい声が飛び出していた。

「こんにちは、あやかしよろず相談課です。今日はどんなご相談ですか?」
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