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1.隣の太陽(1)
悠生が大学進学に際して選んだのは、地方公立の教育大学だった。
あんな調子で教師になるつもりなのかな。講義室で投げつけられた揶揄を、一人の帰り道に思い返す。
でも、そんなことは、言われなくても自分が一番よくわかっていた。悠生が今の大学を選んだ理由は、ただの消去法。
教師になりたい、だなんて。きらきらした夢を抱いて門徒を叩いてはいないのだから。
大学から下宿先の学生アパートまでは、徒歩十分ほどの距離だ。
悠生の生まれ育った町より桜の開花は遅いらしく、川沿いの桜並木にはうっすらと春が残っている。舗装された道路にひらひらと舞い落ちる花弁のひとつをスニーカーが踏み付けた。
あ、と思って足を上げる。道路に張り付いた春が、恨みがましく自分を見つめているように思え、悠生は小さく頭を振った。
地に足を付けて生きなさい。声と同時に口煩い母親の顔が浮かび、溜息がこぼれる。
今から帰る家に自分を待ち構える人間がいない事実に、悠生はなんとも言えない安堵を覚えた。
通りを歩けば知らない顔にも声をかけられる。真木さんのところの末っ子。あるいは昴生さんの弟。
自分のことなんて知らないはずの他人からもあたりまえに干渉される、閉塞的な田舎。それが悠生の生まれ故郷だ。十八になって、やっと離れることができた。
少しは変われるだろうかと思ったが、人間の本質は早々には変わらないらしい。
地元を離れて一ヶ月弱。悠生はそのことも情けなさと一緒に思い知っていた。
「面倒くせぇ……」
スマートフォンに届いたメールを一読して、悠生は眼鏡を外した。転がっていたベッドから起き上がり、煙草の箱と百円ライターを手にベランダに出る。
洗濯ものを干すスペースがあるだけの狭い空間ではあるものの、近くに高い建物がないおかげで、綺麗に星が見えるのだ。
悠生の地元と比べると都会だが、駅前から少し離れてしまえば、夜は静かだ。手摺に肘を付いて、煙草に火を点ける。溜息とともに吐き出した紫煙が、ゆっくりと夜に溶けていく。
――アルファルド。
赤い二等星の名称が、息をするように頭に浮かぶ。
うみへび座の心臓だ。八十八ある星座の中で一番大きな星座。肉眼ではっきりと見える星はアルファルドだけだけれど、全体像をイメージして目を凝らせば徐々に星が姿を現し、点と点が繋がり始める。星座とはそういうものなのだ。
その星の一つ一つを数えていくうちに、ささくれ立っていた心が凪いでいく。その感覚に身を任せ、悠生は一度眼を閉じた。一呼吸おいて、眼を開ける。
視界を覆い尽くす前髪を後ろに撫でつけて見上げれば、世界が星空で埋め尽くされた。
――まぁ、でも、しかたないよな。
細く煙を夜空に逃がしながら考える。
つい先ほど届いたばかりのメールのことだ。送り主は母親で、やれ、真面目に大学に通っているか。やれ、食生活はきちんとしているか。そんなことばかり。
昔はここまで過保護じゃなかったのに、と思うと募るものはあるが、それもまたいまさらだ。電話が鳴るよりは遥かにマシ。そう言い聞かせることで、悠生は自分を納得させた。
煙草を銜えたまま、うみへびの頭から順に星を数える。ギリシャ神話によれば、うみへび座は水蛇の怪物だ。頭が九つあったというヒドラ。まぁ、どれほど眺めても、頭が九つもあるようには捉えられないのだけれど。
取り留めもないことを考えていると、隣の部屋の窓が開く音がした。悠生の部屋は三階建てアパートの最上階の角部屋だ。隣の部屋は一つしかない。吸うペースを心持ち速め、紫煙を吐く。
「まーきくん」
隔板を超えて飛び込んできた声に、悠生はぎょっとして手の内から吸いさしを取り落としかけた。本体の落下はなんとか防いだが、ぱらぱらと夜風に乗って灰が落ちていく。
その行く末を呆然と見送っていると、今度はひょこりと境界線を越えて明るい頭が現れた。
「いっけないんだー、煙草」
「……おまえもだろ」
頭を振って、前髪をぐしゃぐしゃにかき混ぜる。
憮然とした応えになったが、気を悪くした様子もなく、笹原はへらりと笑う。その右手には、悠生の指摘どおり吸いさしが光っていた。
「ざんねーん。俺、一浪してるから、もう二十歳なんだよね」
「二十歳だったら、二浪じゃねぇの」
「違います。四月二日生まれなの」
人好きのする整った顔が、またにこりとほほえむ。
「お兄ちゃんって慕ってもいいのよ。お隣のよしみで」
「……」
「あ、ちょっと、真顔で黙らないでよ、真木くん」
苦手だ。しっかりと会話を交わしたのは今日がはじめてだが、再認した。人当たりの良い派手でチャラいタイプとは、俺は合わない。
というか、こういうタイプも、俺みたいな根暗な人間は嫌いだろう、と悠生は判断した。どこに行っても存在する、スクールカーストというあれだ。俺はいつも最底辺。
こいつはきっと、最上位。
とっとと吸い終わって、中に戻ろう。決めて、またペースを上げる。
「真木くんって呼んでもよかった? それとも、真木でもいい?」
排他的な悠生の空気にも関さず、笹原は愛想良く話しかけてくる。放っておいても一人で話し続けそうな雰囲気に、悠生は仕方なく口から煙草を離した。
「悠生」
「え? 下の名前で呼んでいいんだ。意外」
「嫌いなんだよ、苗字」
「綺麗な苗字なのに。俺の地元にはあまりいなかったな。悠生の地元では多い苗字なの?」
「べつに、普通」
その、微妙に珍しい苗字の所為で、苦労したんだよ。なんて言う必要はない。会話を続ける気のないことも伝わっているだろうに、笹原は態度を変えなかった。
「そっか、普通か」
屈託なく笑う調子に、ちらりと視線を送る。その先で、色素の薄い柔らかそうな髪が夜風になびいていた。
大学生になって染めましたというような不自然さのない、きれいな色。はじめて見たときは天然なのかと疑ったけれど、一年浪人していたというのなら、人工的なものなのかもしれない。
手の込んだスタイリングをしているわけでもないのに香る、モデルのような華やかさ。あいつと一緒だ。本物は、余計な手を加えなくても、一人で勝手に光り輝く。
その華やかな顔が、控えめにほほえんだ。
「飲み会さ、ちょっとでも興味があったらおいでよ。これから四年間一緒なんだし。仲良くしておいてもいいと思うけど」
「おまえさ」
「あ、おまえって。悠生、俺の名前、覚えてる?」
笹原葵。答える代わりに、拾い上げた空き缶に灰を叩く。
「その顔。覚えてないでしょ。笹原ね。笹原葵。これから四年間学科も同じだし、下宿も隣同士なんだからさ。仲良くしようよ」
「すげぇ腐れ縁」
「そう? そんなに嫌そうに言わなくても。偶然だけど、すごくない?」
「じゃなくて」
「ん?」
「おまえが。運、悪いよな」
俺みたいな面倒くさいのと、四六時中一緒になるなんて。あたりまえの顔で続けた悠生に、笹原はほんのわずか驚いたように瞳を瞬かせた。けれど、すぐににこりと笑む。
教職を目指す学生のお手本になりそうな、安心感のある笑顔だった。
「嫌じゃないよ」
「は?」
「知り合ったばかりだから、悠生と一緒でラッキーだったとはさすがに言えないけど。今のところ、騒音も気にならないし。生活マナーも問題なさそうだし」
指折り数えた笹原が、駄目押しのようにほほえむ。
「それに、こうして喋ってるのも楽しいし。だから、仲良くしようよ」
「……変なやつ」
やっぱり合わないと思った。チャラくて、スクールカースト上位の、みんなで仲良くしましょう教の変なやつ。
放っておいてくれとあと何度言ったら、その無条件な好意は消えてなくなるのだろうか。
空き缶の中に吸いさしを放り込む。変なやつ。もう一度胸中で繰り返して、悠生は空を見上げた。
変わらない位置でアルファルドは光っている。あたりまえの事実を確認して勝手に安堵する。それが悠生の日常だった。
寝る前にメールだけ返してしまおうと決めて、ベランダの隅に空き缶を戻す。小さな音が立つのも、室内に戻る直前に星を振り返る習慣もいつもどおりで、でも、ただ一つ。
背中にかかった「また明日」という柔らかな声だけが、いつもから外れていた。
あんな調子で教師になるつもりなのかな。講義室で投げつけられた揶揄を、一人の帰り道に思い返す。
でも、そんなことは、言われなくても自分が一番よくわかっていた。悠生が今の大学を選んだ理由は、ただの消去法。
教師になりたい、だなんて。きらきらした夢を抱いて門徒を叩いてはいないのだから。
大学から下宿先の学生アパートまでは、徒歩十分ほどの距離だ。
悠生の生まれ育った町より桜の開花は遅いらしく、川沿いの桜並木にはうっすらと春が残っている。舗装された道路にひらひらと舞い落ちる花弁のひとつをスニーカーが踏み付けた。
あ、と思って足を上げる。道路に張り付いた春が、恨みがましく自分を見つめているように思え、悠生は小さく頭を振った。
地に足を付けて生きなさい。声と同時に口煩い母親の顔が浮かび、溜息がこぼれる。
今から帰る家に自分を待ち構える人間がいない事実に、悠生はなんとも言えない安堵を覚えた。
通りを歩けば知らない顔にも声をかけられる。真木さんのところの末っ子。あるいは昴生さんの弟。
自分のことなんて知らないはずの他人からもあたりまえに干渉される、閉塞的な田舎。それが悠生の生まれ故郷だ。十八になって、やっと離れることができた。
少しは変われるだろうかと思ったが、人間の本質は早々には変わらないらしい。
地元を離れて一ヶ月弱。悠生はそのことも情けなさと一緒に思い知っていた。
「面倒くせぇ……」
スマートフォンに届いたメールを一読して、悠生は眼鏡を外した。転がっていたベッドから起き上がり、煙草の箱と百円ライターを手にベランダに出る。
洗濯ものを干すスペースがあるだけの狭い空間ではあるものの、近くに高い建物がないおかげで、綺麗に星が見えるのだ。
悠生の地元と比べると都会だが、駅前から少し離れてしまえば、夜は静かだ。手摺に肘を付いて、煙草に火を点ける。溜息とともに吐き出した紫煙が、ゆっくりと夜に溶けていく。
――アルファルド。
赤い二等星の名称が、息をするように頭に浮かぶ。
うみへび座の心臓だ。八十八ある星座の中で一番大きな星座。肉眼ではっきりと見える星はアルファルドだけだけれど、全体像をイメージして目を凝らせば徐々に星が姿を現し、点と点が繋がり始める。星座とはそういうものなのだ。
その星の一つ一つを数えていくうちに、ささくれ立っていた心が凪いでいく。その感覚に身を任せ、悠生は一度眼を閉じた。一呼吸おいて、眼を開ける。
視界を覆い尽くす前髪を後ろに撫でつけて見上げれば、世界が星空で埋め尽くされた。
――まぁ、でも、しかたないよな。
細く煙を夜空に逃がしながら考える。
つい先ほど届いたばかりのメールのことだ。送り主は母親で、やれ、真面目に大学に通っているか。やれ、食生活はきちんとしているか。そんなことばかり。
昔はここまで過保護じゃなかったのに、と思うと募るものはあるが、それもまたいまさらだ。電話が鳴るよりは遥かにマシ。そう言い聞かせることで、悠生は自分を納得させた。
煙草を銜えたまま、うみへびの頭から順に星を数える。ギリシャ神話によれば、うみへび座は水蛇の怪物だ。頭が九つあったというヒドラ。まぁ、どれほど眺めても、頭が九つもあるようには捉えられないのだけれど。
取り留めもないことを考えていると、隣の部屋の窓が開く音がした。悠生の部屋は三階建てアパートの最上階の角部屋だ。隣の部屋は一つしかない。吸うペースを心持ち速め、紫煙を吐く。
「まーきくん」
隔板を超えて飛び込んできた声に、悠生はぎょっとして手の内から吸いさしを取り落としかけた。本体の落下はなんとか防いだが、ぱらぱらと夜風に乗って灰が落ちていく。
その行く末を呆然と見送っていると、今度はひょこりと境界線を越えて明るい頭が現れた。
「いっけないんだー、煙草」
「……おまえもだろ」
頭を振って、前髪をぐしゃぐしゃにかき混ぜる。
憮然とした応えになったが、気を悪くした様子もなく、笹原はへらりと笑う。その右手には、悠生の指摘どおり吸いさしが光っていた。
「ざんねーん。俺、一浪してるから、もう二十歳なんだよね」
「二十歳だったら、二浪じゃねぇの」
「違います。四月二日生まれなの」
人好きのする整った顔が、またにこりとほほえむ。
「お兄ちゃんって慕ってもいいのよ。お隣のよしみで」
「……」
「あ、ちょっと、真顔で黙らないでよ、真木くん」
苦手だ。しっかりと会話を交わしたのは今日がはじめてだが、再認した。人当たりの良い派手でチャラいタイプとは、俺は合わない。
というか、こういうタイプも、俺みたいな根暗な人間は嫌いだろう、と悠生は判断した。どこに行っても存在する、スクールカーストというあれだ。俺はいつも最底辺。
こいつはきっと、最上位。
とっとと吸い終わって、中に戻ろう。決めて、またペースを上げる。
「真木くんって呼んでもよかった? それとも、真木でもいい?」
排他的な悠生の空気にも関さず、笹原は愛想良く話しかけてくる。放っておいても一人で話し続けそうな雰囲気に、悠生は仕方なく口から煙草を離した。
「悠生」
「え? 下の名前で呼んでいいんだ。意外」
「嫌いなんだよ、苗字」
「綺麗な苗字なのに。俺の地元にはあまりいなかったな。悠生の地元では多い苗字なの?」
「べつに、普通」
その、微妙に珍しい苗字の所為で、苦労したんだよ。なんて言う必要はない。会話を続ける気のないことも伝わっているだろうに、笹原は態度を変えなかった。
「そっか、普通か」
屈託なく笑う調子に、ちらりと視線を送る。その先で、色素の薄い柔らかそうな髪が夜風になびいていた。
大学生になって染めましたというような不自然さのない、きれいな色。はじめて見たときは天然なのかと疑ったけれど、一年浪人していたというのなら、人工的なものなのかもしれない。
手の込んだスタイリングをしているわけでもないのに香る、モデルのような華やかさ。あいつと一緒だ。本物は、余計な手を加えなくても、一人で勝手に光り輝く。
その華やかな顔が、控えめにほほえんだ。
「飲み会さ、ちょっとでも興味があったらおいでよ。これから四年間一緒なんだし。仲良くしておいてもいいと思うけど」
「おまえさ」
「あ、おまえって。悠生、俺の名前、覚えてる?」
笹原葵。答える代わりに、拾い上げた空き缶に灰を叩く。
「その顔。覚えてないでしょ。笹原ね。笹原葵。これから四年間学科も同じだし、下宿も隣同士なんだからさ。仲良くしようよ」
「すげぇ腐れ縁」
「そう? そんなに嫌そうに言わなくても。偶然だけど、すごくない?」
「じゃなくて」
「ん?」
「おまえが。運、悪いよな」
俺みたいな面倒くさいのと、四六時中一緒になるなんて。あたりまえの顔で続けた悠生に、笹原はほんのわずか驚いたように瞳を瞬かせた。けれど、すぐににこりと笑む。
教職を目指す学生のお手本になりそうな、安心感のある笑顔だった。
「嫌じゃないよ」
「は?」
「知り合ったばかりだから、悠生と一緒でラッキーだったとはさすがに言えないけど。今のところ、騒音も気にならないし。生活マナーも問題なさそうだし」
指折り数えた笹原が、駄目押しのようにほほえむ。
「それに、こうして喋ってるのも楽しいし。だから、仲良くしようよ」
「……変なやつ」
やっぱり合わないと思った。チャラくて、スクールカースト上位の、みんなで仲良くしましょう教の変なやつ。
放っておいてくれとあと何度言ったら、その無条件な好意は消えてなくなるのだろうか。
空き缶の中に吸いさしを放り込む。変なやつ。もう一度胸中で繰り返して、悠生は空を見上げた。
変わらない位置でアルファルドは光っている。あたりまえの事実を確認して勝手に安堵する。それが悠生の日常だった。
寝る前にメールだけ返してしまおうと決めて、ベランダの隅に空き缶を戻す。小さな音が立つのも、室内に戻る直前に星を振り返る習慣もいつもどおりで、でも、ただ一つ。
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