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8.異星間交流(3)
「はじめて一人でつくったにしてはちゃんとできてる! よかったー。あとで、チーズとかいろいろ混ぜよっか。このあいだはね、最終的になに入れたんだったかな。チョコとかも美味しかったよ」
「甘い?」
「お菓子みたいな感じかな」
ホットケーキミックスでやると、ベビーカステラみたいなのもできるらしいよ、と笹原が続ける。女子が喜びそうだなと悠生は思った。
きっと、その場には女子もいたのだろう。自分の想像が面白くなくて、悠生はもう一つに箸を伸ばした。
「大人数でわいわいやるのも、もちろん楽しいんだけどさ。悠生ともやりたいなーと思って。借りてきちゃったんだよね」
「変なやつだな」
「あ、また、それ言う? 俺、悠生以外にそんなこと言われたことないんだけどなー」
笑ったまま首を捻る笹原に、そうだろうなと内心で頷く。この男をそんなふうに貶すのは、きっと自分くらいだ。
開け放たれた窓からは、生ぬるい風が入ってくる。最近は夜になってもちっとも涼しくならない。
先週末、笹原と買いに行ったばかりの扇風機が頑張って風を回しているけれど、クーラーに頼る日はきっと遠くない。
とりとめのないこと考えていると、第二陣のたこ焼きをつくっていた笹原が「そういえば」口を開いた。
「悠生も一人っ子なんだっけ。はじめて子どもに一人暮らしさせるんだったら、そりゃ親も心配なんじゃないかな。うちが飛び抜けて放任主義なだけで」
「上に二人いる」
「二人も? 下は?」
「男ばっかりの三人兄弟」
「へぇ、そうなんだ。知らなかった」
そりゃ、誰にも言ってなかったからな。内心でだけ答え、器用に動く笹原の指を見つめる。器用貧乏だなんて言っていたけれど、なんでもできるに違いない。自分とは大違いだ。
「でも、いいね。男ばっかり三人って楽しそう。お母さんは大変かもしれないけど。俺は一人だったから、ちょっと羨ましいな」
「そうか?」
「うん。でも、だからか。末っ子だったら、心配でかわいいんだろうね。また、かけ直してあげな」
つまり、このお節介は、親をないがしろにしているのが、居合わせた自分のせいではないかと気にしているのだ。
べつに、そういうわけじゃない。でも、「そうする」と請け負えば、終わった話だ。わかっていたのに、悠生の口からは、今まで誰にも話したことのなかったものが零れ落ちていた。
「うちは、兄貴が二人いるんだけど。二人とも俺とはぜんぜん違って」
「ぜんぜんって、かわいくないってこと?」
その言い方だと、まるで自分がかわいいみたいではないか。視線をプレートに落としたまま、悠生は首を振った。
「そうじゃなくて、一番上の兄貴は、身内が言うのもなんだけど、顔も頭も良くて、なんでもできるタイプで、二番目の兄貴もスポーツ万能で華のあるタイプだった」
長方形のプレートに三列。真ん中の列の二つ目を綺麗にひっくり返す動きはよどみがない。
「だから、俺とはぜんぜん違って。俺の地元は田舎だから、二人とも目立ってて。……だから、俺はいつも『弟』だった」
「かわいがられてたってこと?」
「違う」
誤解に、悠生は笑った。
「おまけだったってこと。誰かに話しかけられるのは、ぜんぶ兄貴に関することばっかり。俺に興味なんてないやつばっかり」
真ん中の列の最後の一つ。くるりと綺麗にひっくり返るはずだったそれが、べちゃりと潰れる。
「あ、ちょっと早かったかな」
変わらない声で呟いて、笹原の手がかたちを整えていく。くるくると何度か回せば、一度成型に失敗しているとは思えない形態に変わる。
「よし、修正完了」
「上手いな、おまえ」
「でしょ。専用のピック使うと、初心者でも案外上手にできるみたいだよ。竹串とかだとやっぱり難しいみたい」
これも一緒に借りてきたのだと、そのピッグを笹原がふらふらと揺らす。そうして、持ち手を悠生に差し出した。
「悠生もやってみる? けっこう楽しいよ」
「いや、無理。絶対、下手だし、俺」
「そりゃ、最初は誰だって下手だって。でもやってみないと、できるようになるかどうかもわからないよ」
早くしないと焦げるよと半ば脅されるように急かされて、悠生は器具を受け取った。けれど、どこからどうすればいいのかわからない。
「失敗は成功の母ってやつだね。とりあえず、悠生のやり方でやってみな。かたちが悪くても味は一緒だから」
「笑うなよ」
「なんで? 笑わないに決まってんじゃん。作ったのは俺が貰うけど」
「それこそなんでだよ」
「えー、悠生が作ってくれたの食べたいからに決まってるでしょ。ほら、早く、早く」
意味のわからないことを言いながら、笹原が指さす。縁が焦げ始めていることがわかって、悠生は覚悟を決めてピッグの先端を差し込んだ。
「甘い?」
「お菓子みたいな感じかな」
ホットケーキミックスでやると、ベビーカステラみたいなのもできるらしいよ、と笹原が続ける。女子が喜びそうだなと悠生は思った。
きっと、その場には女子もいたのだろう。自分の想像が面白くなくて、悠生はもう一つに箸を伸ばした。
「大人数でわいわいやるのも、もちろん楽しいんだけどさ。悠生ともやりたいなーと思って。借りてきちゃったんだよね」
「変なやつだな」
「あ、また、それ言う? 俺、悠生以外にそんなこと言われたことないんだけどなー」
笑ったまま首を捻る笹原に、そうだろうなと内心で頷く。この男をそんなふうに貶すのは、きっと自分くらいだ。
開け放たれた窓からは、生ぬるい風が入ってくる。最近は夜になってもちっとも涼しくならない。
先週末、笹原と買いに行ったばかりの扇風機が頑張って風を回しているけれど、クーラーに頼る日はきっと遠くない。
とりとめのないこと考えていると、第二陣のたこ焼きをつくっていた笹原が「そういえば」口を開いた。
「悠生も一人っ子なんだっけ。はじめて子どもに一人暮らしさせるんだったら、そりゃ親も心配なんじゃないかな。うちが飛び抜けて放任主義なだけで」
「上に二人いる」
「二人も? 下は?」
「男ばっかりの三人兄弟」
「へぇ、そうなんだ。知らなかった」
そりゃ、誰にも言ってなかったからな。内心でだけ答え、器用に動く笹原の指を見つめる。器用貧乏だなんて言っていたけれど、なんでもできるに違いない。自分とは大違いだ。
「でも、いいね。男ばっかり三人って楽しそう。お母さんは大変かもしれないけど。俺は一人だったから、ちょっと羨ましいな」
「そうか?」
「うん。でも、だからか。末っ子だったら、心配でかわいいんだろうね。また、かけ直してあげな」
つまり、このお節介は、親をないがしろにしているのが、居合わせた自分のせいではないかと気にしているのだ。
べつに、そういうわけじゃない。でも、「そうする」と請け負えば、終わった話だ。わかっていたのに、悠生の口からは、今まで誰にも話したことのなかったものが零れ落ちていた。
「うちは、兄貴が二人いるんだけど。二人とも俺とはぜんぜん違って」
「ぜんぜんって、かわいくないってこと?」
その言い方だと、まるで自分がかわいいみたいではないか。視線をプレートに落としたまま、悠生は首を振った。
「そうじゃなくて、一番上の兄貴は、身内が言うのもなんだけど、顔も頭も良くて、なんでもできるタイプで、二番目の兄貴もスポーツ万能で華のあるタイプだった」
長方形のプレートに三列。真ん中の列の二つ目を綺麗にひっくり返す動きはよどみがない。
「だから、俺とはぜんぜん違って。俺の地元は田舎だから、二人とも目立ってて。……だから、俺はいつも『弟』だった」
「かわいがられてたってこと?」
「違う」
誤解に、悠生は笑った。
「おまけだったってこと。誰かに話しかけられるのは、ぜんぶ兄貴に関することばっかり。俺に興味なんてないやつばっかり」
真ん中の列の最後の一つ。くるりと綺麗にひっくり返るはずだったそれが、べちゃりと潰れる。
「あ、ちょっと早かったかな」
変わらない声で呟いて、笹原の手がかたちを整えていく。くるくると何度か回せば、一度成型に失敗しているとは思えない形態に変わる。
「よし、修正完了」
「上手いな、おまえ」
「でしょ。専用のピック使うと、初心者でも案外上手にできるみたいだよ。竹串とかだとやっぱり難しいみたい」
これも一緒に借りてきたのだと、そのピッグを笹原がふらふらと揺らす。そうして、持ち手を悠生に差し出した。
「悠生もやってみる? けっこう楽しいよ」
「いや、無理。絶対、下手だし、俺」
「そりゃ、最初は誰だって下手だって。でもやってみないと、できるようになるかどうかもわからないよ」
早くしないと焦げるよと半ば脅されるように急かされて、悠生は器具を受け取った。けれど、どこからどうすればいいのかわからない。
「失敗は成功の母ってやつだね。とりあえず、悠生のやり方でやってみな。かたちが悪くても味は一緒だから」
「笑うなよ」
「なんで? 笑わないに決まってんじゃん。作ったのは俺が貰うけど」
「それこそなんでだよ」
「えー、悠生が作ってくれたの食べたいからに決まってるでしょ。ほら、早く、早く」
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