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38.きっと世界は美しい
*
「大丈夫?」
ごわごわとしたタオルが髪の雫を丁寧にふき取っていく。その感触が気持ち良くて、悠生はそっと目を細めた。狭い風呂場で一緒にシャワーを浴びて、上がってきたのがつい先ほどのことだ。まるで父親か母親のように、座った足の間に悠生を呼んで、後ろから髪を拭いている男は、なぜかやたらと楽しそうだった。
「うん」
するりと素直な声が喉を突く。感情に蓋をせず、まっとうなやり方でぶつけ合うことは、こんなに憑きものが落ちたようなすっきりとした心地になるものだったのか。
そういえば、はるか昔に長兄が説教顔で言っていたような気がする。おまえたちは感情を抑制しすぎているから、いつか爆発したときにろくなことにならないような気がして心配だ、と。それを打ち明けることのできる友人なり恋人なりができたらいいんだろうけどね、と。
「この色もかわいいけど、俺、前の黒髪も好きだったな」
「そうなのか?」
「そうなんです。素材は良いのにもったいない子だなぁって最初は思ってたんだけど、あのもさい姿にも愛着が沸いたというか、なんというか。悠生らしくてかわいいなって思ってたから」
その言葉に、悠生は疑問を口にした。嫌味ではない。純粋に気になったのだ。
「おまえの言う俺らしさってなに?」
「え」
「あ、いや、怒ってるんじゃなくて。どういうふうに見えてたのかなって思っただけ」
動きの止まっていた指先が、ゆっくりとまた動き出す。優しい手つきと小さな振動が気持ちいい。
「さっきも言ったかもしれないけど、そうだな。不器用で、でも、まっすぐで、優しくて、……いろんな意味で原石って感じかな」
「……ふぅん」
「じゃあ、悠生から見た俺ってなんなの?」
面白がっている声に、しばらく考えてから悠生は応えた。
「星」
手の届かないところできらきらと輝いている遠くて近い存在。それでいて、ずっと悠生の心を凪がせてくれていた、たったひとつ。
「なんか」
照れくさそうに笹原が笑ったのが空気で分かった。
「悠生に星って言われると、すごく良いものみたいに思えるな」
そのとおりなのだけど、と思いながら、悠生は笑った。
「今度、また、流星群でも見に行こうか。次はいつが近いの?」
「今月はあんまりないな」
狭間の時期と言われている九月だ。そのあとは、十月。オリオン座流星群。
「そうか、でも、いつでも隣で見れるから、それでも十分なのかもしれないね」
誰かの隣ではなく、笹原の隣で見る星空はどんなものでもきれいなのだと知ったのはいつだっただろう。
きっとそれがこの恋を自覚した瞬間だったはずだ。
曇天でも晴天でも、きっと。あのベランダで。
「そうだな」
息をするように悠生は笑った。
二人きりの世界の上でも、星が輝いている。だから、今夜も、きっと世界は美しい。
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