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第二章 お魚マウント舞踏会
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舞踏会から一週間。怒濤の日々でしたわ。
あの舞踏会の翌日、イスト王国の方々がうちにいらして、丁寧に頭を下げてわたしにお醤油とお魚をプレゼントしてくださったのです。
故国と即座に連絡を取り、都合がつき次第お味噌も贈ってくださるそうです。
嬉しすぎてその場に五体投地して号泣しましたわ……!
そして、今朝。
「念願のお味噌汁ですわーッッ!!」
炊きたてホカホカの白米。
いい塩梅に漬かった各種野菜のぬか漬け。
新鮮な魚の塩焼き。
湯気の立つ熱々のお味噌汁。具はワカメのような海藻ですわ。
「これぞ夢にまで見た理想の朝ご飯ですわ……!」
「この汁、ヤバイ色なんだけど大丈夫かな、イリス姉ちゃん」
「何もヤバくなどありませんわ。とっても美味しそうな色ですわ。ねえアルト様!」
「そうだな。茶色の汁か。美味そうだな!」
「王子様はお姉ちゃんに言われたらなんでも肯定しちゃうから、別の人に聞かないとダメだよ……」
ラルフとミリの監督をしつつ、わたしの朝は始まりますわ。
そして今日も今日とてアルトが来ていますわ。暇なんですの??
「そういえば、ラルフとミリはわたしが起きた時には既に家の前にいますけれど、あなたたちってどこに住んでいますの? 家近なんですの??」
「いつも軒先を借りて寝てるよ!」
「ダメだろミリ! それは内緒にしないと追い出されるだろ!」
「あっ、そうだった。ごめんなさい、お兄ちゃん!」
「えっえっ? 何なんですの? あなたたち、まさかうちの軒先で寝起きしていたんですの??」
「……出て行けっていうんだろ。わかってるよ。別にこれから夏だし、どこで寝ても死にやしねーし」
びっくりしましたがそういえばこの子たち、ストリートチルドレンでしたわ。
家なき子でしたわ。
最近はお小遣いをわたしが預かっているのもありますし、きっとこの辺りの縄張りを仕切る方に上納金も上げていないのですから、根城から追い出されていて当然でしたわ。
「パウラ! ラルフとミリ、うちに住まわせてもよいのではなくって? もうほとんど住み込みみたいに働いてくれていますし」
「……お嬢様がそれでよいのでしたら構いませんが」
「えっ!? お姉ちゃん、いいの?」
「いいですわよ、ミリ。ただしうちで暮らす以上は毎日身体を洗ってもらいますわ」
「今も既に毎朝料理をする前に、庭で身体を洗わされてるっての。おれたちでいいのかよ! マジで!?」
「マジですわ。袖すり合うも他生の縁と言いますもの。というか住む場所がないならもっと早く言って欲しいですわ。お米を精米してくれるミリと美味しいぬか床を管理してくれるラルフを、わたしはもう手放せないんですの」
「ぬか床、上手くいってよかったぁ……!」
「よかったねえ、お兄ちゃん……!」
抱き合って喜んでいますわ。世知辛い世の中ですものね。
「イリスは優しいな。俺もここに住みたいな」
「アルト様には王城という立派なおうちがあるではありませんか~」
「俺も、ここに、住みたいなあ……!!」
「流石に嫁入り前のお嬢様と成人男性を同居させるわけには参りません。お嬢様の評判がケチョンケチョンになってもよいのなら話は別ですが」
「ウウッ、我慢する……!!」
パウラの言葉に涙するアルト。
王子様は苦労知らずに思われがちですが、見えない場所で色々大変な思いもなさっているのでしょうね。
「たくさん食べて元気を出してくださいまし! ほら! お醤油もありますわよ!!」
ダイコンおろしにお醤油をひとしずく垂らし、それをお魚のほぐした身に乗っけてあげます。
するとアルトが口をあけて待っていましたので、入れて差し上げるとしましょう。
「はい、あーんですわ」
「あーん! んん~! こんなに美味いものを食べるのは初めてだ~!!」
「アルト様は本当にお魚とお醤油の組み合わせが大好きですのね」
ヴェリがわたしに倣うようにダイコンおろしにお醤油を垂らし、それを魚の身にのせて、口に運んだかと思うとピンと来た顔をされていましたわ。
直後に掻き込むホカホカの白いご飯。わかっていますわね!
「むっ……これは美味いですな」
「アーロ殿は味噌汁がお好きですの? お目が高いですわね。身体にもいいんですのよ」
「ほう……」
アルトとヴェリの付き合いでここへ来ているような様子だったアーロにも、好物ができたようでよかったですわ。
「ラルフとミリも一緒に食べましょう。身分など気にする者はここにはいませんわ!」
「いや、おれたちが気にする」
「うん……ミリも……お姉ちゃんならともかく他の人とじゃごはんが喉を通らないかも……」
親しみやすい系お嬢様ですものね、わたしって。
それにエルフがちょっと恐い気持ち、わかりますわ~。
わたしですらたまに緊張しますもの。緊張した上でご飯を最優先していますけれども。
それでも不思議とよくしてくださるのよね、この方々って。
やっぱりお友達だから、ですわよね!
「種族を越えた友情に、乾杯ですわーッ!!」
「友情ではなく、愛情なんだが……まあいいか」
アルトが不思議なことをおっしゃって、にっこりと笑ってお茶の入ったコップを掲げました。
「イリスと出会えた幸運に、乾杯」
「アルト様というお友達に会えた奇跡に乾杯ですわ!!」
温かなお茶をぐびりぐびりと飲み干すと、アルトがにっこり笑って顔を近づけてきて、わたしの頬に唇を押しつけて離れていきましたわ。
「へ!?」
びっくりしてみんなのことを見回しましたけれど、誰とも目が合いませんわ。誰も反応すらしませんわ!!
え? 頬にチュウってこの国では普通のことなんですの?
お友達なら誰とでもやることだったりしますの??
な、ならまあ、いいですわ。そういうものなんですのね。
だけどびっくりしましたわ。
アルトをちらりと見てみたら、にこにこ笑顔を向けられましたわ。
思わず目を逸らしてしまいましたわ!
……今だけはちょっぴり、アルトの顔を見るのが気恥ずかしい気がして、ご飯が二杯しか食べられませんでしたわ。
あの舞踏会の翌日、イスト王国の方々がうちにいらして、丁寧に頭を下げてわたしにお醤油とお魚をプレゼントしてくださったのです。
故国と即座に連絡を取り、都合がつき次第お味噌も贈ってくださるそうです。
嬉しすぎてその場に五体投地して号泣しましたわ……!
そして、今朝。
「念願のお味噌汁ですわーッッ!!」
炊きたてホカホカの白米。
いい塩梅に漬かった各種野菜のぬか漬け。
新鮮な魚の塩焼き。
湯気の立つ熱々のお味噌汁。具はワカメのような海藻ですわ。
「これぞ夢にまで見た理想の朝ご飯ですわ……!」
「この汁、ヤバイ色なんだけど大丈夫かな、イリス姉ちゃん」
「何もヤバくなどありませんわ。とっても美味しそうな色ですわ。ねえアルト様!」
「そうだな。茶色の汁か。美味そうだな!」
「王子様はお姉ちゃんに言われたらなんでも肯定しちゃうから、別の人に聞かないとダメだよ……」
ラルフとミリの監督をしつつ、わたしの朝は始まりますわ。
そして今日も今日とてアルトが来ていますわ。暇なんですの??
「そういえば、ラルフとミリはわたしが起きた時には既に家の前にいますけれど、あなたたちってどこに住んでいますの? 家近なんですの??」
「いつも軒先を借りて寝てるよ!」
「ダメだろミリ! それは内緒にしないと追い出されるだろ!」
「あっ、そうだった。ごめんなさい、お兄ちゃん!」
「えっえっ? 何なんですの? あなたたち、まさかうちの軒先で寝起きしていたんですの??」
「……出て行けっていうんだろ。わかってるよ。別にこれから夏だし、どこで寝ても死にやしねーし」
びっくりしましたがそういえばこの子たち、ストリートチルドレンでしたわ。
家なき子でしたわ。
最近はお小遣いをわたしが預かっているのもありますし、きっとこの辺りの縄張りを仕切る方に上納金も上げていないのですから、根城から追い出されていて当然でしたわ。
「パウラ! ラルフとミリ、うちに住まわせてもよいのではなくって? もうほとんど住み込みみたいに働いてくれていますし」
「……お嬢様がそれでよいのでしたら構いませんが」
「えっ!? お姉ちゃん、いいの?」
「いいですわよ、ミリ。ただしうちで暮らす以上は毎日身体を洗ってもらいますわ」
「今も既に毎朝料理をする前に、庭で身体を洗わされてるっての。おれたちでいいのかよ! マジで!?」
「マジですわ。袖すり合うも他生の縁と言いますもの。というか住む場所がないならもっと早く言って欲しいですわ。お米を精米してくれるミリと美味しいぬか床を管理してくれるラルフを、わたしはもう手放せないんですの」
「ぬか床、上手くいってよかったぁ……!」
「よかったねえ、お兄ちゃん……!」
抱き合って喜んでいますわ。世知辛い世の中ですものね。
「イリスは優しいな。俺もここに住みたいな」
「アルト様には王城という立派なおうちがあるではありませんか~」
「俺も、ここに、住みたいなあ……!!」
「流石に嫁入り前のお嬢様と成人男性を同居させるわけには参りません。お嬢様の評判がケチョンケチョンになってもよいのなら話は別ですが」
「ウウッ、我慢する……!!」
パウラの言葉に涙するアルト。
王子様は苦労知らずに思われがちですが、見えない場所で色々大変な思いもなさっているのでしょうね。
「たくさん食べて元気を出してくださいまし! ほら! お醤油もありますわよ!!」
ダイコンおろしにお醤油をひとしずく垂らし、それをお魚のほぐした身に乗っけてあげます。
するとアルトが口をあけて待っていましたので、入れて差し上げるとしましょう。
「はい、あーんですわ」
「あーん! んん~! こんなに美味いものを食べるのは初めてだ~!!」
「アルト様は本当にお魚とお醤油の組み合わせが大好きですのね」
ヴェリがわたしに倣うようにダイコンおろしにお醤油を垂らし、それを魚の身にのせて、口に運んだかと思うとピンと来た顔をされていましたわ。
直後に掻き込むホカホカの白いご飯。わかっていますわね!
「むっ……これは美味いですな」
「アーロ殿は味噌汁がお好きですの? お目が高いですわね。身体にもいいんですのよ」
「ほう……」
アルトとヴェリの付き合いでここへ来ているような様子だったアーロにも、好物ができたようでよかったですわ。
「ラルフとミリも一緒に食べましょう。身分など気にする者はここにはいませんわ!」
「いや、おれたちが気にする」
「うん……ミリも……お姉ちゃんならともかく他の人とじゃごはんが喉を通らないかも……」
親しみやすい系お嬢様ですものね、わたしって。
それにエルフがちょっと恐い気持ち、わかりますわ~。
わたしですらたまに緊張しますもの。緊張した上でご飯を最優先していますけれども。
それでも不思議とよくしてくださるのよね、この方々って。
やっぱりお友達だから、ですわよね!
「種族を越えた友情に、乾杯ですわーッ!!」
「友情ではなく、愛情なんだが……まあいいか」
アルトが不思議なことをおっしゃって、にっこりと笑ってお茶の入ったコップを掲げました。
「イリスと出会えた幸運に、乾杯」
「アルト様というお友達に会えた奇跡に乾杯ですわ!!」
温かなお茶をぐびりぐびりと飲み干すと、アルトがにっこり笑って顔を近づけてきて、わたしの頬に唇を押しつけて離れていきましたわ。
「へ!?」
びっくりしてみんなのことを見回しましたけれど、誰とも目が合いませんわ。誰も反応すらしませんわ!!
え? 頬にチュウってこの国では普通のことなんですの?
お友達なら誰とでもやることだったりしますの??
な、ならまあ、いいですわ。そういうものなんですのね。
だけどびっくりしましたわ。
アルトをちらりと見てみたら、にこにこ笑顔を向けられましたわ。
思わず目を逸らしてしまいましたわ!
……今だけはちょっぴり、アルトの顔を見るのが気恥ずかしい気がして、ご飯が二杯しか食べられませんでしたわ。
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