3 / 82
3、白銀の女神
しおりを挟む
父の言葉が紡がれようとした寸前、緊張した天音の声が割って入る。
「・・・お父さん。どうやら相手は、私たちの行動を予め読んでいたようです」
低くつぶやき、天を駆けた美乙女は大地に着地した。
眼前に、切り立った崖がある。降り立ったのは、その前に開けた山肌の台地だった。
ざっと見渡して、100m四方ほどの広さは襲撃にはもってこいの場所と思えた。
「どうしたの、天音? この崖を昇るのは、さすがにムリ?」
「できなくはないけど・・・ダメよ」
すっと人差し指で、天音は崖の上を示した。
無数の人影が、蠢いている。その手には、マシンガンやバズーカ砲と思しき銃火器が握られていた。
「ッ!!」
「逃げているようで、私は巧みに、この場に誘導されていたみたい」
3人の家族を静かに降ろし、黒ワンピースの乙女は周囲に視線を飛ばす。
「ヒョッヒョッヒョッ・・・なかなかに利発な娘のようじゃなあ」
そぼ降る雨の彼方に、濃密な漆黒が滲み出した。
漆黒は、やがて影となる。四肢を伴い、人の形をとって、天音たち4人の前に進み出た。
「家族の身を案じ、安易に崖に昇るのを自重した。のみならず、瞬時に儂の意図するところを読み取ったか。悪くない。悪くないぞお」
「あなたが、今回の首謀者というわけね」
両親と妹を庇うように、天音もまた前に出た。
闇から姿を現したのは、背中の丸まった、皺だらけの老人だった。
「うッ・・・!」
思わず吐き気を催し、慌てて郁美は逆流しかけた胃の内容物を飲み込んだ。
不気味な老人だった。体長にして、130cmほどの小柄。異様に長く伸びた鷲鼻と尖った耳とが、魔法使いを連想させる。垂れ下がった眼は奥まで落ち窪み、吊り上がった唇が耳近くまで裂けている。髪の毛一本もなく禿げ上がった頭にも皺が深く刻まれ、カサカサに枯れた皮膚に、雨が沁み込んでいた。
これだけでも明らかに異様。常人でないのは明白だが、郁美を戦慄させたのはそれだけではない。
蛆が湧いていた。身体中の皺の狭間に、白く長いものがウヨウヨと。
それでいてこの老人は、我が身にたかる蛆に、まるで無頓着であるらしかった。
「んん~? ああ、これじゃな」
姉の背後で震える少女に気付き、老人はニヤリと笑った。
額の皺で蠢く蛆を掴むと、そのまま口の中にいれ、ムシャムシャと咀嚼する。
「うッ・・・うう”ゥッ・・・!!」
「なあに、儂の非常食じゃよ。お嬢ちゃんもおひとついかがかな?」
「郁美には手を出させないわ!」
鋭く言い放ち、天音は大の字で立ちはだかった。
「郁美、お父さん、お母さん。そこで固まって、動かないで。絶対に、私の後ろから外れてはダメよ」
「ヒョホホホ・・・!! いい気構えじゃのう~。情報では昨日まで普通の人間だったはずじゃが・・・信じられんわい」
「あなたの狙いは私のはずでしょう。この、四乃宮天音の命が」
「そうかね。ヌシの名は四乃宮天音というのかね。じゃが、生憎、死に逝くオメガスレイヤーの素性になど、興味はなくてのう」
オメガスレイヤー? ・・・オメガって、昨日あのコが言っていた?
聞き慣れぬ単語に、郁美が意識を奪われた瞬間だった。
「肉片になるがよい」
突如地中から、無数の人影が飛び出す。
20、30・・・いや、50はいるか。
手に手に持ったライフルや拳銃、マシンガンから果てはミサイルランチャーまで。ありとあらゆる銃火器の砲口が、一斉に大の字の天音に向けられた。
ドドドドッ!! パラパラパラ! ドガガガガッ!!
「きゃああああッ――ッ!!」
銃撃の炎が飛び散り、轟音が響く。郁美の悲鳴が、凄惨な音色に重なった。
家族を守るため、立ちはだかった美しき乙女。顔といわず、胸といわず、その全身に弾丸の嵐が浴びせられる。バズーカの砲弾までが、まともに天音に直撃した。
ひらひらと、千切れたワンピースの破片が宙を舞う。
衣服だけでなく、天音の肉体自体も、原型を残しているとは到底思えなかった。
「・・・それで、お終い?」
集中砲火の火花のなかで、信じられない声がした。
まず第一に、その声が聞こえるはずがなかった。何百発という銃撃を受けて、なぜ生き永らえている人間がいるのか。
そして次に、声の調子に余裕が漂うのが、怪物という概念すら越えて信じられなかった。
「・・・なるほどのう・・・これが、オメガスレイヤーの力かね」
よく目を凝らせば、大の字で動かないと思われた天音の両腕が、わずかにブレていることが確認できる。
凄まじい速度で、天音の両手は弾丸を掴んでいた。流れ弾が、後ろの家族に当たらないように。
我が身に当たる銃弾に関しては、避けない。なぜならば、いくら弾丸を浴びても四乃宮天音には通用しないから――。
「私には、こんなものは何万発撃っても効かないわ」
拳を握った両手を、ゆっくりと開く。潰れた弾丸が、パラパラと地に落ちた。
次の瞬間、眩い白光が、天音の全身で爆発する。
足元に転がった銃弾が、光の暴発に弾き飛ばされる。そのうちのいくつかは、何体かの襲撃者を貫通した。白光の余波をまともに浴びて、それだけでバタバタと倒れていく者もあった。
夜を昼に変えるような光の奔流に、地中から現れた襲撃者たちは後ずさった。
「こッ・・・これはッ!!」
光のなかから現れた姉の姿に、郁美は声をあげていた。
美しさに、目がくらむ。
街中ならば奇抜にさえ見えるファッションにも関わらず・・・よく見知ったはずの姉は、麗しく、気高く、神々しくすら郁美には映った。
黒のワンピースの下、天音が着こんでいたのは手甲にまで伸びた白銀のスーツ。膝下までのロングブーツも白く光り輝いている。
黄金に輝く胸の紋章とベルト。背中に纏ったケープとフレアミニのスカートは、知性を示すような澄み切った紺青だった。
漆黒の髪はプラチナブロンドに変わり、全身を光の粒子がキラキラと覆っている。
胸中央の黄金の紋章には、青色で「Ω」にも似た記号が刻まれていた。
「郁美・・・ごめんね。本当はこんな形で、あなたに教えたくはなかったんだけれど」
青のケープを翻し、腰に両手を添えて白銀の乙女は仁王立ちした。
光り輝くその姿は、まさに女神の降臨を思わせた。
「私は、白銀の光女神オメガヴィーナス・・・オメガスレイヤーの頂点に立つ戦士よ」
「・・・お父さん。どうやら相手は、私たちの行動を予め読んでいたようです」
低くつぶやき、天を駆けた美乙女は大地に着地した。
眼前に、切り立った崖がある。降り立ったのは、その前に開けた山肌の台地だった。
ざっと見渡して、100m四方ほどの広さは襲撃にはもってこいの場所と思えた。
「どうしたの、天音? この崖を昇るのは、さすがにムリ?」
「できなくはないけど・・・ダメよ」
すっと人差し指で、天音は崖の上を示した。
無数の人影が、蠢いている。その手には、マシンガンやバズーカ砲と思しき銃火器が握られていた。
「ッ!!」
「逃げているようで、私は巧みに、この場に誘導されていたみたい」
3人の家族を静かに降ろし、黒ワンピースの乙女は周囲に視線を飛ばす。
「ヒョッヒョッヒョッ・・・なかなかに利発な娘のようじゃなあ」
そぼ降る雨の彼方に、濃密な漆黒が滲み出した。
漆黒は、やがて影となる。四肢を伴い、人の形をとって、天音たち4人の前に進み出た。
「家族の身を案じ、安易に崖に昇るのを自重した。のみならず、瞬時に儂の意図するところを読み取ったか。悪くない。悪くないぞお」
「あなたが、今回の首謀者というわけね」
両親と妹を庇うように、天音もまた前に出た。
闇から姿を現したのは、背中の丸まった、皺だらけの老人だった。
「うッ・・・!」
思わず吐き気を催し、慌てて郁美は逆流しかけた胃の内容物を飲み込んだ。
不気味な老人だった。体長にして、130cmほどの小柄。異様に長く伸びた鷲鼻と尖った耳とが、魔法使いを連想させる。垂れ下がった眼は奥まで落ち窪み、吊り上がった唇が耳近くまで裂けている。髪の毛一本もなく禿げ上がった頭にも皺が深く刻まれ、カサカサに枯れた皮膚に、雨が沁み込んでいた。
これだけでも明らかに異様。常人でないのは明白だが、郁美を戦慄させたのはそれだけではない。
蛆が湧いていた。身体中の皺の狭間に、白く長いものがウヨウヨと。
それでいてこの老人は、我が身にたかる蛆に、まるで無頓着であるらしかった。
「んん~? ああ、これじゃな」
姉の背後で震える少女に気付き、老人はニヤリと笑った。
額の皺で蠢く蛆を掴むと、そのまま口の中にいれ、ムシャムシャと咀嚼する。
「うッ・・・うう”ゥッ・・・!!」
「なあに、儂の非常食じゃよ。お嬢ちゃんもおひとついかがかな?」
「郁美には手を出させないわ!」
鋭く言い放ち、天音は大の字で立ちはだかった。
「郁美、お父さん、お母さん。そこで固まって、動かないで。絶対に、私の後ろから外れてはダメよ」
「ヒョホホホ・・・!! いい気構えじゃのう~。情報では昨日まで普通の人間だったはずじゃが・・・信じられんわい」
「あなたの狙いは私のはずでしょう。この、四乃宮天音の命が」
「そうかね。ヌシの名は四乃宮天音というのかね。じゃが、生憎、死に逝くオメガスレイヤーの素性になど、興味はなくてのう」
オメガスレイヤー? ・・・オメガって、昨日あのコが言っていた?
聞き慣れぬ単語に、郁美が意識を奪われた瞬間だった。
「肉片になるがよい」
突如地中から、無数の人影が飛び出す。
20、30・・・いや、50はいるか。
手に手に持ったライフルや拳銃、マシンガンから果てはミサイルランチャーまで。ありとあらゆる銃火器の砲口が、一斉に大の字の天音に向けられた。
ドドドドッ!! パラパラパラ! ドガガガガッ!!
「きゃああああッ――ッ!!」
銃撃の炎が飛び散り、轟音が響く。郁美の悲鳴が、凄惨な音色に重なった。
家族を守るため、立ちはだかった美しき乙女。顔といわず、胸といわず、その全身に弾丸の嵐が浴びせられる。バズーカの砲弾までが、まともに天音に直撃した。
ひらひらと、千切れたワンピースの破片が宙を舞う。
衣服だけでなく、天音の肉体自体も、原型を残しているとは到底思えなかった。
「・・・それで、お終い?」
集中砲火の火花のなかで、信じられない声がした。
まず第一に、その声が聞こえるはずがなかった。何百発という銃撃を受けて、なぜ生き永らえている人間がいるのか。
そして次に、声の調子に余裕が漂うのが、怪物という概念すら越えて信じられなかった。
「・・・なるほどのう・・・これが、オメガスレイヤーの力かね」
よく目を凝らせば、大の字で動かないと思われた天音の両腕が、わずかにブレていることが確認できる。
凄まじい速度で、天音の両手は弾丸を掴んでいた。流れ弾が、後ろの家族に当たらないように。
我が身に当たる銃弾に関しては、避けない。なぜならば、いくら弾丸を浴びても四乃宮天音には通用しないから――。
「私には、こんなものは何万発撃っても効かないわ」
拳を握った両手を、ゆっくりと開く。潰れた弾丸が、パラパラと地に落ちた。
次の瞬間、眩い白光が、天音の全身で爆発する。
足元に転がった銃弾が、光の暴発に弾き飛ばされる。そのうちのいくつかは、何体かの襲撃者を貫通した。白光の余波をまともに浴びて、それだけでバタバタと倒れていく者もあった。
夜を昼に変えるような光の奔流に、地中から現れた襲撃者たちは後ずさった。
「こッ・・・これはッ!!」
光のなかから現れた姉の姿に、郁美は声をあげていた。
美しさに、目がくらむ。
街中ならば奇抜にさえ見えるファッションにも関わらず・・・よく見知ったはずの姉は、麗しく、気高く、神々しくすら郁美には映った。
黒のワンピースの下、天音が着こんでいたのは手甲にまで伸びた白銀のスーツ。膝下までのロングブーツも白く光り輝いている。
黄金に輝く胸の紋章とベルト。背中に纏ったケープとフレアミニのスカートは、知性を示すような澄み切った紺青だった。
漆黒の髪はプラチナブロンドに変わり、全身を光の粒子がキラキラと覆っている。
胸中央の黄金の紋章には、青色で「Ω」にも似た記号が刻まれていた。
「郁美・・・ごめんね。本当はこんな形で、あなたに教えたくはなかったんだけれど」
青のケープを翻し、腰に両手を添えて白銀の乙女は仁王立ちした。
光り輝くその姿は、まさに女神の降臨を思わせた。
「私は、白銀の光女神オメガヴィーナス・・・オメガスレイヤーの頂点に立つ戦士よ」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~
桂
ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。
そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。
そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
