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5、神業
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青のケープを翻し、くるりと背後を振り返る。
白銀の女神の背中は傷ひとつどころか、スーツに破り目すら、付いてはいなかった。
逆に死者たちの握ったナイフは、途中で折れるか、飴細工のようにぐにゃりと曲がってしまっている。
「〝威吹”」
頬を膨らませ、オメガヴィーナスは厚めの唇を尖らせる。
ケガレたちに向け、白い豪風をジェット噴射のように吹き付けた。
ボロッ・・・ボロボロッ・・・ブアアァッ・・・!!
崩れていく。ゾンビの肉体が。
吹き荒ぶ、吐息の勢いゆえか。あるいはオメガヴィーナスが吹けば、息にすら聖なる光が宿るのか。
痩せ細っていても人の形をしていた肉塊が、バラバラと解けていく。水に溶かした紙粘土のように。土埃へと瓦解する、ミイラのように。
「きゃああッ!」
妹の悲鳴に、金髪の女神は視線を向けた。
死者とはいえ、人間の形をしたモノが滅びていく光景に、16歳の少女は怯えたのかと思った。違っていた。身の危険が迫ったとき、ひとはそれ以外のことは意に介せなくなるらしい。
3体のケガレが、郁美、そして両親とに襲いかかっている。
本能で動く彼らは、近くにいる生温かな「生者」を喰わんとしていた。ゾンビにとっては、ごく正常な反応。黄色い歯を剥き出して迫る死者に、女子高生は濡れた大地に尻餅をついて泣き叫んでいる。
「〝ホーリー・ビジョン”ッ!」
オメガヴィーナスの両目から、白い光線が一直線に射出された。
父親に噛みつこうとしていたケガレに直撃するや、木端微塵に粉砕する。
次々と発射された聖なるレーザーは、残る2体も瞬きする間に粉々に吹き飛ばした。
「ここまで分断すれば、不死のゾンビも地に還るってわけね」
「ぐッ・・・ぬううッ!」
「骸頭。あなたは私が闘い慣れていない、と言ったけれど、基本的な闘い方ならすでに学んでいるわ。そしてなにより、オメガスレイヤーの能力は妖化屍を遥かに上回っている」
「わかっておるわい、そんなことは・・・。じゃからこそ、ヌシが実力をつける前に始末するのじゃ」
数の上ではいまだ襲撃者優位でも、戦局は一方的に決しつつあった。
そんな予感が漂うなか、右と左、遠く離れた両端で、2体のケガレが武器を構える。
2体がともに持っているのは、携帯式のミサイルランチャーだった。
「ッ・・・! なにを」
「人間の進歩も侮れぬのう。300年前には、到底存在し得なかった火力・・・はてさて、最強のオメガスレイヤーといえど、耐え切れるものかどうか」
妖魔でありながら、骸頭は人類が生み出した科学の力を、我が物としているのか。
〝百識”という異名の理由を、光の女神は思い知った気がした。
「・・・当たらなければ、意味はないわ」
「当たるんじゃよ、それが。なにせ、狙うのはヌシ自体ではないからのう」
オメガヴィーナスが言葉の真意を悟るより早く、ランチャーの発射装置は起動された。
轟音が、雨の山中に鳴り響く。2つ。左右から、同時に。
炎を噴いて、ふたつのミサイルが、ひと固まりになった父と母と妹とに飛来する。
ドオオオオンンッッ!!!
全速で駆けた白銀の女神は、一瞬にしてミサイルの前に立ち塞がった。
右手と左手。ひとつづつ。
二方向から迫る砲弾を、ちょうど中央で挟まれたかのように、オメガヴィーナスは受け止めていた。
「なッ!? ・・・じゃがッ、爆発からは逃れられまいッ! 特に愛する家族たちはのうッ!」
カッ!! ・・・ドゴオオオオッッンンッ!!!
巨大な炎の塊となって、ふたつのミサイルは爆発した。
熱風と轟音が渦を巻く。白銀と紺青に包まれたグラマラスな肢体が、炎のなかに飲み込まれた。
砲弾を包む鋼鉄製の外郭が、爆破とともに周囲に飛び散る。たとえ直撃を避けたとしても、散乱する金属片が近くの者をズタズタに切り裂くだろう。それでなくとも、数百度の炎が周辺一帯を焦がすはずだ。
爆発の炎が消えゆくなか、オメガヴィーナスは立っていた。
白銀のスーツも、青のケープとフレアミニも、黒く焦げ跡が残っている。
パールのように輝く皮膚にも、黒煤が付着し汚していた。パチパチと炎の残滓が、金髪や衣服のあちこちに揺れている。
それまで圧倒的な力を見せていた女神が、初めて見せるダメージの姿。
しかし、爛々と瞳を輝かせるオメガヴィーナスに、ミサイルですら効果が薄かったのは明らかであった。
「・・・ヌシこそは、本物のバケモノじゃわい。しかし、愛する者を守れなかったのは、痛恨の極みとなって・・・」
「誰が、愛する者を守れなかったのかしら?」
怒りを含んだ美女神の言葉に、妖化屍・骸頭は戦慄した。
究極戦士を怒らせてしまった、からではない。
オメガヴィーナスが両手を開く。パラパラと落ちる金属片は、爆発し飛び散ったはずのミサイルのもの。
あの瞬間、白銀の女神は吹き飛ぶ砲弾の外郭を、掴み取っていたのだ。背後の家族に、当たらぬように。
それだけではない。高速で動かす手の動きは、熱風すらも遮断していた。風圧による空気の膜が、炎を防ぐ壁となった。
神業を証明するかのように、オメガヴィーナスの後ろには、軽い火傷を負っただけの3人の家族が、呆然とした面持ちで座り込んでいる。
「まさかッ・・・!! そんなことが、できるわけが・・・」
「できるのよ。なぜなら私は、白銀の光女神オメガヴィーナスだから」
ブチンッ・・・!!
なにかが、破裂する音がした。
骸頭の顔面、その深く刻まれた皺のなか。憤怒に歪んだ形相が、皺の奥に棲む白い蛆を、押し潰した音だった。
「・・・オメガ・・・ヴィーナスッ・・・・・・四乃宮・・・天音ェッ~~・・・!! 戯れは、ここまでにさせてもらうぞォ・・・」
「それはこちらの台詞よ。父さん、母さん、そして郁美をこれ以上危険に晒すなら・・・もう容赦はしないわ!」
魅惑的な瞳が、鋭く怪老を射抜く。その時だった。
ドオオンンッッ!!
切り立った崖の上より、なにかが落下した。
いや、落ちたのではなく、それは降り立ったのだ。
「貴様ッ・・・!! 姿を見せるなと、言っておいたじゃろうがあッ!!」
「そうはいかんな。骸頭、お前の策に付き合うのは、もう終わりだ」
高層ビルのような崖から飛び降り、平然と二本の脚で着地する者。
頭頂から爪先まで、すっぽりと漆黒のローブに覆われた男が、新たな妖化屍であることは一目でわかった。
「お前ひとりでは、この女・・・オメガヴィーナスには勝てん。オレも加勢するぞ」
白銀の女神の背中は傷ひとつどころか、スーツに破り目すら、付いてはいなかった。
逆に死者たちの握ったナイフは、途中で折れるか、飴細工のようにぐにゃりと曲がってしまっている。
「〝威吹”」
頬を膨らませ、オメガヴィーナスは厚めの唇を尖らせる。
ケガレたちに向け、白い豪風をジェット噴射のように吹き付けた。
ボロッ・・・ボロボロッ・・・ブアアァッ・・・!!
崩れていく。ゾンビの肉体が。
吹き荒ぶ、吐息の勢いゆえか。あるいはオメガヴィーナスが吹けば、息にすら聖なる光が宿るのか。
痩せ細っていても人の形をしていた肉塊が、バラバラと解けていく。水に溶かした紙粘土のように。土埃へと瓦解する、ミイラのように。
「きゃああッ!」
妹の悲鳴に、金髪の女神は視線を向けた。
死者とはいえ、人間の形をしたモノが滅びていく光景に、16歳の少女は怯えたのかと思った。違っていた。身の危険が迫ったとき、ひとはそれ以外のことは意に介せなくなるらしい。
3体のケガレが、郁美、そして両親とに襲いかかっている。
本能で動く彼らは、近くにいる生温かな「生者」を喰わんとしていた。ゾンビにとっては、ごく正常な反応。黄色い歯を剥き出して迫る死者に、女子高生は濡れた大地に尻餅をついて泣き叫んでいる。
「〝ホーリー・ビジョン”ッ!」
オメガヴィーナスの両目から、白い光線が一直線に射出された。
父親に噛みつこうとしていたケガレに直撃するや、木端微塵に粉砕する。
次々と発射された聖なるレーザーは、残る2体も瞬きする間に粉々に吹き飛ばした。
「ここまで分断すれば、不死のゾンビも地に還るってわけね」
「ぐッ・・・ぬううッ!」
「骸頭。あなたは私が闘い慣れていない、と言ったけれど、基本的な闘い方ならすでに学んでいるわ。そしてなにより、オメガスレイヤーの能力は妖化屍を遥かに上回っている」
「わかっておるわい、そんなことは・・・。じゃからこそ、ヌシが実力をつける前に始末するのじゃ」
数の上ではいまだ襲撃者優位でも、戦局は一方的に決しつつあった。
そんな予感が漂うなか、右と左、遠く離れた両端で、2体のケガレが武器を構える。
2体がともに持っているのは、携帯式のミサイルランチャーだった。
「ッ・・・! なにを」
「人間の進歩も侮れぬのう。300年前には、到底存在し得なかった火力・・・はてさて、最強のオメガスレイヤーといえど、耐え切れるものかどうか」
妖魔でありながら、骸頭は人類が生み出した科学の力を、我が物としているのか。
〝百識”という異名の理由を、光の女神は思い知った気がした。
「・・・当たらなければ、意味はないわ」
「当たるんじゃよ、それが。なにせ、狙うのはヌシ自体ではないからのう」
オメガヴィーナスが言葉の真意を悟るより早く、ランチャーの発射装置は起動された。
轟音が、雨の山中に鳴り響く。2つ。左右から、同時に。
炎を噴いて、ふたつのミサイルが、ひと固まりになった父と母と妹とに飛来する。
ドオオオオンンッッ!!!
全速で駆けた白銀の女神は、一瞬にしてミサイルの前に立ち塞がった。
右手と左手。ひとつづつ。
二方向から迫る砲弾を、ちょうど中央で挟まれたかのように、オメガヴィーナスは受け止めていた。
「なッ!? ・・・じゃがッ、爆発からは逃れられまいッ! 特に愛する家族たちはのうッ!」
カッ!! ・・・ドゴオオオオッッンンッ!!!
巨大な炎の塊となって、ふたつのミサイルは爆発した。
熱風と轟音が渦を巻く。白銀と紺青に包まれたグラマラスな肢体が、炎のなかに飲み込まれた。
砲弾を包む鋼鉄製の外郭が、爆破とともに周囲に飛び散る。たとえ直撃を避けたとしても、散乱する金属片が近くの者をズタズタに切り裂くだろう。それでなくとも、数百度の炎が周辺一帯を焦がすはずだ。
爆発の炎が消えゆくなか、オメガヴィーナスは立っていた。
白銀のスーツも、青のケープとフレアミニも、黒く焦げ跡が残っている。
パールのように輝く皮膚にも、黒煤が付着し汚していた。パチパチと炎の残滓が、金髪や衣服のあちこちに揺れている。
それまで圧倒的な力を見せていた女神が、初めて見せるダメージの姿。
しかし、爛々と瞳を輝かせるオメガヴィーナスに、ミサイルですら効果が薄かったのは明らかであった。
「・・・ヌシこそは、本物のバケモノじゃわい。しかし、愛する者を守れなかったのは、痛恨の極みとなって・・・」
「誰が、愛する者を守れなかったのかしら?」
怒りを含んだ美女神の言葉に、妖化屍・骸頭は戦慄した。
究極戦士を怒らせてしまった、からではない。
オメガヴィーナスが両手を開く。パラパラと落ちる金属片は、爆発し飛び散ったはずのミサイルのもの。
あの瞬間、白銀の女神は吹き飛ぶ砲弾の外郭を、掴み取っていたのだ。背後の家族に、当たらぬように。
それだけではない。高速で動かす手の動きは、熱風すらも遮断していた。風圧による空気の膜が、炎を防ぐ壁となった。
神業を証明するかのように、オメガヴィーナスの後ろには、軽い火傷を負っただけの3人の家族が、呆然とした面持ちで座り込んでいる。
「まさかッ・・・!! そんなことが、できるわけが・・・」
「できるのよ。なぜなら私は、白銀の光女神オメガヴィーナスだから」
ブチンッ・・・!!
なにかが、破裂する音がした。
骸頭の顔面、その深く刻まれた皺のなか。憤怒に歪んだ形相が、皺の奥に棲む白い蛆を、押し潰した音だった。
「・・・オメガ・・・ヴィーナスッ・・・・・・四乃宮・・・天音ェッ~~・・・!! 戯れは、ここまでにさせてもらうぞォ・・・」
「それはこちらの台詞よ。父さん、母さん、そして郁美をこれ以上危険に晒すなら・・・もう容赦はしないわ!」
魅惑的な瞳が、鋭く怪老を射抜く。その時だった。
ドオオンンッッ!!
切り立った崖の上より、なにかが落下した。
いや、落ちたのではなく、それは降り立ったのだ。
「貴様ッ・・・!! 姿を見せるなと、言っておいたじゃろうがあッ!!」
「そうはいかんな。骸頭、お前の策に付き合うのは、もう終わりだ」
高層ビルのような崖から飛び降り、平然と二本の脚で着地する者。
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