ファントムガール ~白銀の守護女神~

草宗

文字の大きさ
333 / 398
「第十三話 東京鎮魂歌 ~赤銅の闘鬼~」

9章

しおりを挟む

「もらったのは・・・私の方よ」

 ドゴオオオオオッッ!!!
 
 大地が噴き上げる白光の弾。ギャンジョーの顔より大きい光弾が、地面から一直線に天へと昇り、突っ込む凶獣の無防備な顎を跳ね上げる。
 グシャリッッ!! 歪む疵面の口から、飛び散る血潮と牙の欠片。垂直に浮き上がる、Tレックスを思わせる巨大な体躯。
 さっきか。先程、ハンド・スラッシュを浴びて動きが止まったとき。あの時に、仕掛けやがっていたとはッ――
 
「ファントム・バレット!」

 新体操のボールを操るように。
 五輪強化選手にまで登り詰めた、五十嵐里美の妙技。生み出した光弾を地に這わせ、タイミングを図って不意を打つ。白霧で視界を奪っているからこその戦術だった。いくらファントム・バレットが自在に動かせる光弾とはいえ、霧のなかに隠せなければ成功するはずもない。
 
「ゲボオッッ?!!・・・てッ・・・めえッ・・・だがこんなゴムボールじゃッ・・・このオレ様に通用するわけがッ」

「わかっているわ。ナナちゃんのスラム・ショットのように、ファントム・バレットの威力は決して大きくない。けれどその代わりに・・・“連打”ができるッ・・・」

 ドゴオオオッッ!!
 疵面を憤怒に歪ませたギャンジョーの後頭部に、天から舞い戻ってきた光弾が叩き込まれる。
 獲物に喰らいつく猛禽のごとく。
 幾度も幾度も襲いかかる光の球。めり込んでは離れ、距離を置いては再び殺到し・・・意志を持ったようにギャンジョーの周囲を飛び回る弾丸が、頑強な肉体に打撃を積み重ねていく。顔面に、ボディに、背中に・・・たったひとつの光弾によるブローのラッシュが、嵐となって茶褐色の巨体を包む。
 
 ドドッッ!! ドドドドドドッッ!!!
 
「オレ様にはッ・・・通用しねえと言ってるだろうがァァァッッ~~~ッッ!!!」

 サトミが右腕を高々と差し上げるのと同時に、再び上昇して天へと消える光のバレット。
 吼えるギャンジョー。吐血が口周りはおろか、全身を紅の点描で汚している。だが、それでも。ダメージはあったとしても、致命傷足り得ないことはサトミ自身が悟っていた。疵面獣のタフネスは、これまでの巨大生物とは一線を画している。
 
「わかっていると・・・言ったわ」

 右腕を振り下ろす守護天使。遥か天空で轟く唸り。急降下する光弾が、加速の巨大なエネルギーを伴って降ってくる。
 鮮血にまみれたギャンジョーが天を見上げる。いくら頑強な肉体を誇るとはいえ、勢いを増したファントム・バレットは無視できない攻撃であった。ギリと歯軋りを鳴らした凶獣の意識が、霧の彼方に隠れた上空へと向けられる。
 
 刹那の瞬間。しかし、確かに大きな隙が、凶獣の巨躯に生まれていた。
 ゆらりと、守護天使のしなやかな肢体が動く。
 右手に輝くファントム・クラブ。幾多の巨大生物を滅ぼしてきた光の棍棒を、渾身の力で振り上げる。
 
 パシッ
 
「残念だったな。ファントムガール」

 聖なるクラブを掴む、“最凶の右手”。
 乾いた音色とともに、ゲドゥーの低く重い声がサトミの耳朶を打っていた。
 
「・・・バカがッ・・・」

 状況の全てを察したメフェレスの呟きが、霧に閉ざされた遥か奥から届いてくる。
 嘲りにも似た魔人の声が聞こえたか、否か。
 濃紺のひとつ眼を冷たく光らせたゲドゥーは、構わず言葉を続けた。
 
「せっかく秘術とやらで視界を防ぎ、オレたちを分断しても・・・こう大暴れを続ければ大体の居場所は見当がつくというものだ」

「・・・そうね。3体のなかでもっとも気配を察知するのが苦手な・・・あなたでもね」

「・・・なんだと?」

「ギャンジョーの異常なまでに膨大な殺気ならば・・・『葉霞み』の霧中にあってさえ、あなたにでも感知することはできるでしょう。けれど・・・ゲドゥー、あなたに唯一弱点があるとすれば、それは気配の察知が他のふたりより劣ることよ」

 振り返るサトミの切れ長の瞳が、凶魔のひとつ眼と交錯する。
 その瞬間、ゲドゥーは、己がくノ一少女の戦術に嵌ったことを悟った。
 
「もしこのメフェレスなら、この状況下において狙うのはゲドゥー、貴様だ。初めにギャンジョーを襲ったのが貴様を誘う工作だと・・・気付かなかったか。自惚れたな」

 共同戦線を張る仲間に対するとは思えぬ、突き放した口調で魔人は遠く、呟いた。
 
「最初からあなたを狙っても、必ずギャンジョーが援護に入る。それよりも、救援に来たあなたを迎撃する方が・・・仕留めやすいと思っていたわ。あなたには、私の攻撃が見えていないから――」

「・・・サトミ・・・お前はッ・・・」

 “最凶の右手”が力を込める。ガラス細工のように、光の棍棒が砕け散った瞬間だった。
 天空より空間を切り裂いて直降下したファントム・バレット・・・渦巻く光弾が、ゲドゥーの頭上に直撃した。
 
 ドゴオオオオッッ・・・!!!
 
 迅雷が落ちたかのように・・・閃光と轟音がひとつ眼凶魔の肉体に炸裂する。
 
「・・・ゴブッ・・・!!」
 
 菱形の頭部、その口周辺から鮮血が飛び散る。
 効いた。確実に守護天使の操る光弾はヒットした。誰よりもサトミ自身が、偽りない手応えを感じている。
 
 尖った顎先から、深紅の雫をボトボトと落として立ち尽くすゲドゥー。
 恐るべき凶魔は、脳震盪を起こしていた。
 意識はある。だがその濃紺の眼に映る世界は、天地が逆転していた。四肢の力が抜けていくのを感じながら、ゲドゥーは懸命にバランスを取って、立っているのがやっとだった。
 
「ファントム・リングッ!!」

 高く掲げた戦女神の右手に、輝く光輪が現れる。
 ファントム・バレットの威力が決して強大ではないことは、サトミ自身がよく悟っている。濃厚な闇の瘴気を防御膜の如く纏ったゲドゥーにトドメを刺すには、恐らく、殺傷力の高いファントム・リングか・・・必殺光線ディサピアード・シャワーぐらいしかないだろう。
 跳躍して距離を置く。振り返りざま、上半身を捻って光のリングを振りかぶる。
 
 敵に驕りがあるうちの・・・わずかなチャンスだった。
 勝負を賭けるのは、今だった。秘薬・万能丸と奥義・葉霞みを駆使して掴んだ、千載一遇の好機――奇跡の勝利に向けて、スレンダーな銀と紫の女神が正義の光輪を投げ放つ。
 
「ナメんじゃねえェェッ~~ッ!!! 小娘がよォッ!!!」

 白霧のなか、膨大な熱エネルギーを伴った茶褐色の巨体が、佇むゲドゥーの前に立ち塞がる。
 怒れるギャンジョー。憎悪と殺意を暗黒エネルギーに変換した疵面獣は、漆黒の闇を全身から湯気のごとく立ち昇らせて、飛来するファントム・リングを硬質な槍腕で弾き飛ばした。
 
 キイイィッ・・・ィィッンンン・・・!!
 
 澄んだ音色を残し、彼方へと軌道を変えて飛んでいく光の輪。
 
「サトミィィッ・・・この状況でゲドゥーさんを狙うとはたいしたタマだ、てめえ。おかげで・・・眼が醒めたぜェェッ・・・」

 凶獣の台詞を耳にするまでもなく、“本気”になったのは、噴き上がる闇と血走った眼を見ればわかった。
 だが。
 悠然と構えを取るサトミから、確かに漂う自信。
 更なる憤怒と・・・不審の念がギャンジョーの心に巣食う。こいつは・・・こいつはまだ、何かを隠しているというのか?!
 
「まさか、この程度でゲドゥーさんを仕留められると思ってたら・・・大間違いだぜェ?」

「・・・わかっているわ。ゲドゥーは動けないんじゃない、動かないだけ、よ。今はダメージの回復に努めているに過ぎない」

 突き出すサトミの右手から、白い光の帯が一直線にゲドゥー目掛けて発射される。
 立ち塞がるギャンジョーが尖った腕で帯を叩き落す。その瞬間、光の帯・・・ファントム・リボンは褐色の疵面獣の巨体に絡みつくように巻きついていった。
 
「ッッ?!」

「ゲドゥーを狙ったのにはふたつの意味があるわ。ひとつは、索敵能力に劣る点を突き、あわよくば倒すため。でも、もっと大きな意味がある」

「はァッ?! サトミィッ、こんなもんでオレ様を縛れねェってことを忘れたかッ、アアッ?!」

 昨夜の闘いでファントム・リボンを力づくで引き裂いたギャンジョーの咆哮を、秀麗たる美貌の聖少女は、涼風のごとく受け流した。
 幽玄の美を備えたその眉目が描く気配は、紛れもない“殺気”。
 殺人鬼ギャンジョーだからわかる。サトミが放つ、純正の殺意を。
 
 間違いない。こいつは。
 こいつは・・・こいつの計略には・・・まだ、続きがある!
 
「てめえェッ・・・!! なに狙ってッ・・・」

「あなたたち3体は、決して強固に結ばれているわけではない。1対3という絶望的状況にあっても・・・あなたたちに連携はなく、その綻びに逆転のわずかな可能性は見えていたわ。特にギャンジョー、あなたと・・メフェレスとの間には、仲間意識の欠片すら、感じられない」

 光の帯に巻きつかれた疵面獣が、三白眼を青銅の魔人がいるはずの方向に飛ばす。
 霧の彼方で、遠く距離を置いたメフェレスが、動く気配は微塵もなかった。
 
「ゲドゥーとあなたは互いをサポートする。メフェレスとゲドゥーとでも・・・共闘が可能なことは私自身、身をもって知っているわ。けれども・・・ゲドゥーがいなければ、あなたとメフェレスは空中分解する。危機が迫ろうと、助けることなく、ね」

 ヒュルルルルル・・・
 
 風切る唸りが、白い霧の奥から迫ってくる。
 そうか。そうだったか。
 ゲドゥーを狙ったのは、あくまで「あわよくば」―――真の目的は、ひとつ眼凶魔の動きを一時的にでも封じること。
 最初から・・・二段構えの作戦だったのか。
 
「サトミィィッッ~~ッッ!!! てめえッッ!!! オレ様を殺す気だったかァァッッ!!!」

「キャプチャー・エンドッッ!!」

 聖なる光の奔流が、リボンを伝って凶獣の巨体へと流されていく。
 茶褐色の肉体に食い込んだ帯が、激しく輝いた刹那。
 ギャンジョーの剛力が、全身に螺旋状に絡まったファントム・リボンをブチブチと内側から引き千切る。注がれる白光を、遥か凌ぐ闇のエネルギーが霧散させていく。
 無惨に破られる、ファントムガールの必殺技。昨夜の死闘のリピート映像。
 
 だが。
 
 一度跳ね飛ばされたはずの光のリングが、白霧を切り裂き舞い戻る光景は、昨夜にはなかったものだった。
 
「ッッッ!!!」

 リボンの拘束を破るのに精一杯のギャンジョーに、虚を突いて襲い掛かる光輪を、防ぐ余裕はなかった。
 光の帯を、散り散りに千切り飛ばした瞬間。
 疵面獣の首に、霧中より出現したファントム・リングの鋭い刃は食い込んでいた。
 
 ドシュウウウウッッ―――ッッッ!!!!
 
 噴き出る鮮血が、白く閉ざされた世界に、鮮やかな深紅の華を咲かせた。
 
「ハァッ、ハァッ、ハァッ・・・」

 視界に広がる、紅の色。瞳に焼き付けながら、麗しき天使は立ち尽くした。
 
“・・・きまった・・・の?!・・・”

 紛れもないギャンジョーの出血。光輪が直撃したことを確信しつつも・・・肩で息をする守護天使は、薄れゆく濃霧の奥に、じっと青い瞳を注ぐ。
 手応えは、あった。
 練りに練った戦術。孤立無援の戦乙女が一糸を報いるには、これしかないと思われた作戦だった。先のことは考えない。まず、3体の悪魔のうち、一匹を葬る。秘薬と持ち技の多くを惜しみなく駆使して、ついに必殺の光輪を炸裂させたのだ。
 
 乳白色の世界が薄くなっていく。秘儀『葉霞み』の効果が、弱まってきていた。クリアになる視界のなかで、動きを止めた疵面獣の全貌が明らかになっていく――。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』

コバひろ
大衆娯楽
前作 “雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ” (全20話)の続編。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/329235482/129667563/episode/6150211 男子キックボクサーを倒したNOZOMIのその後は? そんな女子格闘家NOZOMIに敗れ命まで落とした父の仇を討つべく、兄と娘の青春、家族愛。 格闘技を通して、ジェンダーフリー、ジェンダーレスとは?を描きたいと思います。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

小学生をもう一度

廣瀬純七
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

処理中です...