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「第十三話 東京鎮魂歌 ~赤銅の闘鬼~」
14章
しおりを挟むナナとシヴァ。仇敵であるはずのふたりが、共闘を組む日が来ようとは。
だが、夢のような光景が不自然に思えぬほどに、ふたりを包む状況はシリアスだった。世界が終わろうとしている。侵略者の手によって、破壊と闇の時代が訪れようとしている。圧倒的脅威の前に、守護天使と魔女は手を結ぶべくして結んだ―――
「もっとも、作戦を立てる余裕などないけど。サトミを救うためには、ただやるしかないってところかしら」
「・・・あんたの力なんか、借りないッ!・・・って言いたいとこだけど、遠慮なく助けてもらうわ。今のあたしは、少しでも力が欲しいッ―――」
「素直なのはいいことだわ。でも、私は私のために闘うだけよ。勘違いはしないことね」
「あんたも勘違いしないでね。全てが終わったら、ゼッタイぶっ飛ばしてやるんだから。ただ・・・」
「ただ?」
「助けてくれて・・・・・・ありがと」
ドオオオオオオオオッッッ!!!
銀と青のグラマラスな肢体が、太陽のごとく激しい輝きを放つ。
白く発光する身体。ナナの体内で増幅していく、聖なる光のエネルギー。両脚を広げて踏ん張る少女戦士の足元で、グラグラと大地が地鳴りを伴って揺れ動く。
急激に高まる光の密度に、天使と妖女を包囲したミュータントの輪が大きく広がる。今、迂闊にナナに近づけば死が待つことを、悪魔どもも悟っていた。何かを、やるつもりだ。強力な、何かの技を。
圧倒的戦力差を覆し、サトミをこの手に救うためには、青き天使は全力を振り絞るしかなかった。
戦少女が右腕を高々と天空に突き上げる。その拳に眩い聖光が凝縮していく。
この体勢からナナが放てる、超の字がつく必殺技はふたつ―――
大地に拳を撃ち込めば、即ち“ソニック・シェイキング”・・・同心円状に広がる光のエナジーを帯びた超震動が、群がる無数のミュータントを一気に殲滅に持ち込み。
己の心臓に叩き込めば、“BD7”・・・即ち“ビート・ドライブ・レベル7”。武神さながらに飛躍的に上昇した身体能力で、並み居る敵を薙ぎ払い葬り去る。
敵は多すぎた。どこまで通じるか、何体倒せるかはわからない。それでも着実に敵軍を磨耗する大技を放つべく、ナナがその右拳を振り下ろさんとする。
新たな漆黒の稲妻が轟いたのは、その時であった。
「ちょっと待ってもらおうじゃなァ~~い?!」
蒼い結晶でできたふたつの大きな眼が、稲妻が立ち昇らせた黒煙の奥で光っていた。
豹柄の体表に、四肢の先と頭部とを銀毛で覆った姿・・・禍々しい青色の爪。
毒気のある女豹そのままの容姿を認めるまでもなく、間延びした鼻にかかった声を聞くだけで、乱入者の正体は知れた。
「そう簡単にはいかせないよォ~~・・・子猫ちゃん♪」
ボッ!!・・・ボボッ!!・・・ドドドッ!!
“闇豹”神崎ちゆりの成れの果て、マヴェル。
悪女が芝公園の地に降り立つと同時に、遊撃部隊として授けられた新たな10体のミュータントが、ナナの進撃を立ち塞ぐべく前方に出現した―――。
「ッッ・・・マヴェルッ・・・!!」
今にも振り下ろされようとしていたナナの右腕が、天高く掲げられたままピクリと止まる。
ある程度の予想はしていた。伏兵を配しておくのは、悪の首領たるメフェレスの常套手段だ。10体もの配下が同時に登場するとは計算外であったが、守護天使の進撃を食い止めるべく“闇豹”を投入してくるのは決して不思議なことではない。
だが、超必殺技の体勢に入ったナナを前に・・・今更、女豹になにができるというのか?――
残忍で狡猾。“闇豹”マヴェルが一筋縄でいかない敵であるのは間違いない。しかし、純粋な戦闘能力でメフェレスやゲドゥーらに劣る女豹に、ソニック・シェイキングや“BD7”を受け切る力があるとはとても思えなかった。事実、“BD7”を初めて発動させた明治神宮での闘いで、ナナはマヴェルを圧倒している。
「・・・お前なんかに・・・あたしの邪魔はさせないッ・・・」
「はァ? なに言ってんのォ~、バカ子猫ッ?! あんたはここで死ぬって気付いてないのォ~?」
「・・・何体手下連れてきたって・・・あたしは全部お前たちを倒してッ・・・」
「調子こいてんじゃねェーよッッ、カスがァッ!! テメエの力じゃサトミは救えねえッ!! 忌々しい生徒会長さまが処刑されるサマを、そこで眺めてるがいいさッ!! アハハハハ♪」
牙の生え揃った魔豹の口が開く。真っ赤な口腔から、哄笑が迸る。
ケラケラと肩を揺らすマヴェルが指差した先には、凶魔と凶獣とにふたつの胸を弄ばれ、股間に直接ピンク色の官能光線を照射される、紫のカラーリングの女神がいた。
「あふっ・・・んくぅッ・・・ふァ゛ッ・・・・・・あ゛あ゛ッ!!・・・」
「ッッ!!・・・サトミさんッッ!!」
「“BD7”だっけかァッ?! やれるものならやってみなよォ~ッ!! テメエの命と引き換えに、反則みたいな力を引き出す自爆技ッ・・・けどあの3人に届くまで、あんたのカラダがもつのかねェ~?!」
ヒクヒクと腰を動かし、天を仰ぐサトミ。柳眉を寄らせ、吐息を洩らす美女神は、50体もの巨大生物に遮られた、遥か視線の先にあった。
辿り着かねばならなかった。幾重もの、魔獣の包囲を突破して。
視界が届く範囲に、大好きなファントムガールのリーダーはいる。だが、ナナとサトミの間には、絶望してしまいそうなほど厚い肉の壁がそびえている。殺意と嗜虐心に満ちた、50の悪魔が待ち構えている。
「アーッハッハッハッ!! 子猫ちゃ~ん♪ あんた強いよォ~。このマヴェルより、ずっと、ずっとねェ~。でもあの3人には勝てないッ! 明治神宮での闘い、忘れたわけじゃないよねェ~?!」
「・・・ぐッ・・・」
「“BD7”使ってもォッ、あんたはメフェレスを仕留めきれなかったッ!! この状況でどう足掻こうがァ~・・・サトミを救える確率はァ、ゼロ%ってことだよォ~~ッ!!」
狂人じみた哄笑の前に、青いファントムガールは拳をあげたまま、動けないでいた。
当たっている。
できるならば、不愉快に笑い転げる目前の豹女を、今すぐにでも叩きのめしたい。
“BD7”を発動させれば、それは簡単なことだった。だがダメだ。マヴェルの挑発的な指摘の通り、ここで超必殺技を炸裂させても、サトミを救う前にナナ自身の肉体が崩壊する。たとえ50体のミュータントを突破したとしても、ボロボロになった身体では、3体の悪魔の枢軸に嬲り殺されるだけだ。
制限時間のある“BD7”は、ここぞの場面でしか使えない。
少なくとも、最凶格の3体と直接当たるまでは、発動すべきではない。格下相手に使うことになれば、その時点で即ち、守護天使の敗北と死は決まったようなものだ。
「・・・あたしにはまだッ・・・コレがあるッ!!・・・」
「ソニック・シェイキングぅ~? だろうねえ~、あんたが最初からそいつを使う気でいるのはお見通しだよォ~。だからこそ、忠告しに来たのさァ~」
「忠告ッ・・・?!」
「そいつを使ったらァ~~・・・お隣りのお姐さんも消滅しちゃうってこと、忘れたわけじゃないよねェ~?」
見開かれる青い天使の瞳が、傍らに立つ6本腕の妖女を直視する。
迂闊。なんという、迂闊。
同心円状に広がり、等しく魔を殲滅する、光の波動と超震動。それがソニック・シェイキング。
今は手を組んでいるとはいえ・・・蜘蛛とのキメラ・ミュータントであるシヴァもまた、その脅威から逃れる術はないのだ。
仇敵との共闘が、こんな事態を招くとは。超必殺の衝撃波動を放てば、無数の敵と同時に唯一の味方まで消してしまう。しかし、シヴァがいなければ、そもそもこの場にナナが立つことすら無かったはずだ。
天敵とも言える蜘蛛妖女を倒すのは、ナナにとっては宿願のようなものだった。今、そのシヴァにソニック・シェイキングを食らわすのは容易いことなのに・・・なぜに運命はこれほどに皮肉なのか。あからさまな苦悩をアイドル顔に刻んだ守護天使は、光を纏った右拳をどうしても振り下ろすことができなかった。
「打ちなさい、ファントムガール・ナナ」
かすかな笑みすら湛えて、水色の妖女は言い放った。
「私に構わず、ソニック・シェイキングを放ちなさい」
「・・・でもッ!」
「あなたのへっぽこな技で、このシヴァがやられるとでも思って?」
「シヴァ~・・・あんたにゃ悪いけどォ~、マヴェルはこっちにつかせてもらうよォ~」
あくまで悠然と構える蜘蛛女に、かつての仲間である“闇豹”が言葉を掛ける。
「誰がどう見ても、決着はほとんどついてる・・・マヴェルも無駄に死にたくないからねェ~」
「あなたの判断に、私が口を挟むことはないわ」
「それとォ、サトミが死ぬのだけは、この眼で見ておかないとねェ~・・・欲しいものはなんでも揃い、周囲にチヤホヤされるお嬢様・・・あの女が惨めに切り刻まれるのを、どれだけ楽しみにしていたか・・・」
「だまれッ!!」
咆哮するナナ。
その掲げた右拳が、更に強く発光する。
「お前なんかにッ・・・サトミさんのなにがわかるって言うのッ?!」
「・・・はァ~?」
「サトミさんがどんな想いをしてきたかッ・・・辛いのは、あなたひとりじゃないんだよッ!!」
「・・・小娘ェ・・・ちょっと眼をかけてやれば、調子に乗ってくれるじゃなァ~い・・・」
マヴェルとともに出現した10体の親衛隊が、ざわりと蠢く。
超必殺技の発動を警戒し、身を硬直させていたミュータントの群れ。だが“BD7”もソニック・シェイキングも「ない」と知り、その凶相に余裕を漂わせ始める。
普通に闘えば、2vs50。
ひとりひとりの実力を考えたところで、その戦力差は埋めようがない――。
「打てと言ってるでしょ、ナナ。私に気遣って、サトミを見殺しにするつもり?」
「ソニック・シェイキングが効かないなんて、ウソだよ・・・打てば、あなたを確実に傷つける」
「反吐がでそうな甘さは変わらないわね。サトミから何を習ってきたの? 今のあなたが全力ですべきことはなに?」
「わかってるよ・・・そんなこと、わかってる。だから、あなたをちょっとだけ・・・傷つける!」
ブウウウ・・・ンンン・・・
白い光に包まれた右拳が、細かな震動を開始する。
周囲から襲い掛かろうと構えていた怪物軍団が、一斉に身を引く。やるのか?! ソニック・シェイキング――。
その暴威の間近に立てば、死滅は避けられない。たとえ威力をセーブしたものであっても。
「はあああッ!!」
青い天使が疾走する。動揺するミュータントの隙をついて。
多勢であることが、決死の心を鈍らせた。光る拳を振りかぶるナナの前から、怪物たちが身を避ける。モーゼの十戒のごとく。真っ二つに割れるミュータントの海を、青い稲妻が突き進んでいく。
「バキュロス!!」
配下のひとりを呼び寄せるマヴェル。女豹の眼前に、四足歩行の緑の巨獣が姿を現す。
マヴェルよりふた回りは大きいミュータントは、ブニョブニョとしたゲル状の表皮に全身を包まれていた。カバにも似た立ち姿。だがカバの顔があるべき場所には、丸い巨大な口が黒々とした空洞を覗かせているだけだ。
「ブモオオオオッッ!!」
漆黒の口が吸引を始める。風も、塵も、あらゆるものがミュータントに飲み込まれていく。
バキューム砲の照準は、一直線に駆ける青き天使に定められた。
「うわあああッ?!」
吸引が生む旋風の渦がナナを捕らえた瞬間、グラマラスな少女の肢体は意志とは無関係に空中を舞っていた。
宙を飛ぶ、守護天使。巨大な掃除機に、吸い込まれるように。その肉体が、丸い口に呑まれようとする。
「させるッ・・・かァッ!!」
銀と青の肢体が巨大な漆黒に飲み込まれる寸前、ナナの右脚は吸引巨獣を蹴り上げていた。
バキュームの勢いを利用した一撃。本来なら顎とも呼ぶべき箇所を蹴られ、異形の怪物バキュロスが吹き飛んでいく。その巨体で操縦者マヴェルを巻き込みながら――。
「ソニック・・・シェイキングッッ!!!」
ドオオオッッ・・・オオオオオオッッッ!!!
着地と同時に大地に振り落とされる、聖少女の右拳。
従来の半分以下に抑えられた超震動が、噴き上がる光の柱とともに、同心円状に広がっていく。
ナナの放った必殺技が、ふたり対50体の、本格開戦の合図となった―――。
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