サラミと僕と~Life with a dog SARAMI~

岳駿

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雪遊び

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サラミ。それは僕が飼っている犬の名前。
なんでサラミなの?って、時々聞かれるけど、特に理由はない。
ただ、初めて顔を見たときに、なんとなく浮かんだのがサラミだったから。
それに、本人も気に入っている様子で、
その証拠に、名前を呼ばれると激しく尾を振って嬉しそうにしている。
だから、それ以来彼のことを、サラミ、と呼ぶことにしている。

そしてそれは、ある冬の日の物語。



その日は、空気は凍りついたように冷たく静かで、空には真っ白な雲が一面に広がっていた。
ちょうど、サラミを小さな庭に出しているときに、空からは白いものが舞い降りてきた。
初雪。
もちろん、サラミにとっては初めての雪だ。
サラミは、空を舞う白いものを不思議そうに眺めて、地面に落ちたものの臭いを嗅いだり、舐めようとしたりしている。
そのうち、地面のあちこちに雪が溶けずに残り始めると、それらを踏まないように、ぴょん、と飛び跳ねて移動しながら、それでも雪の探索をしていた。
面白いので、その様子をしばらく眺めてから、僕らは暖かい部屋に入った。

東京では、雪は大抵地面に舞い降りるとそのまま溶けてしまい、積もることは少ない。
でも、その日は違った。
ふと、外の音がしなくなったので、窓の外を見ると、風に舞う雪が白銀の世界を創っていた。
音もなく風に舞う雪が、みるみる積もって行く。
昼から降りだした雪は、どうやら今頃がピークらしい。
さっきサラミとは庭で遊んだし、夜中にはもう止む予報なので、夜の散歩はそれからにしよう。
そう決めると、僕らはストーブの前で横になり、そのまま眠りに落ちた。

ふと、目が覚めると、辺りはもうすっかり夜になっていた。
部屋の中は、ストーブの明かりだけが赤く照らしている。
窓の外が明るい。
カーテンを開けて外を見ると、空はすっかり晴れて、天空に浮かぶ満月が白銀の大地に青い光を投げ掛けていた。
足元では、僕が起きたのに気付いたサラミが、なになに、どうしたの、といったふうに僕を見上げて尻尾を振っている。
サラミ、行くか。
そう言うと、サラミは嬉しそうに跳び跳ねた。
寒くないように、僕はしっかりと服を着込んで、ストーブの火を消すと、僕らは外に出た。

外の世界は、まるですべての物が雪で覆いつくされて、すべての音が雪に吸い込まれた様に静かだ。
時折風に飛ばされた雪が、キラキラと月の光を受けて輝き、音のない世界にサラサラという音を投げ掛ける。
満月が放つ青い光は、雪に反射して一層青く世界を照していた。
腕時計は午前2時を指している。
当たり前のように街には誰もいない。
まだ踏み跡のない白い世界に、僕たちは足を踏み入れた。
雪は深く、僕の膝くらいまでは積もっている。
足の短いサラミは、当然普通に歩くことはできない。
まさに飛び込むようにして雪の中に突入した。

人っこひとりいない真夜中の銀世界。
月の光に照らされて、動いているのは僕とサラミだけ。
飛び跳ねる様にして住宅街の縁にある公園まで移動する。
積もりたての雪は、まるで雪国の新雪のように軽い。足を抜くごとに粉雪が舞い上がり、踏み込んだ足は深く入り込む。
サラミはというと、完全に雪に埋もれてしまい、前に進むために飛び上がったときにだけ表面に現れる。
最初は様子を見ながらだったけど、感覚が分かってきたのか、次第に雪原の散歩を楽しみ始めたようだ。
僕も雪の中での走り方が分かってきたので、二人で雪のなかを走った。

そうして、ようやくたどり着いた丘の上の公園からは、雪に覆い尽くされた街が一望できた。
街は深い眠りについて、微かに出る音もすべて雪が吸い込む。
雪の下で輝く小さな街の灯りだけがそこに人が息づいていることを伝えている。
空気は凍りつくように冷たい。
止まっていると、しんしんと寒さが凍みてくる。
今しかない、この風景のなかにずっとずっといたかったけど、そうもいかない。
僕は、もう一度空を見上げた。
夜中を過ぎて、満月は大分傾いている。
サラミ、いこうか。
サラミを見ると、同意したように僕を見上げている。
僕たちは、僕たちがきたせいで少しだけ歩きやすくなった雪の道を家に向けて駆け出した。
明るくなり、街が動き出すまでもう少し。
そうしたら、今見てるこの世界は壊れてしまう。
その前に、家に帰ろう。
サラミも僕も、来たときよりは少し強引に雪を撥ね飛ばして走った。
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