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本編
魔女の誘惑
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かなうならば、卒倒してしまいたい。
あの忌々しい脱がせるのが一苦労な拷問器具、コルセットの紐を締め付けすぎた貴婦人のようになりたいと思ったのは、生まれて初めてだ。
ルルをとりあえず応接室に通したが、この先どうすればいいのか、皆目見当がつかない。相変わらず、執事も家政婦も、ヨナスの呼び出しには応えない。彼らには暇を取らせた方がいいかもしれない。
ルルは、マントを脱いでいた。罪の果実、欲望の実、赤いドレスはルルに似合っていた。どうして、彼女に幼いエプロンドレスなど着せて喜んでいたのかわからない。魅惑的な膨らみ、なよやかな首筋。ぴっちりとではなく、ふんわりを膨らみを持たせて結い上げた髪の後れ毛が、艶めかしい。幼げな顔立ち、吸い込まれそうな夜の瞳、清らかな肌、つややかな唇に目は釘付けにならざるを得ない。あの禁断の果実の味をヨナスは知っているのだ。
ルルはヨナスの心中を知ってから知らずか、ヨナスにほほえみかけた。町屋敷の中にはランプの明かりしか無いはずなのに、昼間の太陽がいきなり舞い降りたみたいだ。彼女は何をしに来たのだろうか。ヨナスを責めるためにか、それとも。ああ、考えを纏めることも難しい!
ヨナスはごくりと生唾を飲み込んだ。
このままでは、卒倒では無くとも、昏倒するかもしれない。
ルルは応接間の椅子に座った。ヨナスは戸口近くに立って、しきりに使用人達の気配を感じている。
ヨナスの一瞥に、かろうじて笑顔を返したつもりだが、うまくいかなかったのだろうか。ヨナスは咳払いをして顔を背ける。
母の見立てたドレスは、やはりルルには大人過ぎたのだろうか。彼女ならば選ばない、深紅のドレス。余剰な飾りはなく、生地の光沢とドレープがひたむきに美しい。
鏡の前でドレスを合わせることは、年上の友人が教えてくれた。母はルルに魔法を教えた。自分が一番魅力的に映る角度、手首をくねらせたりゆっくりと下から見上げるやり方、蠱惑的なしなの作り方、などなど。
本当に、『既成事実』を作ってしまえば何とかなるのだろうか。
しかし、ルルはやり遂げなければならない。何とかしてヨナスを誘惑し、彼の花嫁の座を奪取せねばならない。
形式上の結婚でも構わない。ヨナスの分まで、自分が愛すればいいのだと気づいたから。
ヨナスはため息を、長く長くついた。ルルは白鳥が羽根を休めるように、椅子に身体を預けている。ルルの首はあんなにもほっそりと優美であったろうか。
「……すぐに、馬車をやるから、王宮に戻るんだ」
ヨナスは心の内で、壁紙に描かれた花の数を数え始めた。どうか、俺の理性よ、この部屋じゅうの花を数えきるまで持ってくれ、そんな気持ちだ。
本当なら、ルルを誰かのもとになどやらせたくない! それが彼女の母親のもとであっても。
精一杯、落ち着いた紳士らしい声で話しかけたというのに、ルルはあっさりと首を横にする。
「いや」
「……ルル、王宮で、ま……お前の母上が帰りを待っているのでは無いか」
「いいえ、お母様はご存じよ。このドレスもお母様が見立てて下さったの。に、にあ、似合ってるかしら?」
あの魔女が見立てたドレスを、ルルは喜んで着ている。確かに魔女の見立ては確かだった。ドレスはこの上なく、ルルに似合っている。
(俺の目は節穴だとでも言いたいのか。魔女め!)
ヨナスは憮然として答えた。
「全然似合ってない」
ルルの大きな瞳に傷つきの色が浮かぶ。ヨナスは焦って、すぐに発言を翻した。
「いやっ! 似合ってる……その……ルルが、大人になってしまったみたいで、落ち着かないんだ」
ルルはほっと安心したように、繊手を胸に置いた。ヨナスはどきりとしてまた目を泳がせる。あの二つの膨らみを、思うさま揉みしだくことを想像してはならない。
「ヨナスお義兄さま……。嬉しい」
ルルは椅子から立ち上がって、突っ立ったままのヨナスに歩み寄る。その一歩一歩ごとに、ヨナスの心は乱れ、数える花の数は飛び飛びになる。
三十の次は何だっけ? 三十五?
ルルはヨナスの無言を不機嫌と受け取って、眉を下げた。
「やっぱり……私のこと、怒ってる」
また一歩、ルルが近づいて、ヨナスの喉はからからに干上がってしまう。
変な声が出た。
「いやっ、俺が、ルルにけ、けけけ結婚を、無理強いしたのがよくなかったんだ。こ、今度こそ、俺はルルの義兄としてだな」
「やっぱり怒ってる」
「お、怒ってなんかないぞ。る、ルルは今日はどうしてここに来たんだ?」
場を取り繕うために出た問いだが、これはなかなか良かった。ルルの足が止まる。
「……さっき、言ったでしょ。ヨナスを誘惑しに来たの」
「誘惑」
ヨナスは、ルルの言葉をオウムのように繰り返した。誘惑、女が男にする誘惑と言えば、ヨナスにはひとつしか思い浮かばない。
ルルは、かつてともに暮らしていた時には、ついぞ見たことの無かった色っぽい目つきでヨナスを見上げる。
ヨナスは理性をつなぎ止める楔がぐらついたのを感じた。同時に、むらむらとわき上がったのは、彼女の母親への敵意だ。
マリー・ソフィー、あの魔女は、ヨナスの可愛らしい義妹に何を吹き込んだのだ!
父親の話を聞いた後でも、ヨナスのうちにマリー・ソフィーへの不信はくすぶり続けていた。何と言っても、ルルは彼のもとを去って、魔女のもとへ逃げ込んだのだから。
「……ばからしい」
「どうして、ヨナス? お母様もそれが一番手っ取り早いって」
「……何だって?」
元からヨナスの導火線は短い。怒りに火がつけばあっという間に爆発してしまう。それがルルを苦しめたことを反省しているから、数えたくもな花の数など数えているというのに。
「……私と結婚して、ヨナス」
ルルの声もろくに耳に入ってこない。
「何を吹き込まれたんだ、あの魔女に」
「あの、違うのよ、ヨナス、私ね」
「言え! ルル! やっぱりあの女は魔女だ!」
決死の覚悟でルルがしたプロポーズに、ヨナスは怒り狂っている。
金色の髪は燃えるように波打って、青い目には怒りが逆巻いている。
「ヨナス、聞いて、お母様はね、私のことを思って」
「そうか! 確かにルルは、俺を捨ててあの魔女の元へ逃げていったのだものな。何が目当てだ? 金か? 宝石か? あの魔女が間抜けなヨナス坊やから搾り取ってこいとでも言われたか」
「ヨナス!」
ルルは叫んだ。ついでに、ヨナスの顎下に入り込んで、彼の胸ぐらを掴む。
厚みのある身体がびくりと震えたが、もう構うまい。ルルの目は興奮に煌めいていた。
「私の言うことを聞いて」
「……聞いてる」
「こっちを見て」
「……見てる」
「全然見てないじゃない!」
ヨナスはあちこちと視線をさまよわせる。ルルは焦れてヨナスの胸ぐらを揺すった。ドレスから白い胸が溢れてしまいそうなくらい強い動きで。
「ル……ルル! や、やめなさい」
「私の意志なの! 私がここに来たかったの……ヨナスに会いたかったの!」
ヨナスの青い目と、ルルの黒い目がかちりと合う。
「……ヨナスに会いたかったの」
一度とらえたヨナスを、ルルは離すまいと指に力を込める。
「お、俺もだよ、ルル。お前に会いたかった、お前は俺の大切……」
「それは聞き飽きたわ! 私の言ったこと聞いてた?」
「えーと……な、何だっけ?」
「ヨナスのバカ! 結婚してって言ったのよ!」
ヨナスはそれを聞いて、両手を降参の証に上げた。秀麗な額に、乱れた前髪が降りかかる。
「いいんだ、それは。もう俺はお前に結婚を無理に迫るつもりはない。お前の義兄として……」
ルルはじれったくてならない。同じ言語を使っているはずなのに、どうしてこんなに意味が通じないのだろう。
あんまりいらいらして涙が出てきた。
「ル、ルル……、泣くな……、お、お前が泣くと、どうしたらいいか……」
ヨナスが困ったって知ったこっちゃない。
ぐすぐすと鼻を鳴らし始めるルルに、ヨナスは困り切ったようだった。ヨナスの手が、そっとルルの肩を抱き寄せる。
「泣かないでくれ……お前に泣かれると……」
ルルは涙に濡れた目で、ヨナスを見上げた。ヨナスの顔には、怒りよりも困惑が浮かんでいる。
そういえば、マリー・ソフィーに教えて貰った決め台詞があった。
ルルはこれが決め台詞を使うチャンスだと思った。
そこで、肩に置かれたヨナスの手に、自らの手を重ね、初々しい膨らみの上に誘導した。決め台詞の前には、決めポーズがあるらしいので、恥ずかしいが仕方ない。
「ル、ルル……」
後は、逃がさないという気迫が肝心、とマリー・ソフィーはしかつめらしく言った。それと思い込み。自分は世界で一番美しく魅力的でおいしそうな、そう、イブを堕落させたリンゴとでも思いなさい。
逃がさないんだから。
ルルはちろりと小さな下で赤い唇を湿した。長い睫を震わせて、ゆっくりと瞬きをする。
私は誘惑の果実。甘く蜜を滴らせる、赤いリンゴ。呪文のように繰り返す。一口食べれば夢中になる、さあヨナス。
「……お願い……私を食べて……」
きっと甘くておいしい――自らがおいしいお菓子を口に含んだつもりで、ルルは目を細めて唇を尖らせた。
ぶつっと何かが切れるような音が――したような気がしてルルは睫をそよがせた。次の瞬間に、キスが降ってきた。
あの忌々しい脱がせるのが一苦労な拷問器具、コルセットの紐を締め付けすぎた貴婦人のようになりたいと思ったのは、生まれて初めてだ。
ルルをとりあえず応接室に通したが、この先どうすればいいのか、皆目見当がつかない。相変わらず、執事も家政婦も、ヨナスの呼び出しには応えない。彼らには暇を取らせた方がいいかもしれない。
ルルは、マントを脱いでいた。罪の果実、欲望の実、赤いドレスはルルに似合っていた。どうして、彼女に幼いエプロンドレスなど着せて喜んでいたのかわからない。魅惑的な膨らみ、なよやかな首筋。ぴっちりとではなく、ふんわりを膨らみを持たせて結い上げた髪の後れ毛が、艶めかしい。幼げな顔立ち、吸い込まれそうな夜の瞳、清らかな肌、つややかな唇に目は釘付けにならざるを得ない。あの禁断の果実の味をヨナスは知っているのだ。
ルルはヨナスの心中を知ってから知らずか、ヨナスにほほえみかけた。町屋敷の中にはランプの明かりしか無いはずなのに、昼間の太陽がいきなり舞い降りたみたいだ。彼女は何をしに来たのだろうか。ヨナスを責めるためにか、それとも。ああ、考えを纏めることも難しい!
ヨナスはごくりと生唾を飲み込んだ。
このままでは、卒倒では無くとも、昏倒するかもしれない。
ルルは応接間の椅子に座った。ヨナスは戸口近くに立って、しきりに使用人達の気配を感じている。
ヨナスの一瞥に、かろうじて笑顔を返したつもりだが、うまくいかなかったのだろうか。ヨナスは咳払いをして顔を背ける。
母の見立てたドレスは、やはりルルには大人過ぎたのだろうか。彼女ならば選ばない、深紅のドレス。余剰な飾りはなく、生地の光沢とドレープがひたむきに美しい。
鏡の前でドレスを合わせることは、年上の友人が教えてくれた。母はルルに魔法を教えた。自分が一番魅力的に映る角度、手首をくねらせたりゆっくりと下から見上げるやり方、蠱惑的なしなの作り方、などなど。
本当に、『既成事実』を作ってしまえば何とかなるのだろうか。
しかし、ルルはやり遂げなければならない。何とかしてヨナスを誘惑し、彼の花嫁の座を奪取せねばならない。
形式上の結婚でも構わない。ヨナスの分まで、自分が愛すればいいのだと気づいたから。
ヨナスはため息を、長く長くついた。ルルは白鳥が羽根を休めるように、椅子に身体を預けている。ルルの首はあんなにもほっそりと優美であったろうか。
「……すぐに、馬車をやるから、王宮に戻るんだ」
ヨナスは心の内で、壁紙に描かれた花の数を数え始めた。どうか、俺の理性よ、この部屋じゅうの花を数えきるまで持ってくれ、そんな気持ちだ。
本当なら、ルルを誰かのもとになどやらせたくない! それが彼女の母親のもとであっても。
精一杯、落ち着いた紳士らしい声で話しかけたというのに、ルルはあっさりと首を横にする。
「いや」
「……ルル、王宮で、ま……お前の母上が帰りを待っているのでは無いか」
「いいえ、お母様はご存じよ。このドレスもお母様が見立てて下さったの。に、にあ、似合ってるかしら?」
あの魔女が見立てたドレスを、ルルは喜んで着ている。確かに魔女の見立ては確かだった。ドレスはこの上なく、ルルに似合っている。
(俺の目は節穴だとでも言いたいのか。魔女め!)
ヨナスは憮然として答えた。
「全然似合ってない」
ルルの大きな瞳に傷つきの色が浮かぶ。ヨナスは焦って、すぐに発言を翻した。
「いやっ! 似合ってる……その……ルルが、大人になってしまったみたいで、落ち着かないんだ」
ルルはほっと安心したように、繊手を胸に置いた。ヨナスはどきりとしてまた目を泳がせる。あの二つの膨らみを、思うさま揉みしだくことを想像してはならない。
「ヨナスお義兄さま……。嬉しい」
ルルは椅子から立ち上がって、突っ立ったままのヨナスに歩み寄る。その一歩一歩ごとに、ヨナスの心は乱れ、数える花の数は飛び飛びになる。
三十の次は何だっけ? 三十五?
ルルはヨナスの無言を不機嫌と受け取って、眉を下げた。
「やっぱり……私のこと、怒ってる」
また一歩、ルルが近づいて、ヨナスの喉はからからに干上がってしまう。
変な声が出た。
「いやっ、俺が、ルルにけ、けけけ結婚を、無理強いしたのがよくなかったんだ。こ、今度こそ、俺はルルの義兄としてだな」
「やっぱり怒ってる」
「お、怒ってなんかないぞ。る、ルルは今日はどうしてここに来たんだ?」
場を取り繕うために出た問いだが、これはなかなか良かった。ルルの足が止まる。
「……さっき、言ったでしょ。ヨナスを誘惑しに来たの」
「誘惑」
ヨナスは、ルルの言葉をオウムのように繰り返した。誘惑、女が男にする誘惑と言えば、ヨナスにはひとつしか思い浮かばない。
ルルは、かつてともに暮らしていた時には、ついぞ見たことの無かった色っぽい目つきでヨナスを見上げる。
ヨナスは理性をつなぎ止める楔がぐらついたのを感じた。同時に、むらむらとわき上がったのは、彼女の母親への敵意だ。
マリー・ソフィー、あの魔女は、ヨナスの可愛らしい義妹に何を吹き込んだのだ!
父親の話を聞いた後でも、ヨナスのうちにマリー・ソフィーへの不信はくすぶり続けていた。何と言っても、ルルは彼のもとを去って、魔女のもとへ逃げ込んだのだから。
「……ばからしい」
「どうして、ヨナス? お母様もそれが一番手っ取り早いって」
「……何だって?」
元からヨナスの導火線は短い。怒りに火がつけばあっという間に爆発してしまう。それがルルを苦しめたことを反省しているから、数えたくもな花の数など数えているというのに。
「……私と結婚して、ヨナス」
ルルの声もろくに耳に入ってこない。
「何を吹き込まれたんだ、あの魔女に」
「あの、違うのよ、ヨナス、私ね」
「言え! ルル! やっぱりあの女は魔女だ!」
決死の覚悟でルルがしたプロポーズに、ヨナスは怒り狂っている。
金色の髪は燃えるように波打って、青い目には怒りが逆巻いている。
「ヨナス、聞いて、お母様はね、私のことを思って」
「そうか! 確かにルルは、俺を捨ててあの魔女の元へ逃げていったのだものな。何が目当てだ? 金か? 宝石か? あの魔女が間抜けなヨナス坊やから搾り取ってこいとでも言われたか」
「ヨナス!」
ルルは叫んだ。ついでに、ヨナスの顎下に入り込んで、彼の胸ぐらを掴む。
厚みのある身体がびくりと震えたが、もう構うまい。ルルの目は興奮に煌めいていた。
「私の言うことを聞いて」
「……聞いてる」
「こっちを見て」
「……見てる」
「全然見てないじゃない!」
ヨナスはあちこちと視線をさまよわせる。ルルは焦れてヨナスの胸ぐらを揺すった。ドレスから白い胸が溢れてしまいそうなくらい強い動きで。
「ル……ルル! や、やめなさい」
「私の意志なの! 私がここに来たかったの……ヨナスに会いたかったの!」
ヨナスの青い目と、ルルの黒い目がかちりと合う。
「……ヨナスに会いたかったの」
一度とらえたヨナスを、ルルは離すまいと指に力を込める。
「お、俺もだよ、ルル。お前に会いたかった、お前は俺の大切……」
「それは聞き飽きたわ! 私の言ったこと聞いてた?」
「えーと……な、何だっけ?」
「ヨナスのバカ! 結婚してって言ったのよ!」
ヨナスはそれを聞いて、両手を降参の証に上げた。秀麗な額に、乱れた前髪が降りかかる。
「いいんだ、それは。もう俺はお前に結婚を無理に迫るつもりはない。お前の義兄として……」
ルルはじれったくてならない。同じ言語を使っているはずなのに、どうしてこんなに意味が通じないのだろう。
あんまりいらいらして涙が出てきた。
「ル、ルル……、泣くな……、お、お前が泣くと、どうしたらいいか……」
ヨナスが困ったって知ったこっちゃない。
ぐすぐすと鼻を鳴らし始めるルルに、ヨナスは困り切ったようだった。ヨナスの手が、そっとルルの肩を抱き寄せる。
「泣かないでくれ……お前に泣かれると……」
ルルは涙に濡れた目で、ヨナスを見上げた。ヨナスの顔には、怒りよりも困惑が浮かんでいる。
そういえば、マリー・ソフィーに教えて貰った決め台詞があった。
ルルはこれが決め台詞を使うチャンスだと思った。
そこで、肩に置かれたヨナスの手に、自らの手を重ね、初々しい膨らみの上に誘導した。決め台詞の前には、決めポーズがあるらしいので、恥ずかしいが仕方ない。
「ル、ルル……」
後は、逃がさないという気迫が肝心、とマリー・ソフィーはしかつめらしく言った。それと思い込み。自分は世界で一番美しく魅力的でおいしそうな、そう、イブを堕落させたリンゴとでも思いなさい。
逃がさないんだから。
ルルはちろりと小さな下で赤い唇を湿した。長い睫を震わせて、ゆっくりと瞬きをする。
私は誘惑の果実。甘く蜜を滴らせる、赤いリンゴ。呪文のように繰り返す。一口食べれば夢中になる、さあヨナス。
「……お願い……私を食べて……」
きっと甘くておいしい――自らがおいしいお菓子を口に含んだつもりで、ルルは目を細めて唇を尖らせた。
ぶつっと何かが切れるような音が――したような気がしてルルは睫をそよがせた。次の瞬間に、キスが降ってきた。
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