【R15】Time Latency

桐生彩音

文字の大きさ
6 / 14
シリーズ001

006

しおりを挟む
「ほらよ」
「……なんだこれは?」
 町へ戻った三人は、入口で待っていたセッタに仕事の完了報告をし、その場で報酬を受け取った。その後、今朝も訪れた茶屋に入り、ライは同じテーブルについていたフランソワーズに報酬の一部を投げ渡したのだ。
「割り込んだとはいえ仕事したんだ、正当な報酬だよ。……まあ無理矢理だから、取り分は少ないがな」
「……そうか、では受け取っておこう」
 報酬を仕舞うフランソワーズに、ライは頬杖をついて問いかける。
「それで、まだ俺を勧誘するつもりか?」
「……いや、しばらくは様子見でいさせてもらう」
 不思議そうに見つめるライ。フランソワーズは構うことなく話を続けた。
「実力は本物だった。心情も善ではないが悪という程でもない。おまけに一瞬で巨大蜘蛛の頭上に乗り移れたあの高速移動だ。……正直、何故それだけの力を持ちながら、魔王と戦おうと思わないのかが分からない」
「分をわきまえているだけだ」
「それだ」
 フランソワーズが指を立てて、その部分を指摘する。
「私はあなた程ではないが、それでも実力の高い人間を何人も見てきた。自分達より上の実力がある者を知らない者は、総じて己が力を過信する傾向にある。……しかし、あなたは違う。まるで、自分より強い存在に会ったことがあるかのように」
「……半分は当たりだ」
 ミルズに報酬の取り分を投げ渡してから、ライは自分の珈琲を口に含んだ。そして奴隷の少女は何もなかったかのように、背を向けて茶屋を出て行った。
「俺の異能はな、父親と同じものらしい。そして、その父親に酷い目に合わされたのが、俺の育ての親とその仲間達だ。だから酒が入ると、養母エルザにその時の話を散々聞かされた。……だから過信できないんだよ」
「……話だけでか?」
「話だけで十分すぎた。……何より、同じ異能を持っているんだ。その凄さは実際に見た連中の次に理解できているつもりだ」
 百聞は一見に如かず、という言葉がある。
 話を聞くよりも、実際に見た方が理解できるという意味だが、その一見にも値する話の内容の濃さが、ライという人間の在り方を定めてしまったのかもしれない。
「すまない、辛い話をさせてしまったな」
「構わないさ。結局俺は、当事者じゃないんだからな」
 珈琲を飲み干し、ライは代金をテーブルの上に置いてから、静かに立ち上がった。
「私はしばらくこの町で働こうと思う。仲間を探し、いつの日か魔王を討つために。……偶にでいいから、また一緒に仕事をして欲しい」
「そうか、じゃあそのよしみで一つだけ教えておいてやる」
 ライは茶屋を後にした。



「俺の異能は『高速移動』じゃない」



 フランソワーズが振り返ってみると、そこにはもうライの姿はなかった。入口まで距離がある以上、おそらくはまた異能を使ったのだろう。
「……まさかな」
『姿を消す』ことでも『高速移動』でもなければ、いったい何の異能なのか?
 そう考えていたフランソワーズだが、一つの仮定を思いつき、即座に否定した。



「……別に話しても良かったんじゃないですか?」
「今は駄目だ。そう簡単に話せる訳ないだろう。……俺の異能のことなんて」
 茶屋の裏手でライはその場にしゃがみ込み、例の如く待ち伏せていたセッタと並んで話していた。セッタは立ったまま、静かにライを見下ろしている。
「ただいずれは話すかもしれないがな。……ところで、また仕事か?」
「いえ、しばらくはなさそうです。向こうも如何どうやら様子を見ているようでして」
「となると、少しは休めるな」
 それだけ言うと、ライは立ち上がって陽が沈み始めた町並を眺めた。
「そろそろ遊びに行くか。……偶にはお前もどうだ。酒くらいは付き合えるだろ?」
「……遠慮しておきます。夜遊びより趣味を楽しむ方が好きなものでして」
「そうかよ」
 立ち去っていくライに、セッタはふと何かに気付いたのか、その背中に疑問を投げかけた。
「ところで誘って頂けたのはうれしいのですが……私の正体知ってて言ってますか」
「うん?」
 その問いかけに、ライは何でもないかのように答えた。



「……とっくに知ってるよ。目的までは分からないが、精々利用させてもらうさ。……その時・・・まではな」
「そうですか、ではその時・・・までどうかご贔屓ひいきに」



 こうして、出会うべくして出会った者達が集った。彼らが魔を絶つ存在となるのか、はたまた闇にあっさりと飲み込まれてしまうのか。それは誰にも分からない。
 彼等がどのような選択肢を選び、どのような結末を迎えるのか、もう少し様子を見ることにしよう。
 ただ、少なくとも今分かっていることがある。
「……もうちょっとまかんない?」
「もちろん駄目ですよ~」
 早速遊びすぎて、ライの報酬が一晩で溶けてしまったことである。その現場を偶然目撃したフランソワーズは、ほんとにこいつでいいのかと、内心自分自身に呆れかえった程だった。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...