【R15】Time Latency

桐生彩音

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シリーズ002

001

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 大陸世界『アクシリンシ』、円形にかたどられた大陸の西の果ての手前に、『ケルベロス』という町がある。そして今日も今日とて、魔界との境目にあるこの町は平和であった。
 ちょっと魔犬ガルムの群れが襲ってきたり、馬鹿でかいカマキリ型の生物兵器が攻めてきたり、はたまた迷い込んだオークが何故か通りがかった老婆を犯そうと襲い掛かったりしたが、この町ではいつものことなので、平和であると断言できるだろう。因みにオークは老婆によりあっさり返り討ちとなった。爆弾で。
「いやあ、今日も平和だ。……これで金さえあれば」
「女に貢ぐのは変わらないでしょうが。ほら寄越す」
 金を無心された黒の短髪をした長袖長丈の衣服の男、ライ・スニーカーは今日の稼ぎ、カマキリ型の生物兵器を倒した報酬の分け前の、実に7割の金をカウンター越しにいる見た目少女の女性に渡した。
 その女性は紫がかった白髪に低めの身長、ライとは真逆に肌の露出が多い衣服を身につけていた。見た目こそ活発な少女だが、左目の眼帯が歴戦の風格を強引に醸し出している。
 実際、彼女は見た目通りの年齢ではなかった。
「養母も立派な女ってか? だったら抱かせ……いや、やっぱいいや」
「それで正解。血が繋がっていないとはいえ、母親抱くとか変態でしょうが」
「いや、どちらかというと実年齢ぃびゃ!?」
 その言葉通り、彼女、エルザ・クロックスはライの養母である。知らない人間が見れば『背伸びしている妹をあしらっている兄』の構図しか浮かんでこないが。
 馬鹿デカい工具モンキレンチを避けるために引いた身体をライが戻すと、エルザは工具を置いて再度手を伸ばしてきた。
「ほら、早く出す」
「はいよ」
 ライは腰から長短のある鉤型の固まり、中折れ式の単発銃を抜いてそのまま渡した。エルザはそれを受け取ると、手慣れた調子で金具を操作し、弾丸の込められていない銃身を光にかざして内部を覗き込む。
「ちゃんと言いつけは守っているみたいね。旋条痕ライフリングもそこまで削れていないし」
「そりゃ曲がりなりにも命を預けている物だからな。大事にもするさ」
 簡単な整備を受けてから返された単発銃を腰に戻し、続けて出された弾丸を一つ一つ確認していく。
「にしてもライ、あんたいつまで単発銃これでいくのよ? 新しい機構の銃もとっくに実用段階に入っているのに」
「構造が単純シンプルで使いやすいから、暫くはこのままだよ。それに普及していない分、またやっかみで絡まれたらたまったものじゃない」
 実際、単発銃を使っていたために絡まれたことは何度もある。一応は返り討ちにしてきたが、大抵は個人か2、3人のチンピラグループである。それこそ複数で押されたら、逃げ出す以外の選択肢が見つからないのだ。
「とにかく、武器なんて使い慣れた物が一番しっくりくるんだよ。だからこれでいく」
「そう、だったら……いいかげん、その剣は外しなさい。絶対に後悔するわよ」
「……買い換える方が後悔するよ」
 節目がちに工房を後にしたライの背中に、エルザは溜息と一緒に漏らした。



「……アホか」



 夜風が静かに吹き付ける中、自宅兼エルザの工房を後にしたライは行きつけの店へと足を運んでいた。無論、いつもの風俗通いである。
「現在の懐から見て、行けるのは右のおさわりパブか?」
 ライの右手には夜風の冷たい中にも関わらず、下着姿で誘惑してくる美女達がいる酒場が見える。
「それとも左のピンサロか?」
 逆の左手には同じく冷え込む夜にも関わらず、煽情的なドレスで艶やかな瞳を向けてくる簡易娼館ピンクサロンが見える。
 そう、彼は迷っていた。限りある予算を、どのようにして使うかを。
「いっそ交渉して、両方いけるくらいに値切るか?」
「どちらも諦めて、昔馴染みと飲むという選択肢もあるけど?」
 突如、そう声を掛けられたライ。振り返ってみると、そこには確かに、彼の知り合いがいた。
 黒の短髪で中世的な顔立ちをした、黒の革鎧に包んだ身に十字槍を肩に担いでいる。ライが以前会った時は要所に銀拵えの外装を取り付けていたのだが、今は外しているのか簡素な装いだった。
「……いつこっちに来たんだ、メル」
「今朝着いたばかり。さっきエルザさんに挨拶して来たんだけど、その時に入れ違いで出てったって聞いてね。『持ち合わせも少ないから、多分安いパブか簡易娼館ピンクサロンにいるんじゃない?』ってここを教えてもらったんだ」
「エルザめ、余計なことを……」
 とはいえ、予定は決まってしまった。
 先程メルと呼ばれた昔馴染み、メレディス・モカシンを引き連れて、ライはここから一番近い酒場へと向けて歩き始めた。
「少し歩くけどいいか?」
「ご馳になります」
「……奢らねえよ」
 どうせ割り勘でも軽く飛ぶだろうな、とライは性欲を発散できないまま、2つの風俗と財布の中身に別れを告げた。



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