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第一シリーズ

010 リナの記憶

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 リナの記憶は、中学半ば以降からしか存在していない。幸いにもエピソード記憶以外の記憶は残っており、人間関係や自分の社会的立ち位置を再認識すれば、生活に支障はなかった。
 丁度いいことに、蒸発した母親と引越してきたこともあり、リナは自らの記憶を探すことなく中学生活を満喫した。普通に勉強して、普通に友達と遊び、受験勉強や憧れの先輩について悩みながら、高校生になろうとしていた。
 そんな生活が変わったのは、高校に進学してできた友達と合コンに行った時だろう。相手は大学生だということもあり、大人の男性に憧れた彼女達には、乱交パーティーという結果だけが訪れた。
 高校に進学したばかりの少女達には、大学生である青年達に逆らうことができずに、次々と犯されていった。そんな少女達の阿鼻叫喚の中、リナの意識が飛び、気が付けば男達の気絶体の上で、自分から腰を振っていた。
 唯一気が付いていた同級生の話によると、一度犯されたリナの様子が豹変し、犯してきた相手を逆に組み伏せたらしい。そして次々に種を吐き出させた後も、どうやったのかさらに刺激を与えて強制的に続行、相手が気絶するまでまぐわったとか。
 その件で学校でも浮き、挙句の果てにはウリまでやっていると囃し立てられた。その件もあったが、別に気になることもあり、母親が蒸発した数日後に、リナは学校を退学した。
「……もしかして、血繋がってなかったりして」
 元々放任主義な母親だなぁ、とリナは思っていたのだが、ウリの噂が流れて少ししたある日、母親は突然姿を消したのだ。
 娼婦なのかどうかは知らないが、こことは別の所に住み、時折来ては生活状態を確認して、生活費を置いていくのが常だった。流石に保護者承認が必要な事柄には対応してくれたし、電話やメールも通じていたが、それでもどこか義務的に面倒を見ていた節があった。
「やっぱりあれかな。本当の親とかに面倒を押しつけられて、ウリで稼いでいるなら一人でも大丈夫だと思ったのかね~」
 たとえそうでも、捨てられたという事実には変わらない。だというのに、『最後の生活費』と一緒にその母親が持っていた携帯が壊された状態で置かれているのを見ても、リナは笑うことしかできなかった。
 一人でいる時間が長かったということもあるが、リナ自身分かっていたのだ。



 ……自分が愛されていないことを。



「……しょうがない。生きてくために働きますかね、っと」
 最初はどこで相手を探せばいいのかは分からないが、それでも蛇の道は蛇だ。夜の街をさまよい、通りがかった男とかから援交少女とどう出会っているかを聞きながら仕事を覚えるのに、さほど時間はかからなかった。
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