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196 マガリ案件No.003_03,08+α(その3)
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陽動側もまた、周辺を警戒している薬物中毒者やそれ以外の相手に手こずっていた。
(何でこう、手練れってむさいおっさんしかいないんだろう……同年代っぽいのは何か弱そうだし)
校庭の端にある防球フェンスの支柱の上に腰掛けた弥生こと『爆弾魔』は、立てた膝に肘を載せて頬杖をしながら、地上の景色を見下ろしていた。別に馬鹿だから登ったわけでも、自分一人だけサボっているわけでもない。どこかに狙撃手が居る気配を察し、それを確かめる為に周辺を探ろうと、高所を陣取っているのだ。
(目立っててヤバそうなのは……狙撃手を含めれば二、三人ってところかな? 後は何か、理沙ちゃんが気付かずに撃ち殺しちゃってるし)
薬物依存になった人間の特徴でもっとも顕著なのが、理性を失くす程本能的に、麻薬を求めてしまうところだ。だから得られるのであれば、与えてくれる他者の要望にどこまでも、忠実に答えようとする。
たとえ……自分の生命を失おうとも。
実際、『爆弾魔』達が最初の陽動として手頃な体育倉庫を爆破した時にも、警備員達が起こした行動は二種類。爆発元へと押しかけるか、そこから離れて行くかだ。
爆破した体育倉庫に近付いてくる連中は、もう少し集まったタイミングで再度、別の爆弾を起爆させて吹き飛ばせばいい。問題は、離れて行く薬物中毒者の方だ。
(かなり散り散りになってるな~……理沙ちゃんも大変そう)
銃が、飛び道具が手元になければ、わざわざ相手を追い駆けて一人ずつ片付けなければならない。その手間を省く為に、遠距離の攻撃手段も重要となってくる。
だが、反銃社会で銃器を持つ者は多いようで少ない。それは裏社会でも例外ではなく、所持している人間は限られていた。そのせいで、代わりの武器や自作銃等に手を出すか、刃物や肉体に頼る傾向が未だに根強い。
要するに、現状を纏めるとするならば……押し寄せてくる薬物中毒者共を理沙が二丁一対型自動拳銃と散弾銃を持ち替えながら殺し回っている中、美里と佳奈だけが手練れのうち二人をそれぞれ相手していた。その内一人はそこまで強くないので、助けに入る必要はないだろう。
他にも、薬物中毒者の中に紛れて、明らかに足取りが違う者達が数名残っていたが……それも理沙に、区別なく撃ち殺されている。
(と、なると。ボクの獲物は……)
自分の役割が手練れの内の一人、未だに姿を見せない狙撃手を排除することだと判断した『爆弾魔』は自身の顔を覆うマスクに手を伸ばし、側面にある小さなボタンを押し込んで操作した。
(アニメ観てた時に何となく思い付いて、試しに作ってみたけど……うん、結構見れる)
ペストマスクの視界窓(視力矯正付)に仕込んだ望遠機能で周辺を探る『爆弾魔』。とはいえ、試作品である以上性能は低く、そこまで遠方を見られるものではない。
(…………見っけ)
不幸中の幸い、と言えばいいのか……相手の腕前は九州で戦った狙撃手に遠く及ばず、近くに隠れているのをすぐに見つけられた。
狙撃銃を構えている男を見つけた『爆弾魔』は、身体を傾けるとそのまま落下し、ワイヤーを駆使して空中を高速移動し始めた。
(遅い、遅い……っと!)
宙を舞う『爆弾魔』の傍を、音速を超える速さの狙撃銃の弾が何発もすれ違ってくる。狙いが定まらなくなれば、数にまかせて当てようとする……狙撃銃の初心者が陥りやすい思考回路だった。
けれども、だからといって……相手がまったくの素人とは限らない。
『ナイフ使いか……』
変声機を介した声と共に、眼前へと降り立った『爆弾魔』に待っていたのは……一流のナイフ使いから浴びせられる、白刃の洗礼だった。
(我流……じゃないよね、これ)
小型の自動拳銃を抜き、銃口を向けようとする度に、ナイフの刃で銃身を叩かれてしまう。発砲の阻止と武器破壊を狙っているのだろうが、鉄のぶつかり合いであれば、薄い板よりも塊の方が有利だ。
それでも、ナイフで『爆弾魔』の自動拳銃を攻撃してくるのは、携帯性を活かした数の優位性……端的に言えば、大量の予備を身体中に仕込めているからに過ぎない。
(しかも、刃の振り方に迷いや無駄がない。軍人っぽくないから、短剣前提の体術とかかな?)
厄介なのは刺突短剣のように、突きしかできないわけではない点だ。時折放たれる斬撃は、小柄な体躯の『爆弾魔』にとっては簡単に回避できるものの、そのほとんどが陽動技である。
小回りが利きやすい上に、斬撃と刺突による緩急織り交ぜた白刃を浴びせられることが、ナイフの強みだった。
その証拠に、狙撃銃を構えていたナイフ使いとの距離が、徐々に縮まってきている。このままでは、少しでも隙を見せた途端に身体を貫かれてしまうだろう。
(……ま、これ位ならね)
しかし、この程度の相手で怯む程、『爆弾魔』は弱くない。対処する為の選択肢はいくつもある。
適当な爆弾を仕掛けてからワイヤーで一気に距離を空けてもいいし、小柄な体型を活かして接近し、打撃代わりに発砲してもいい。もっとも……自動拳銃の方は魔改造している上に、銃身に何度も斬撃を受けているので、下手に発砲しない方が賢明だったりするが。
だからこそ、『爆弾魔』が選んだのは単純な手段だった。
――バシュッ!
「がっ!?」
相手のナイフを自動拳銃の銃身で受け止めてから片手を空け、本来であれば移動に用いているワイヤーを射出。その先端をナイフ使いの額目掛けてぶつけたのだ。
無論、それだけで倒せるわけではないが……相手の身体に小型爆弾を仕掛ける隙を作るには十分だった。
「ま――、」
相手の言葉に従って待つ道理もなく、『爆弾魔』はもう片方の手首に仕込んでいたワイヤーを使って離れる。それと同時に、小型爆弾を起動させた。
――ドォン!
『軽いな……さて、と』
爆発圏外から脱出してすぐ、ナイフ使いだった遺体の傍へと戻った『爆弾魔』は小型の自動拳銃を懐に仕舞うと、その空いた手で近くに転がっていた狙撃銃を持ち上げて眺める。
(これ……もしかして、正規品じゃないの?)
質こそ多少の雑さは見られるが、量産品の中に紛れている粗悪品特有の、造りの甘さがない。他に、しっくりとくる言葉があるとするならば……模造銃しかなかった。
(この前も、『掃除屋』と揉めてた連中が突撃銃の複製品持ってたけど……もしかして、誰かが市場に大量に流してる?)
とはいえ、今ここで考えても詮無いことだと思った『爆弾魔』は狙撃銃を手放すと、再びワイヤーを射出して移動し始めた。
支柱の上から眺め、厄介だと思った者達はすでに始末しているか、美里か佳奈がそれぞれ相手をしている。見落としがあったとしても、それは校舎等の建造物の中にまだ残っているか、群衆に紛れて奇襲する暗殺者の類だろう。
(この状況で一番厄介なのは、実力まで隠して溶け込んでる暗殺者タイプだけど……まあ、全員殺せば一緒か)
等と、未だに薬物中毒者相手に無双している理沙の下へと駆け付けながら、物騒な発想に至った『爆弾魔』は到着してすぐに取り出した、手榴弾型に改造した跳躍地雷を空へと放つ。
『爆弾魔』が近くに降り立つと同時に、投げ上げた手榴弾を一目見てその効力を把握した理沙は、二丁一対型自動拳銃の弾倉を差し替えながら叫んできた。
「真下はっ!?」
『平気っ!』
その言葉通り、手榴弾に埋め込まれた大量の金属球が周囲へと散らばり、襲い掛かってきていた薬物中毒者達を蹂躙していく。
地雷は本来、対人か対戦車用に用いられることが多い。そして、跳躍地雷は対集団兵器。この場に群がる雑魚を一掃するには効果覿面であった。
「まだ残ってるか……もう一発行けるかっ!?」
『無理。地雷爆弾は品切れ』
手の甲に仕込んでいた鉤爪を展開した『爆弾魔』は、理沙の背後から近付いてくる薬物中毒者へと飛び掛かっていく。
『破片を回収すれば、似たようなのは造れるけど……』
「……そんな暇はないか」
弾倉を差し替えたばかりの二丁一対型自動拳銃の銃口をゾンビ映画のごとく群がってくる薬物中毒者に向けながら、理沙は嘆息してくるのだった。
一方、美里が相手にしていたのは自動拳銃を両手に一丁ずつ持つ、所謂二丁拳銃持ちのチンピラだった。
これでも対銃器戦闘に長けた者達と接してきた経験や、その訓練方法を教わって実施してきた過去があるので、拳銃を構えてくる相手と対峙すること自体は怖くない。どちらかといえば……決定打に欠けている現状が一番厄介だった。
(ブラジルの格闘技? いや、これって……ストリートダンス?)
武術の中には、民族舞踊等でその技術を隠し、周囲に隠れて伝承させている逸話も存在する。それに、ストリート系のブレイクダンスは床に手をつき、上半身を持ち上げながら踊る為、動きの近いブラジルの格闘技への転向も容易だった。
「おらおらどうしたっ!?」
「…………」
縦横無尽に動き回る上に、両手に握った自動拳銃から次々と放たれてくる7.62mm口径の銃弾。鎖鎌の鎖を振り回して弾くか回避するかの、防戦一方の状況だったが……美里が鎌の持ち手を手放した瞬間、決着は着いた。
「…………は?」
銃器よりも刃物が優れている利点を一つ挙げるとすれば、攻撃時の静寂さだろうか。
鎖の輪が鳴らす金属音を置き去りにして伸ばされた鎌は狙い違わず、チンピラ男の両手首を残らず刈り取っていく。
その為にバランスを崩し、出血や身体の一部が切断されたことによる痛覚が生まれ……る前に、先端に取り付けられた分銅がその頭蓋を打ち砕かれてしまう。
「がびゃっ!?」
「汚い悲鳴……」
自身を支点にして、鎖の中央部を握った状態で鎌と分銅をそれぞれ投げ付けた美里は無事、二丁拳銃持ちの相手を簡単に倒してしまう。もっとも、単なるストリートダンスと二丁拳銃を組み合わせただけだったので、むしろ物足りなさの方が大きかったが。
(さて、他は……)
――ガラン
「…………え?」
鈍い金属音を鳴らしながら、美里の足元に転がってきたのは以前、自分を傷付けたはずの斧槍だった。
「あ、ちょっ!? 待っ!?」
「ハァアア……ッ!」
多少の体術は修めているようだが、相手との実力差は明白だった。現に、うまく捌けないと判断してか、今日手に入れたばかりの小型の盾で直接、拳の突きを防いでいる。
(ああ、あれ……一番の外れかも)
ズレた眼鏡を直しながら、斧槍が飛んできた方へと改めて視線を向けると、佳奈と対峙している中年男性が鋭い体術を浴びせていた。見る限りは空手に近い流派だと持ち得る知識の中から答えを出しはしたが、美里がそれを言ったところで始まらない。
「とりあえず、武器渡すけど……どれがいい?」
美里が示したのは三つ、足元に転がっている斧槍と、自分の得物である鎖鎌の鎌と分銅の部分だった。
別に聞かずとも、ただ斧槍を返せば済む話かもしれないが……戦い方の相性によっては、かえって邪魔になってしまう。佳奈の方も不利と見たからこそ、あえて手放した可能性だってある。
……ちなみに、美里から手を貸す義理はない。この程度は自分で片づけるべきだという裏社会の住人特有の身勝手な常識や価値観もあるが、佳奈には自分の足を駄目にされかけた恨みもある。むしろ、得物を渡すだけでも十分な恩情だった。
「…………鎌っ! とにかく有効範囲が短いやつ!」
「了解っ!」
二丁拳銃使いのチンピラの手首を刈り取った鎌に繋がっている方の鎖を握り直し、その先端が佳奈へと向かうよう、美里は腕を振った。
宙を舞う鎖鎌は狙い違わず、武術の使い手らしき中年男性を通り越して佳奈の手へと納まり、
「りゃあっ!」
「ぐっ!?」
躊躇なく、相手の肩へとその刃を突き立てていた。
「後、は……『全部刈り取ろうか』っ!」
右手に握った鎌の取っ手を引くと同時に、左手の盾に取り付けられた刃を突き出す佳奈。左右ほぼ同時に放たれた斬撃に、中年男性はその痛みから体勢を崩してしまう。
その瞬間を、過集中状態に入っている佳奈が見逃すはずもない。右手で引き抜いた鎌を下投げの要領で振り回し、中年男性の顎の下から脳髄へと向けて、刃の先端を到達させた。
――ドサッ!
「ああ、疲れた……」
「……お疲れ」
すぐに過集中状態を解き、反動で身体が動けなくなるのを防ごうとしている。けれども、肩で息をせざるを得なくなっている佳奈に、美里は足元に転がってきていた斧槍を投げ渡した。
「まだいける?」
「とう、ぜん……っ!」
代わりに投げ返された鎌を掴んだ美里は、佳奈と共に再び、陽動も兼ねた薬物中毒者達の掃討へと移った。
(それにしても……)
斧槍を振り回し、血飛沫に塗れていた佳奈だったが、右手からは先程の鎌の感触が未だ抜けずにいた。
(大きさはいまいちだったけど……ちょっと、いいかも)
『お前には……別の得物の方が似合いそうだ』
その感触と共に、以前養父に告げられた言葉が、佳奈の脳裏を過ぎっていった。
(何でこう、手練れってむさいおっさんしかいないんだろう……同年代っぽいのは何か弱そうだし)
校庭の端にある防球フェンスの支柱の上に腰掛けた弥生こと『爆弾魔』は、立てた膝に肘を載せて頬杖をしながら、地上の景色を見下ろしていた。別に馬鹿だから登ったわけでも、自分一人だけサボっているわけでもない。どこかに狙撃手が居る気配を察し、それを確かめる為に周辺を探ろうと、高所を陣取っているのだ。
(目立っててヤバそうなのは……狙撃手を含めれば二、三人ってところかな? 後は何か、理沙ちゃんが気付かずに撃ち殺しちゃってるし)
薬物依存になった人間の特徴でもっとも顕著なのが、理性を失くす程本能的に、麻薬を求めてしまうところだ。だから得られるのであれば、与えてくれる他者の要望にどこまでも、忠実に答えようとする。
たとえ……自分の生命を失おうとも。
実際、『爆弾魔』達が最初の陽動として手頃な体育倉庫を爆破した時にも、警備員達が起こした行動は二種類。爆発元へと押しかけるか、そこから離れて行くかだ。
爆破した体育倉庫に近付いてくる連中は、もう少し集まったタイミングで再度、別の爆弾を起爆させて吹き飛ばせばいい。問題は、離れて行く薬物中毒者の方だ。
(かなり散り散りになってるな~……理沙ちゃんも大変そう)
銃が、飛び道具が手元になければ、わざわざ相手を追い駆けて一人ずつ片付けなければならない。その手間を省く為に、遠距離の攻撃手段も重要となってくる。
だが、反銃社会で銃器を持つ者は多いようで少ない。それは裏社会でも例外ではなく、所持している人間は限られていた。そのせいで、代わりの武器や自作銃等に手を出すか、刃物や肉体に頼る傾向が未だに根強い。
要するに、現状を纏めるとするならば……押し寄せてくる薬物中毒者共を理沙が二丁一対型自動拳銃と散弾銃を持ち替えながら殺し回っている中、美里と佳奈だけが手練れのうち二人をそれぞれ相手していた。その内一人はそこまで強くないので、助けに入る必要はないだろう。
他にも、薬物中毒者の中に紛れて、明らかに足取りが違う者達が数名残っていたが……それも理沙に、区別なく撃ち殺されている。
(と、なると。ボクの獲物は……)
自分の役割が手練れの内の一人、未だに姿を見せない狙撃手を排除することだと判断した『爆弾魔』は自身の顔を覆うマスクに手を伸ばし、側面にある小さなボタンを押し込んで操作した。
(アニメ観てた時に何となく思い付いて、試しに作ってみたけど……うん、結構見れる)
ペストマスクの視界窓(視力矯正付)に仕込んだ望遠機能で周辺を探る『爆弾魔』。とはいえ、試作品である以上性能は低く、そこまで遠方を見られるものではない。
(…………見っけ)
不幸中の幸い、と言えばいいのか……相手の腕前は九州で戦った狙撃手に遠く及ばず、近くに隠れているのをすぐに見つけられた。
狙撃銃を構えている男を見つけた『爆弾魔』は、身体を傾けるとそのまま落下し、ワイヤーを駆使して空中を高速移動し始めた。
(遅い、遅い……っと!)
宙を舞う『爆弾魔』の傍を、音速を超える速さの狙撃銃の弾が何発もすれ違ってくる。狙いが定まらなくなれば、数にまかせて当てようとする……狙撃銃の初心者が陥りやすい思考回路だった。
けれども、だからといって……相手がまったくの素人とは限らない。
『ナイフ使いか……』
変声機を介した声と共に、眼前へと降り立った『爆弾魔』に待っていたのは……一流のナイフ使いから浴びせられる、白刃の洗礼だった。
(我流……じゃないよね、これ)
小型の自動拳銃を抜き、銃口を向けようとする度に、ナイフの刃で銃身を叩かれてしまう。発砲の阻止と武器破壊を狙っているのだろうが、鉄のぶつかり合いであれば、薄い板よりも塊の方が有利だ。
それでも、ナイフで『爆弾魔』の自動拳銃を攻撃してくるのは、携帯性を活かした数の優位性……端的に言えば、大量の予備を身体中に仕込めているからに過ぎない。
(しかも、刃の振り方に迷いや無駄がない。軍人っぽくないから、短剣前提の体術とかかな?)
厄介なのは刺突短剣のように、突きしかできないわけではない点だ。時折放たれる斬撃は、小柄な体躯の『爆弾魔』にとっては簡単に回避できるものの、そのほとんどが陽動技である。
小回りが利きやすい上に、斬撃と刺突による緩急織り交ぜた白刃を浴びせられることが、ナイフの強みだった。
その証拠に、狙撃銃を構えていたナイフ使いとの距離が、徐々に縮まってきている。このままでは、少しでも隙を見せた途端に身体を貫かれてしまうだろう。
(……ま、これ位ならね)
しかし、この程度の相手で怯む程、『爆弾魔』は弱くない。対処する為の選択肢はいくつもある。
適当な爆弾を仕掛けてからワイヤーで一気に距離を空けてもいいし、小柄な体型を活かして接近し、打撃代わりに発砲してもいい。もっとも……自動拳銃の方は魔改造している上に、銃身に何度も斬撃を受けているので、下手に発砲しない方が賢明だったりするが。
だからこそ、『爆弾魔』が選んだのは単純な手段だった。
――バシュッ!
「がっ!?」
相手のナイフを自動拳銃の銃身で受け止めてから片手を空け、本来であれば移動に用いているワイヤーを射出。その先端をナイフ使いの額目掛けてぶつけたのだ。
無論、それだけで倒せるわけではないが……相手の身体に小型爆弾を仕掛ける隙を作るには十分だった。
「ま――、」
相手の言葉に従って待つ道理もなく、『爆弾魔』はもう片方の手首に仕込んでいたワイヤーを使って離れる。それと同時に、小型爆弾を起動させた。
――ドォン!
『軽いな……さて、と』
爆発圏外から脱出してすぐ、ナイフ使いだった遺体の傍へと戻った『爆弾魔』は小型の自動拳銃を懐に仕舞うと、その空いた手で近くに転がっていた狙撃銃を持ち上げて眺める。
(これ……もしかして、正規品じゃないの?)
質こそ多少の雑さは見られるが、量産品の中に紛れている粗悪品特有の、造りの甘さがない。他に、しっくりとくる言葉があるとするならば……模造銃しかなかった。
(この前も、『掃除屋』と揉めてた連中が突撃銃の複製品持ってたけど……もしかして、誰かが市場に大量に流してる?)
とはいえ、今ここで考えても詮無いことだと思った『爆弾魔』は狙撃銃を手放すと、再びワイヤーを射出して移動し始めた。
支柱の上から眺め、厄介だと思った者達はすでに始末しているか、美里か佳奈がそれぞれ相手をしている。見落としがあったとしても、それは校舎等の建造物の中にまだ残っているか、群衆に紛れて奇襲する暗殺者の類だろう。
(この状況で一番厄介なのは、実力まで隠して溶け込んでる暗殺者タイプだけど……まあ、全員殺せば一緒か)
等と、未だに薬物中毒者相手に無双している理沙の下へと駆け付けながら、物騒な発想に至った『爆弾魔』は到着してすぐに取り出した、手榴弾型に改造した跳躍地雷を空へと放つ。
『爆弾魔』が近くに降り立つと同時に、投げ上げた手榴弾を一目見てその効力を把握した理沙は、二丁一対型自動拳銃の弾倉を差し替えながら叫んできた。
「真下はっ!?」
『平気っ!』
その言葉通り、手榴弾に埋め込まれた大量の金属球が周囲へと散らばり、襲い掛かってきていた薬物中毒者達を蹂躙していく。
地雷は本来、対人か対戦車用に用いられることが多い。そして、跳躍地雷は対集団兵器。この場に群がる雑魚を一掃するには効果覿面であった。
「まだ残ってるか……もう一発行けるかっ!?」
『無理。地雷爆弾は品切れ』
手の甲に仕込んでいた鉤爪を展開した『爆弾魔』は、理沙の背後から近付いてくる薬物中毒者へと飛び掛かっていく。
『破片を回収すれば、似たようなのは造れるけど……』
「……そんな暇はないか」
弾倉を差し替えたばかりの二丁一対型自動拳銃の銃口をゾンビ映画のごとく群がってくる薬物中毒者に向けながら、理沙は嘆息してくるのだった。
一方、美里が相手にしていたのは自動拳銃を両手に一丁ずつ持つ、所謂二丁拳銃持ちのチンピラだった。
これでも対銃器戦闘に長けた者達と接してきた経験や、その訓練方法を教わって実施してきた過去があるので、拳銃を構えてくる相手と対峙すること自体は怖くない。どちらかといえば……決定打に欠けている現状が一番厄介だった。
(ブラジルの格闘技? いや、これって……ストリートダンス?)
武術の中には、民族舞踊等でその技術を隠し、周囲に隠れて伝承させている逸話も存在する。それに、ストリート系のブレイクダンスは床に手をつき、上半身を持ち上げながら踊る為、動きの近いブラジルの格闘技への転向も容易だった。
「おらおらどうしたっ!?」
「…………」
縦横無尽に動き回る上に、両手に握った自動拳銃から次々と放たれてくる7.62mm口径の銃弾。鎖鎌の鎖を振り回して弾くか回避するかの、防戦一方の状況だったが……美里が鎌の持ち手を手放した瞬間、決着は着いた。
「…………は?」
銃器よりも刃物が優れている利点を一つ挙げるとすれば、攻撃時の静寂さだろうか。
鎖の輪が鳴らす金属音を置き去りにして伸ばされた鎌は狙い違わず、チンピラ男の両手首を残らず刈り取っていく。
その為にバランスを崩し、出血や身体の一部が切断されたことによる痛覚が生まれ……る前に、先端に取り付けられた分銅がその頭蓋を打ち砕かれてしまう。
「がびゃっ!?」
「汚い悲鳴……」
自身を支点にして、鎖の中央部を握った状態で鎌と分銅をそれぞれ投げ付けた美里は無事、二丁拳銃持ちの相手を簡単に倒してしまう。もっとも、単なるストリートダンスと二丁拳銃を組み合わせただけだったので、むしろ物足りなさの方が大きかったが。
(さて、他は……)
――ガラン
「…………え?」
鈍い金属音を鳴らしながら、美里の足元に転がってきたのは以前、自分を傷付けたはずの斧槍だった。
「あ、ちょっ!? 待っ!?」
「ハァアア……ッ!」
多少の体術は修めているようだが、相手との実力差は明白だった。現に、うまく捌けないと判断してか、今日手に入れたばかりの小型の盾で直接、拳の突きを防いでいる。
(ああ、あれ……一番の外れかも)
ズレた眼鏡を直しながら、斧槍が飛んできた方へと改めて視線を向けると、佳奈と対峙している中年男性が鋭い体術を浴びせていた。見る限りは空手に近い流派だと持ち得る知識の中から答えを出しはしたが、美里がそれを言ったところで始まらない。
「とりあえず、武器渡すけど……どれがいい?」
美里が示したのは三つ、足元に転がっている斧槍と、自分の得物である鎖鎌の鎌と分銅の部分だった。
別に聞かずとも、ただ斧槍を返せば済む話かもしれないが……戦い方の相性によっては、かえって邪魔になってしまう。佳奈の方も不利と見たからこそ、あえて手放した可能性だってある。
……ちなみに、美里から手を貸す義理はない。この程度は自分で片づけるべきだという裏社会の住人特有の身勝手な常識や価値観もあるが、佳奈には自分の足を駄目にされかけた恨みもある。むしろ、得物を渡すだけでも十分な恩情だった。
「…………鎌っ! とにかく有効範囲が短いやつ!」
「了解っ!」
二丁拳銃使いのチンピラの手首を刈り取った鎌に繋がっている方の鎖を握り直し、その先端が佳奈へと向かうよう、美里は腕を振った。
宙を舞う鎖鎌は狙い違わず、武術の使い手らしき中年男性を通り越して佳奈の手へと納まり、
「りゃあっ!」
「ぐっ!?」
躊躇なく、相手の肩へとその刃を突き立てていた。
「後、は……『全部刈り取ろうか』っ!」
右手に握った鎌の取っ手を引くと同時に、左手の盾に取り付けられた刃を突き出す佳奈。左右ほぼ同時に放たれた斬撃に、中年男性はその痛みから体勢を崩してしまう。
その瞬間を、過集中状態に入っている佳奈が見逃すはずもない。右手で引き抜いた鎌を下投げの要領で振り回し、中年男性の顎の下から脳髄へと向けて、刃の先端を到達させた。
――ドサッ!
「ああ、疲れた……」
「……お疲れ」
すぐに過集中状態を解き、反動で身体が動けなくなるのを防ごうとしている。けれども、肩で息をせざるを得なくなっている佳奈に、美里は足元に転がってきていた斧槍を投げ渡した。
「まだいける?」
「とう、ぜん……っ!」
代わりに投げ返された鎌を掴んだ美里は、佳奈と共に再び、陽動も兼ねた薬物中毒者達の掃討へと移った。
(それにしても……)
斧槍を振り回し、血飛沫に塗れていた佳奈だったが、右手からは先程の鎌の感触が未だ抜けずにいた。
(大きさはいまいちだったけど……ちょっと、いいかも)
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真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
異世界でただ美しく! 男女比1対5の世界で美形になる事を望んだ俺は戦力外で追い出されましたので自由に生きます!
石のやっさん
ファンタジー
主人公、理人は異世界召喚で異世界ルミナスにクラスごと召喚された。
クラスの人間が、優秀なジョブやスキルを持つなか、理人は『侍』という他に比べてかなり落ちるジョブだった為、魔族討伐メンバーから外され…追い出される事に!
だが、これは仕方が無い事だった…彼は戦う事よりも「美しくなる事」を望んでしまったからだ。
だが、ルミナスは男女比1対5の世界なので…まぁ色々起きます。
※私の書く男女比物が読みたい…そのリクエストに応えてみましたが、中編で終わる可能性は高いです。
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