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099 マガリ案件No.002_01,03,06,07,08,11
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暴力団にも、暴力団対策法に基づいて指定を受けた組織もあれば、そうでないものも存在する。
そもそも暴力団自体、集団で反社会的な行動を起こして利益を上げれば、暴走族等の半グレ集団でも対象になることがある。世間で言う『極道』だけが、該当するわけではないのだ。
今回、麻薬組織狩りの対象となっている組織、『船岳一家』もまた、指定されていない暴力団の一つである。彼等は過疎化した町中の、廃墟となった立体駐車場のさらに地下に、資産を納めた金庫を隠していた。
の、だが……
「いくら潰れた指定暴力団の下部組織だからってな、下手な地方銀行クラスの頑丈さは要らないだろっ!?」
「いいから、早く金庫開けろって!?」
駐車スペースは視界を覆われた状態で温室化され、大麻草が栽培されている。『偽造屋』が適当な偽装工作をして囮になり、『掃除屋』が周辺の隠蔽工作、『技術屋』が本日二度目の爆破解体の為に爆薬を設置して回っている。
なので現在、地下の隠し金庫の前に居るのは『鍵師』とその護衛に就いた『傭兵』だけ……の、はずだった。
「創の奴、陽動しくじりやがって……後でご自慢の顔面ぶん殴ってやる!」
「だから愚痴る前にさっさと開けろよ! こっちはもうすぐ弾切れだってのにっ!」
下部組織とはいえ、元が指定暴力団だったのは伊達ではないらしい。以前、英治達が麻薬組織狩りした『一夜団体』とは、武器も人員も段違いだった。
平たく言うと……英治一人で十数人相手に銃撃戦を繰り広げていた。現在進行形で。
「誰だよ、『『立案者』の件で注目が逸れている今なら楽勝だ!』ってほざいたのは!?」
「お前だ、お前」
回転式拳銃に(手持ちが怪しくなってきた)銃弾を込めながら、英治は朔夜の叫びに対して、冷静にツッコんだ。
「だから言ったんだよ、『せめて銃弾調達させてくれ』って。『立案者』襲撃した装備の残りで乗り込んだ結果がこれだよ。やってらんね~……」
銃弾を込め終えた回転式弾倉をスイングインした英治は、豪雨のような銃撃の着弾音の中、盛大に溜息を吐いた。
「お前な……その無計画な性格、まだ直ってないのかよ」
「『物事はすばやく決行すべき』、だ。『孫子』を知らないのかよ?」
「出来の悪さにも限度があるわっ!」
腕だけを出し、回転式拳銃から.38口径の低威力の銃弾を撃ちながら、英治は銃声を上回りかねない程の声で叫んだ。
ちなみに、『巧遅は拙速に如かず』とは、『多少雑でもいいからさっさとやれ』という意味に近い言葉である。間違ってはいない。
「せめてさっさと金庫開けろよっ!?」
「いや、たしかに厄介だけどさ……今開けても、意味ないだろ」
腰程の高さもある金庫の扉に自身の背を預けながら、.45口径自動拳銃から弾倉を抜いて残弾数を確かめていた朔夜は、ツッコんできた英治にそう返した。
「あいつ等全滅させるのは後の話だし……どっちにしろ、帰りの足がなければ運べない量の札束だろうが」
「……で、その足は」
再度銃弾を込め直している英治に、朔夜は床上に滑らせる形で自動拳銃を投げ渡してから答えた。
「先にパシらせた」
「…………は?」
正真正銘最後の一発を込める手前で、その指が止まる。
「いや、元々買い出しに外出た途端に、『立案者』の騒ぎに巻き込まれたんだよ。おかげでさっきからやる気が出なくて出なくて……あ、一応自動拳銃、父親の形見だから大事に使えよ」
「その前にっ! この状況に陥った件について責任取れ、」
――ブォン!
「って……うおっ!?」
銃弾が降り注いでいた方から、一台のスポーツカーが乗り込んできた。英治達を庇うような形で停車した後、運転手側の扉が開く。
「おい朔、これで良かったっけ?」
車から降りながら、睦月は英治に手持ちの銃弾を、朔夜には待ち望んでいた物を投げ渡してきた。
その日、『偽造屋』が経営しているバー『Alter』の常連の一人である、田村四季は職場にてレジ打ちに入っていた際、珍しい相手と遭遇した。
「……あれ、荻野君?」
「どうも……」
随分珍しい相手が来たものだと、田村は少し席を外し、指定された番号の品がある棚へと向かう。そこまで離れていないことや、他の客が近くにいないこともあってか、睦月から声を掛けられた。
「しかし……普段、バーで会う時と格好違い過ぎないか?」
「そりゃそうでしょ。接客業なんだし……」
睦月にそう返しながら、ピアスを外して人当たりの良い髪型にしている田村は、手に取った商品を掲げて見せた。当人から首肯を受けてからレジへと戻り、バーコードを読み取って会計手続きに入る。
「それよりも珍しいじゃん。荻野君吸ったっけ?」
「いや、ただのパシリ」
アプリの電子マネーで会計を済ませ、受け取った煙草の箱をスマホと共に、懐に仕舞い込んでいる睦月に、田村は軽く息を吐いてから言った。
「ふぅん……また女?」
「またって何だよ、またって。まあ……女と言えば、女か」
急いでいるのか、レシートも無造作に仕舞ってから、睦月は去り際にこう言い残していった。
「血が繋がってないとはいえ…………姉貴だしな」
そして、現在に至る。
「朔夜、煙草吸うの?」
「ある意味ヘビースモーカーだよ……朔、銘柄合ってたよな?」
――……シュボッ!
睦月から受け取った煙草、『Adam's Apple』のフィルムを剥がしてケースを開け、中から抜いた一本を咥えた朔夜は、昔弥生から貰ったシガーソケット型のライターで火を点けた。
「ふぅ……合ってる合ってる。おかげでようやく気合が入ったわ」
デメリットばかりが目立つ煙草にも、実はわずかにだが、メリットもある。
というより……行き過ぎた薬が毒となるように、ニコチンもまたごく少量であれば、脳に有益な効能を与えることもある。実際、いくつかの病気に対して有用であるという研究結果も出ていた。
もっとも……ある意味薬物による増強のようなものなので、長期的に使う分にはデメリットの方が大き過ぎる。その上、代替品が溢れている昨今では、あまり魅力を感じることはない。おまけに煙草税は増加する一方なので、ほぼ『百害あって一利なし』なのが現状だ。
「あ~……良し良し、頭が回ってきた」
そんな煙草を咥えたまま立ち上がりつつ身体を解し、ようやく朔夜は金庫を開ける為に、ダイヤルに手を伸ばした。
「そんじゃ、さっさと開けるから……もうちょっと時間稼いでくれ」
「本当早くしてくれよっ!」
到着したばかりで(累計業務時間以外の)不満がない状態の睦月とは違い、精神的外傷や独自のルールも相まってほぼくたびれていた英治は、もはや悲痛とも呼べる声音で叫んでいだ。
「……そんなにまずい状況だったのか?」
「主にお前の姉貴のせいでなっ!」
そんな弟を含めた男二人の口喧嘩すら耳に入らない程に集中し、
「…………『全部暴いてやる』」
静かに過集中状態へと入った朔夜は、扉に耳を当てた状態でダイヤルを回した。
――――――――――――――――――――
To all
Be careful. You're being targeted.
* 01,03,06,07,08,11
――――――――――――――――――――
「まあ、半分も参加してた上に日本での出来事だし……実質ガキ大将宛てだな」
そして、麻薬組織狩りを終えて撤収した面々は、情報屋の和音が営む輸入雑貨店内にて、それぞれの取り分を仕分けていた。
「にしても……あの男、どっから過集中状態に入る方法を仕入れてきたんだ?」
依頼人との交渉を手早く終え、予備のタイヤに交換した仕事用の車で駆け付けた睦月。朔夜が愚図ったせいで余計に手間が増えた英治に、陽動をしくじった件でボコられかけた創。
疲労困憊な者が混じる中で、勇太が筋肉量に見合わない器用さで札束を数えつつ、そんなことを口走ってきた。
「……何それ?」
「ああ……そういや、そんなこと言ってたな」
弥生が首を傾げていると、『立案者』と名乗っていた男の独り言を聞いていた朔夜が、そう答えて来た。
「まさか私達以外にも、過集中状態に入る方法を持っている奴がいたとはな」
「いや、それが……根っこが同じっぽいんだよ」
数え終えた札束を置き、勇太は一度創に話した説明を繰り返した。
「でも……あの方法って、たしかガキ大将の実家から教わったやり方だろ? そう簡単に出回るか?」
英治がそう答えるのも、無理はない。ある意味では、ガキ大将の実家を敵に回すようなものだ。普通は手を出そうとすらしないだろう。
「え……ただ単に、地元の図書室からパクってきたんじゃねえの?」
そして、何人もが同じことを考えていた時だった。睦月が、その言葉を挟んできたのは。
「……どういうことだ?」
「いや、だからな……」
代表として、勇太が問い掛けてくる。マガリに参加した全員からの視線を浴びながら、睦月は欠伸交じりに答えた。
「……それ関係の資料、普通に学校の図書室に残ってたぞ?」
一拍間を置き、全員が叫んだ。
『はあっ!?』
「あんた等うるさいよ。近所迷惑考えな」
煙管片手に、一歩下がった位置で注意してくる和音を気にせず、勇太が睦月に詰め寄ってきた。
「おまっ、どういうことだよそれっ!?」
「ほら、図書室の蔵書って大体、地元出てった連中が『寄贈』と言う名目で、廃品回収代わりに置いてったやつだろ?」
「そういや、戦前の本とかもあったような……」
睦月がよく入り浸っていた為、弥生達もそれに付き合う機会が多かった。当時を振り返っていた朔夜も、ようやく心当たりを思い出していた。
「まさか……奥の本棚に突っ込んであった、あの紙束か?」
「そう、それ」
記憶していても内容を読んでいない朔夜に代わり、睦月が全員にその研究資料の中身について、説明し始めた。
「元々、あのやり方って発達障害者……昔で言うところの社会不適合者を人間兵器に洗脳する為に研究してる過程で見つけた、ただの副産物なんだよ」
実際、『最期の世代』十二人の中ですぐに覚えたのは、元々管理していた家の人間であるガキ大将と、瞑想等の集中状態に入る修行も行っていた『剣客』の少女。そして、三番目が……発達障害を持つ睦月だった。
「発達障害って程度や症状にもよるけど、基本注意散漫なこともあれば、逆に過集中になることがあるだろ? その集中力の差を研究している過程で偶然見つけたのが、例の過集中状態に入る方法なんだよ」
「ちょっと待て……睦月、一つ聞いていいか?」
その説明をどうにか咀嚼した勇太が睦月に、おそらく他にも疑問に思っている人間が居てもおかしくないことを聞いてきた。
「要するに何か、もしかして……発達障害じゃないと使えない可能性があるからって、捨てられた研究なのか?」
「というか……『程度の差はあれど、社会不適合者に話が通じないから、費用対効果悪過ぎ』って理由で研究そのものが廃棄されたんだよ。数少ない副産物も、相性の問題があって確実に覚えられるわけじゃないし」
そこで視線が一斉に、この中で最後に覚えた人間の方へと向けられる。約一名にとっては、覚えられなかった者に対してだが。
「言っとくけど英治……ボクももう使えるからね?」
「え、そうなの?」
「頭のネジが飛んだ時に、その拍子で覚えたんだとさ……」
当時のことを思い出してか、紫煙の混ざる溜息を吐きながら、朔夜は一瞬だけ、天井を見上げた。
「つまり『最期の世代』に限らず、過集中状態に入れると? ……何だろう、割とどうでもいい話な気がしてきた」
「だから廃棄されたし、姐御の実家も、簡単に手の内明かしてきたんだろ?」
暢気に答えてくる創に、睦月もそう返した。
「相性次第とはいえ、誰でも使えるんだぞ? そんな方法に何の価値があるんだよ……」
「あ~……それもそうか」
「もしかして……婆ちゃん、そのこと知ってた?」
弥生からの問い掛けに、情報屋の和音は肩を竦めるだけだった。
「大人って汚い……」
「そんな大人になっちまったんだよ。俺達も」
大人になる度に、知りたくない真実を知ることになる。
この場に居る全員が、やるせない気持ちを抱くことになったのだった。
「……いや、ちょっと待て」
全員の気持ちが解散に流れかける中、創は睦月の方を向いて口を開いた。
「お前それ知ってて……何で俺達に言わなかった?」
『…………あ』
先程の弥生とは違い、全員が視線に同一の疑問を浮かべている。
皆の注目を一身に受けつつ、睦月は頬を掻きながら答えた。
「いや……誰からも聞かれなかったし」
求められた成果を用意するのが仕事だ。そこに過不足が生まれてはならない。
たとえ出来が良くても、蛇足であるならば事前に話を通しておかなければ、余計な諍いを生むことも有り得る。だから睦月も、聞かれたこと以外は自分から話す真似はしない。かつて、英治との一件でそれを学んだから。
しかし、『それとこれとは関係ないだろっ!?』と今になって聞かされた面々は……一斉に睦月へと銃口を向けるのだった。
――某国にて。
「『Be careful. You're being targeted.』……か」
豪奢なジャグジーバスに身を浸す中、遠い国で小さな麻薬組織が潰れた……その国に居ない人間には何の関係もないニュースが、大画面の壁掛けテレビから流れてくる。
けれども……彼女はそのニュースを見て、静かに口角を上げた。
そもそも暴力団自体、集団で反社会的な行動を起こして利益を上げれば、暴走族等の半グレ集団でも対象になることがある。世間で言う『極道』だけが、該当するわけではないのだ。
今回、麻薬組織狩りの対象となっている組織、『船岳一家』もまた、指定されていない暴力団の一つである。彼等は過疎化した町中の、廃墟となった立体駐車場のさらに地下に、資産を納めた金庫を隠していた。
の、だが……
「いくら潰れた指定暴力団の下部組織だからってな、下手な地方銀行クラスの頑丈さは要らないだろっ!?」
「いいから、早く金庫開けろって!?」
駐車スペースは視界を覆われた状態で温室化され、大麻草が栽培されている。『偽造屋』が適当な偽装工作をして囮になり、『掃除屋』が周辺の隠蔽工作、『技術屋』が本日二度目の爆破解体の為に爆薬を設置して回っている。
なので現在、地下の隠し金庫の前に居るのは『鍵師』とその護衛に就いた『傭兵』だけ……の、はずだった。
「創の奴、陽動しくじりやがって……後でご自慢の顔面ぶん殴ってやる!」
「だから愚痴る前にさっさと開けろよ! こっちはもうすぐ弾切れだってのにっ!」
下部組織とはいえ、元が指定暴力団だったのは伊達ではないらしい。以前、英治達が麻薬組織狩りした『一夜団体』とは、武器も人員も段違いだった。
平たく言うと……英治一人で十数人相手に銃撃戦を繰り広げていた。現在進行形で。
「誰だよ、『『立案者』の件で注目が逸れている今なら楽勝だ!』ってほざいたのは!?」
「お前だ、お前」
回転式拳銃に(手持ちが怪しくなってきた)銃弾を込めながら、英治は朔夜の叫びに対して、冷静にツッコんだ。
「だから言ったんだよ、『せめて銃弾調達させてくれ』って。『立案者』襲撃した装備の残りで乗り込んだ結果がこれだよ。やってらんね~……」
銃弾を込め終えた回転式弾倉をスイングインした英治は、豪雨のような銃撃の着弾音の中、盛大に溜息を吐いた。
「お前な……その無計画な性格、まだ直ってないのかよ」
「『物事はすばやく決行すべき』、だ。『孫子』を知らないのかよ?」
「出来の悪さにも限度があるわっ!」
腕だけを出し、回転式拳銃から.38口径の低威力の銃弾を撃ちながら、英治は銃声を上回りかねない程の声で叫んだ。
ちなみに、『巧遅は拙速に如かず』とは、『多少雑でもいいからさっさとやれ』という意味に近い言葉である。間違ってはいない。
「せめてさっさと金庫開けろよっ!?」
「いや、たしかに厄介だけどさ……今開けても、意味ないだろ」
腰程の高さもある金庫の扉に自身の背を預けながら、.45口径自動拳銃から弾倉を抜いて残弾数を確かめていた朔夜は、ツッコんできた英治にそう返した。
「あいつ等全滅させるのは後の話だし……どっちにしろ、帰りの足がなければ運べない量の札束だろうが」
「……で、その足は」
再度銃弾を込め直している英治に、朔夜は床上に滑らせる形で自動拳銃を投げ渡してから答えた。
「先にパシらせた」
「…………は?」
正真正銘最後の一発を込める手前で、その指が止まる。
「いや、元々買い出しに外出た途端に、『立案者』の騒ぎに巻き込まれたんだよ。おかげでさっきからやる気が出なくて出なくて……あ、一応自動拳銃、父親の形見だから大事に使えよ」
「その前にっ! この状況に陥った件について責任取れ、」
――ブォン!
「って……うおっ!?」
銃弾が降り注いでいた方から、一台のスポーツカーが乗り込んできた。英治達を庇うような形で停車した後、運転手側の扉が開く。
「おい朔、これで良かったっけ?」
車から降りながら、睦月は英治に手持ちの銃弾を、朔夜には待ち望んでいた物を投げ渡してきた。
その日、『偽造屋』が経営しているバー『Alter』の常連の一人である、田村四季は職場にてレジ打ちに入っていた際、珍しい相手と遭遇した。
「……あれ、荻野君?」
「どうも……」
随分珍しい相手が来たものだと、田村は少し席を外し、指定された番号の品がある棚へと向かう。そこまで離れていないことや、他の客が近くにいないこともあってか、睦月から声を掛けられた。
「しかし……普段、バーで会う時と格好違い過ぎないか?」
「そりゃそうでしょ。接客業なんだし……」
睦月にそう返しながら、ピアスを外して人当たりの良い髪型にしている田村は、手に取った商品を掲げて見せた。当人から首肯を受けてからレジへと戻り、バーコードを読み取って会計手続きに入る。
「それよりも珍しいじゃん。荻野君吸ったっけ?」
「いや、ただのパシリ」
アプリの電子マネーで会計を済ませ、受け取った煙草の箱をスマホと共に、懐に仕舞い込んでいる睦月に、田村は軽く息を吐いてから言った。
「ふぅん……また女?」
「またって何だよ、またって。まあ……女と言えば、女か」
急いでいるのか、レシートも無造作に仕舞ってから、睦月は去り際にこう言い残していった。
「血が繋がってないとはいえ…………姉貴だしな」
そして、現在に至る。
「朔夜、煙草吸うの?」
「ある意味ヘビースモーカーだよ……朔、銘柄合ってたよな?」
――……シュボッ!
睦月から受け取った煙草、『Adam's Apple』のフィルムを剥がしてケースを開け、中から抜いた一本を咥えた朔夜は、昔弥生から貰ったシガーソケット型のライターで火を点けた。
「ふぅ……合ってる合ってる。おかげでようやく気合が入ったわ」
デメリットばかりが目立つ煙草にも、実はわずかにだが、メリットもある。
というより……行き過ぎた薬が毒となるように、ニコチンもまたごく少量であれば、脳に有益な効能を与えることもある。実際、いくつかの病気に対して有用であるという研究結果も出ていた。
もっとも……ある意味薬物による増強のようなものなので、長期的に使う分にはデメリットの方が大き過ぎる。その上、代替品が溢れている昨今では、あまり魅力を感じることはない。おまけに煙草税は増加する一方なので、ほぼ『百害あって一利なし』なのが現状だ。
「あ~……良し良し、頭が回ってきた」
そんな煙草を咥えたまま立ち上がりつつ身体を解し、ようやく朔夜は金庫を開ける為に、ダイヤルに手を伸ばした。
「そんじゃ、さっさと開けるから……もうちょっと時間稼いでくれ」
「本当早くしてくれよっ!」
到着したばかりで(累計業務時間以外の)不満がない状態の睦月とは違い、精神的外傷や独自のルールも相まってほぼくたびれていた英治は、もはや悲痛とも呼べる声音で叫んでいだ。
「……そんなにまずい状況だったのか?」
「主にお前の姉貴のせいでなっ!」
そんな弟を含めた男二人の口喧嘩すら耳に入らない程に集中し、
「…………『全部暴いてやる』」
静かに過集中状態へと入った朔夜は、扉に耳を当てた状態でダイヤルを回した。
――――――――――――――――――――
To all
Be careful. You're being targeted.
* 01,03,06,07,08,11
――――――――――――――――――――
「まあ、半分も参加してた上に日本での出来事だし……実質ガキ大将宛てだな」
そして、麻薬組織狩りを終えて撤収した面々は、情報屋の和音が営む輸入雑貨店内にて、それぞれの取り分を仕分けていた。
「にしても……あの男、どっから過集中状態に入る方法を仕入れてきたんだ?」
依頼人との交渉を手早く終え、予備のタイヤに交換した仕事用の車で駆け付けた睦月。朔夜が愚図ったせいで余計に手間が増えた英治に、陽動をしくじった件でボコられかけた創。
疲労困憊な者が混じる中で、勇太が筋肉量に見合わない器用さで札束を数えつつ、そんなことを口走ってきた。
「……何それ?」
「ああ……そういや、そんなこと言ってたな」
弥生が首を傾げていると、『立案者』と名乗っていた男の独り言を聞いていた朔夜が、そう答えて来た。
「まさか私達以外にも、過集中状態に入る方法を持っている奴がいたとはな」
「いや、それが……根っこが同じっぽいんだよ」
数え終えた札束を置き、勇太は一度創に話した説明を繰り返した。
「でも……あの方法って、たしかガキ大将の実家から教わったやり方だろ? そう簡単に出回るか?」
英治がそう答えるのも、無理はない。ある意味では、ガキ大将の実家を敵に回すようなものだ。普通は手を出そうとすらしないだろう。
「え……ただ単に、地元の図書室からパクってきたんじゃねえの?」
そして、何人もが同じことを考えていた時だった。睦月が、その言葉を挟んできたのは。
「……どういうことだ?」
「いや、だからな……」
代表として、勇太が問い掛けてくる。マガリに参加した全員からの視線を浴びながら、睦月は欠伸交じりに答えた。
「……それ関係の資料、普通に学校の図書室に残ってたぞ?」
一拍間を置き、全員が叫んだ。
『はあっ!?』
「あんた等うるさいよ。近所迷惑考えな」
煙管片手に、一歩下がった位置で注意してくる和音を気にせず、勇太が睦月に詰め寄ってきた。
「おまっ、どういうことだよそれっ!?」
「ほら、図書室の蔵書って大体、地元出てった連中が『寄贈』と言う名目で、廃品回収代わりに置いてったやつだろ?」
「そういや、戦前の本とかもあったような……」
睦月がよく入り浸っていた為、弥生達もそれに付き合う機会が多かった。当時を振り返っていた朔夜も、ようやく心当たりを思い出していた。
「まさか……奥の本棚に突っ込んであった、あの紙束か?」
「そう、それ」
記憶していても内容を読んでいない朔夜に代わり、睦月が全員にその研究資料の中身について、説明し始めた。
「元々、あのやり方って発達障害者……昔で言うところの社会不適合者を人間兵器に洗脳する為に研究してる過程で見つけた、ただの副産物なんだよ」
実際、『最期の世代』十二人の中ですぐに覚えたのは、元々管理していた家の人間であるガキ大将と、瞑想等の集中状態に入る修行も行っていた『剣客』の少女。そして、三番目が……発達障害を持つ睦月だった。
「発達障害って程度や症状にもよるけど、基本注意散漫なこともあれば、逆に過集中になることがあるだろ? その集中力の差を研究している過程で偶然見つけたのが、例の過集中状態に入る方法なんだよ」
「ちょっと待て……睦月、一つ聞いていいか?」
その説明をどうにか咀嚼した勇太が睦月に、おそらく他にも疑問に思っている人間が居てもおかしくないことを聞いてきた。
「要するに何か、もしかして……発達障害じゃないと使えない可能性があるからって、捨てられた研究なのか?」
「というか……『程度の差はあれど、社会不適合者に話が通じないから、費用対効果悪過ぎ』って理由で研究そのものが廃棄されたんだよ。数少ない副産物も、相性の問題があって確実に覚えられるわけじゃないし」
そこで視線が一斉に、この中で最後に覚えた人間の方へと向けられる。約一名にとっては、覚えられなかった者に対してだが。
「言っとくけど英治……ボクももう使えるからね?」
「え、そうなの?」
「頭のネジが飛んだ時に、その拍子で覚えたんだとさ……」
当時のことを思い出してか、紫煙の混ざる溜息を吐きながら、朔夜は一瞬だけ、天井を見上げた。
「つまり『最期の世代』に限らず、過集中状態に入れると? ……何だろう、割とどうでもいい話な気がしてきた」
「だから廃棄されたし、姐御の実家も、簡単に手の内明かしてきたんだろ?」
暢気に答えてくる創に、睦月もそう返した。
「相性次第とはいえ、誰でも使えるんだぞ? そんな方法に何の価値があるんだよ……」
「あ~……それもそうか」
「もしかして……婆ちゃん、そのこと知ってた?」
弥生からの問い掛けに、情報屋の和音は肩を竦めるだけだった。
「大人って汚い……」
「そんな大人になっちまったんだよ。俺達も」
大人になる度に、知りたくない真実を知ることになる。
この場に居る全員が、やるせない気持ちを抱くことになったのだった。
「……いや、ちょっと待て」
全員の気持ちが解散に流れかける中、創は睦月の方を向いて口を開いた。
「お前それ知ってて……何で俺達に言わなかった?」
『…………あ』
先程の弥生とは違い、全員が視線に同一の疑問を浮かべている。
皆の注目を一身に受けつつ、睦月は頬を掻きながら答えた。
「いや……誰からも聞かれなかったし」
求められた成果を用意するのが仕事だ。そこに過不足が生まれてはならない。
たとえ出来が良くても、蛇足であるならば事前に話を通しておかなければ、余計な諍いを生むことも有り得る。だから睦月も、聞かれたこと以外は自分から話す真似はしない。かつて、英治との一件でそれを学んだから。
しかし、『それとこれとは関係ないだろっ!?』と今になって聞かされた面々は……一斉に睦月へと銃口を向けるのだった。
――某国にて。
「『Be careful. You're being targeted.』……か」
豪奢なジャグジーバスに身を浸す中、遠い国で小さな麻薬組織が潰れた……その国に居ない人間には何の関係もないニュースが、大画面の壁掛けテレビから流れてくる。
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ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
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