上 下
48 / 56
第六章 山下梅香の物語 遺産

女の園へいらっしゃい

しおりを挟む

 日本だけの二つ目のメイドハウス設立ということが、ミヤコ市民の誇りをかき立てるとともに、トウキョウへのライバル意識をかきたてているようです。

 足立先生は新しい舎監さんとして、勤務を始めていますが、なかなか厳しく指導されており、父兄からの評判も上々です。

 あるとき、地元のローカル局より、ミヤコメイドハウスに取材の申し込みがありました。
 完成直後の建物群を、テレビで放映したいとのことです。
 
 まだミヤコメイドハウスは入居していません、そのため撮影禁止の指示があれば、遵守する条件で許可が下りました。
 後にも先にも、メイドハウスが公開されるということは、今回限り、未完成で非入居なので実現したのです。
 
 山下梅香さんはミヤコ・メイドハウスバトラーとして、インタビューも受けることになりました。
 
 黒い折襟の肋骨服で長いスカート、折襟からチョーカーが見えます。
 徽章として、ヴィーナスの惑星記号がベースで上部の円の中にミヤコ・メイドハウスの桜胡蝶が組み合わされています。

 いろいろな質問を、優雅に受け答えする山下梅香さん、その優しげな素顔が、テレビに映っています。

「すこしプライベートな質問をしてもよいですか?」
「どうぞ」
「バトラーには京都弁が伺えますが、ミヤコのご出身ですか?」

「一乗寺の波切不動尊さんの近くに住んでいました、十六年前に照明女学院を卒業しました」

 インタビュアーが少し驚いた顔で、
「大変お若く見えますが、十六年前のご卒業となれば、その……」
 云いにくそうにしていますね、なら聞かなければいいのに。
「一度結婚いたしましたが、離縁されました」
 
 ……
 
 あわてて話題を変えようとするインタビュアー
「なにか、ミヤコの女性たちに、お言葉をいただけませんか?」
 まったく失格ですね、このインタビュアーは。

「私は離縁された後、実家が破産して、この身を父に売られてしまいました、そんな境遇の女でも、オーナーは拾い上げてくださりました」

「ご存知のように、ハウスに所属する女には、プリンセスの方々がおられますが、私のように苦界に沈んだものもおります」

「しかしメイドに貴賎はありません、誰であろうと、資格のあるものは拒みませんし、出自ゆえの不公平はありません」

「メイド間の競争はありますが、陰湿な足の引っ張り合い、告げ口などもありません、そのようなことが発覚すれば、退職することになります」

「メイドははるかな彼方、マルス以外の世界でも働くことになります」

「世界は広く皆様を待っています、容姿端麗が条件ですが、それよりも頭脳明晰が求められます」
「もし図抜けて聡明であられるなら、オーナーのお側に仕える資格があります」

「私たちの組織の科学力は、底が知れません、ゆえに頭脳明晰が突出されている方なら、遺伝子の許される限りで、美しいお姿にさせていただくことも可能です」

「これは美容整形ではありません、心底ご本人がお持ちの美しさを、表に出して差し上げるのです」

「このたびミヤコメイドハウスの建物は完成に近づき、メイドでは在りませんが、現地採用職員と一般女官を募集することになりました」

「勿論この中より優秀な方であれば、メイドに推薦されるでしょう、その場合は奨学生として、高等教育機関で学びメイド任官課程卒業生と同じ待遇で、任官していただきます」

「優秀な女性の方々を、ミヤコメイドハウスは募集しております」
「容姿端麗など、いろいろ条件がありますが、職務に耐えられる優秀な方なら、それに応じて考慮いたしますので、ふるって応募をお願い致します」

しおりを挟む

処理中です...