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第六章 山下梅香の物語 遺産

父の遺産 其の二

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 写真も一枚、山下桜子の今の姿のようです。
 質素な服を着て、髪も後ろに束ねているだけの少女……

「藤子にそっくりね……」

 梅香さん、複雑な気持ちで手紙を読んでいました。
 そしてしばらく考え込んでいましたが、オルゴールを取り出して、妹の藤子さんにホログラム通信をつなげました。

「あら、どうしたの、忙しいのでしょう、そうね、昼休みなのよね」
 梅香さん、手短に手紙の件を話します。

「姉様、いまからすぐにそちらに行きます、お食事でも一緒にとりながら、話をしましょう」
「そうね、待っているわ、私、どうすれば良いのか……それから軍服で来てね、いろいろお誘いが大変なのよ」

 で、二人は四時にホテルのロビーでお茶をしていました。 

「とにかくその施設長さんに、一度会ってみようかと考えているの、でも藤子の意見を聞かなくては……」
「私もいろいろ思うことはあるけど、とにかくあって見ましょうよ、出来たら早いほうがいいわ、電話をかけてみましょうよ、この施設長さんに」

 で、梅香さん、電話などかけています。

「私、山下梅香といいますが、○▲施設長様をお願い致します」

「お手紙をいただき、ありがとうございます、添付の書類を見ますに、確かに私の異母妹です」
「下の妹と相談し、とにかく施設長様とご面談し、その後に桜子さんにお会いできないかと、お電話を差し上げました」

「正直、私たちにも、複雑な気持ちがあります」
「今後のことは、本人と会いました後にと、考えております」
「出来ますれば私たちも忙しく、今日明日が希望なのですがご都合はいかがでしょうか」
 
 それならと、施設長さんはいまから都合をつけると、いってくれます。

「藤子さん、今からあってくださるそうよ、行きますよ」
 すぐフロントに、タクシーを呼んでもらった梅香さん、そのまま児童福祉施設に乗り付けました。

 施設長さんは玄関で待っており、すぐに応接室に案内された二人です。
「やはり良く似ておられます、とくに下の方はそっくりです」

「桜子さんはどうしていますか?」
「自習室で学校の宿題をしているはずです」
「よく下級生の面倒も見てくれており、皆から姉のように慕われています」
「学業は優秀なのですね」

「たぶんスリーシスターズでも受かるかと思いますが、本人が働くと言い張りますので……」
「働く?尋常小学校卒では、実家から通わなくては……住むところも無いのに……」

「住み込みで働くといって、奉公先を探していますが……桜子さんの場合……」
「確かに、よからぬことが起こりそうですね、親はいない上に美しい娘……納まるところに収まるというわけですね、二番目か三番目……」

「普通ならそれでもいいでしょうが、あまりに聡明、出来ますれば、もっと広い世界で活躍させてあげたい……しかし少ないといえど負債があり、これから返していかなくてはなりませんので……不憫で……」
 
 この世界、相続放棄はありません、ただ破産を申請は出来ます、相続破産というやつで、この場合、それなりのペナルティが発生するのです。

 桜子さんの場合、相続破産は学業を修了したときに選べますが、どうやら本人は返すつもりのようです。
 学業を修了ということは、高等小学校修了でも可、特例で、高等師範学校進学なら卒業後となりますが、桜子さんの場合、生活もしていかなければなりませんので、不可能となります。

 ただこのように保護者がいなくなった場合、負債の利息は免除となっており、元金だけの返金となります。
 弁護士さんがその手続きもしており、120万ほどの負債です。

 ……支払ってあげたいけど、あの男の借金を返済するのはしゃくに障るわ……

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