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第四章 志玲の物語 交渉術

劉志玲

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 テラ・メイド・ハウスのウェイティングメイド、上杉忍は優秀だ……
 この女は、芙蓉などとは比べ物にならない……

 このテラの事実上の最高権力者、全てを取り仕切るぐらい何ともないはずが、対東アジア政策を全面的に我らに任せている……

「私も女、誰かに助けてもらいたいのです、よろしくお願いします、うまく助けてくださいね、お礼にお菓子など差し上げますから」
 いけしゃあしゃあと、戯言をいってくる……

 警告と忠告が混じっているのは明白……対東アジア政策をうまくやって見せろ。
 これにはもう一つ含まれているはず……モラル……
 特に弱者に対しての、取り扱い方が監視されるはず……

 とりあえず、私の目の黒いうちは、行政は大丈夫……
 日本列島への対策は、芙蓉が第六台場から陣頭指揮をとっている。
 現に列島を、不法占拠している者どもへの対応は大したものだ。

 芙蓉なら間違いない、あのミコ様が寵妃にしたぐらいの女……
 忍ほどではなくても、間違いなしに優秀……
 それに芙蓉がしくじっても、寵妃の失敗……ウェイティングメイドの上杉忍も何もいえまい……

 問題は大陸対策……誰が香港で四級市民と対話するのか……適当な人材がいなければ志玲なのだが……
 寵妃の失敗なら……問題が表には出にくい……しかし……志玲では……押しが強くない……

「おじい様、お加減はいかがですか?」
 孫娘の志玲の言葉に、現実に引き戻された。

 劉志玲は二十一歳、スラッとした長身、細長い卵形の顔、姉によく似ている。
 姉の芙蓉ほどの優秀さはない、よくも悪くもお嬢様、自主性というものは、あまり見受けられない。
 このような評判の娘だが、おっとりとした中に隠れている、聡明な知性を老人は評価している。

 この日、劉志玲は、日本列島九州島の端島にある、高層アパートメントの老人の家を訪れた。
 母の月娘、姉の芙蓉、そして志玲、劉家の美貌の女たちは、祖父を囲み月見をするのである。

 祖父の家はさして広くもないが、それでも最上階であるので、ルーフテラスがついており、特別に屋上庭園などが造られている。
 この端島では、かなりの高級住宅なのである。

「志玲か、綺麗になったな、ミコ様に可愛がってもらっているか?」
「私なんか……」
「そうか……焦ることは無い、お前はお前の良さがある」
「私……姉さんのおまけですもの……」

 老人はつい笑ってしまった……
 変な言い回しだが、自分を見る世間の目を、正確に理解しているのに感心もした。
「ひどいわ!」
「すまん、すまん、志玲は可愛いいの」

 そして思った……今日は中秋節、月を愛で月餅を食べる日、月餅は一家団欒の象徴、均等に切り分ける……
 志玲にも芙蓉と同じように……

 たしかに大陸対策は、志玲にはチャンスかもしれない……
 寵妃になってしまったのだ……抱かれるだけでは不憫……

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