上 下
55 / 58
第六章 忍の物語 カムチャッカ

カムチャッカ防衛戦 其の三

しおりを挟む
 ラーグスベイに、一機だけ積んでいたV―22オスプレイ、MV―22Bが飛んできました。
 ラーグスベイ購入時に、ナーキッドが導入検討するために、一機だけ購入した機体です。

 多少安全性に難がありますが、これしかないのですから、仕方ないでしょう。

 ヴィーゼル空挺戦闘車改は、オスプレイに積まれ、そしてロボット部隊は、時速百キロでパラマに向かったのです。

 陸戦ロボット部隊が必死で走っていた頃、サクラ・ハウスのヴィーゼル空挺戦闘車改は、かなりの損傷を受け始めています。

 強化プラスチックの装甲板が、かなり破損し始めたのです……装甲板本体は何事もないのですが、後付けの為に、取り付け部分が外れはじめたのです。

 しかも少数のハリアーが、中国軍の上空から攻撃を仕掛けていましたが、さきほど弾薬が枯渇してきて、引き上げたのです。

「まずいぞ……仕方ないか……」
 高倉雪乃は、発電衛星の使用を考え始めた時です。

 ……こちら、サクラの田中、サクラの高倉、応答を願う……

「こちら、サクラの高倉、感度良好」
「荷物は後三十分で付く、荷物は多少破損も稼働、数三十四」

「待っている、三十分なら何とか持ちこたえられる、以上」
「皆聞いたな、後三十分、戦線を維持」
 全員から、了解の返事がきました。

 この後、五両のヴィーゼル空挺戦闘車改は、死闘を繰り広げたのです。
「チッ、とうとう装甲板が外れたか、左だな、右はまだついているな」

「よし、人工知能、右側面を敵に見せて戦闘せよ」
 青木紅葉の車両は、右を敵に見せ、前進と後退を繰り返しながら、戦闘を続けています。

 伊達絵梨香の車両は、とうとう主砲の砲身に負荷がかかりすぎて、沈黙してしまったようです。
 装甲板は無傷で、まだ車体にくっついており、伊達絵梨香は敵の真っただ中に突っ込んで、敵兵を踏み潰しています。

 他の車両も似たり寄ったりですが、致命傷は追っていないようです。
 いわゆるチョーカーが、主を護っているようです。

 味方のロシア軍も、死闘を繰り広げています。
 負傷兵ばかりですが、ここにはロシア帝国臣民が残っていたのです。
 彼らは本当に死力を尽くしています。

 町は中国軍に大半が占領されましたが、ロシア軍は住民を庁舎に集め、ここを中心に立てこもり、徹底抗戦しています。

 もはや両軍には、白旗などはありません。
 ここでロシア軍が負ければ、住民には無残な最期が待っています。
 ロシア軍は必死なのです。

「守備隊、後三十分持ちこたえてくれ、何とか友軍が到着する」
 高倉の無電に、守備隊は気力を奮い起こして、最後の抵抗を始めます。

 町の主要な建物には、爆薬を仕掛けており、一斉に周囲の建物を爆破、中国軍のかなりの部分を、壊滅させたのです。

 そして庁舎の周りを機関銃や火砲、迫撃砲で固め、火力の威力で防御を始めたのです。
 住民は地下に押し込められています。

 これが功を奏して、一時的ですが、何とか劣勢を持ちこたえています。

 そして二十五分、庁舎の上から、陸戦ロボットが見え始めました。
「味方だ!」

 報告は高倉にもありました、高倉の元には、田中より無電も入っています。
 主要装備を放棄したとの報告です。

「構わん、走ってきたのだから足はあるのだろう、各員陸戦ロボット部隊を指揮、敵に突入踏み潰せ!」

「田中大尉、上杉中尉、我らはパラナ市内に突入する」
「庁舎に立てこもっている、味方を救いに行くぞ!」

 三両のヴィーゼル空挺戦闘車改は市内に突入。
 とくに新手の二台のヴィーゼル空挺戦闘車改は、放電主砲も健在で、その威力を発揮しています。
 さらに激闘の二時間、陸戦ロボット部隊は敵を全て踏み潰し、無残な死体が累々と転がっている郊外となりました。

 パラナ市内は銃声もなくなり、建物はほとんどが瓦礫となり、庁舎だけが、穴だらけになりながらも建っていました。

 戦いは終わったのです。

しおりを挟む

処理中です...