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第七章 喪服の女神

巨大グローバル企業

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 バクー油田から、油が一滴も出なくなりました……
 ロスチャイルド家が、ひた隠しにしていましたが、ロシア帝国政府の発表がありました。

 この衝撃的なニュースは、瞬く間に世界に広がったのです……

 さらにロンドンのロスチャイルドが仕入れた、ディズレーリ情報は瞬く間に、フランクフルト・ロンドン・パリ・ウィーン・ナポリのロスチャイルドに広がります……

 ブラックウィドゥ・スチーム・モービル社は、ロスチャイルドの破産を目論んでいる……

 特にイギリスを除く、世界不況が深刻なヨーロッパ各国には深刻な打撃です。

 ウィーンのロスチャイルドが、ブラックウィドゥ・スチーム・モービル社の資金援助を受け入れると表明、ロンドンのロスチャイルドも同様の表明をします。

 ここでロシアのストロガノフ財閥が、ブラックウィドゥ・スチーム・モービル社のロシア代理店となります……
 世界は事実上、ブラックウィドゥ・スチーム・モービル社の、傘下に入ったと理解したのです。

 このストロガノフ財閥が、二束三文でバクー油田を購入、世界の失笑を買ったが、ひと月後……バクー油田が息を吹き返したのです。

 そして残りのロスチャイルドが、ブラックウィドゥ・スチーム・モービル社の資本参加を受け入れます……
 さらにオーストラリアで採掘権を確保、金鉱を発見……
 この時点で、ブラックウィドゥ・スチーム・モービル社は、とんでもない大会社に成長……

 そして膨大な資本で、アメリカのスタンダードオイルを買収し、ロックフェラーをアメリカのブラックウィドゥ・スチーム・モービル社の、ケミカル部門の総支配人に任命しました。

 またドレクセル・モルガン・アンド・カンパニーもその資金力で買収、ブラックウィドゥ・スチーム・モービル社の輸送部門として、アメリカの鉄道を買い占め始めます。

 またたく間に、不況にあえいでいたアメリカは、ブラックウィドゥ・スチーム・モービル社に占拠されました……

「順調ですね」、私は『黒い未亡人(ブラックウィドウ)』の会合で発言していました。
 マーガレットさんが、
「あっというまに世界経済を支配したようです、ものすごい手腕ですね」

「これだけの情報と力があれば、誰にでもできますよ」
「そうでしょうか……ビジョンがなければ、いくら情報と力があっても、できるとは思いませんが……」

「お褒めのお言葉、うれしく思いますね……今晩、愛などいかが?」
「まぁ、ご主人様ったら……」

 ポッとほほを染めた、マーガレットさんでしたが、その夜は中々のものでした。
 夜と昼とで、かなり豹変するのですから……

 とにかくアメリカでは、イギリスの再征服などと、新聞にたたかれていましたが、ケミカル部門と輸送部門の二つの部門の本拠地を、南北に振り分け、競争をさせたりしています。

 とくに当時アラスカはアメリカにとって、持て余していた土地だったので、これを恩着せがましく、ロシアからの購入代金の二倍で購入、アラスカ植民会社を設立、案外に感謝されたりしていました。

 ペンシルバニアの油田を買占め、さらにテキサスの油田も買い占めます。
 手荒なこともしますが、基本的には、ブラックウィドゥ・スチーム・モービル社は公平です。

 叩きのめした相手にも、手を差し出して抱え込む……
 社員もかなり優遇されます。
 しかも女性を積極的に採用、貧しい女性には奨学金を提供しています。

 ここで、ブラックウィドゥ・スチーム・モービル社は、ガソリンエンジンの新型車を発表します。
 ガソリンエンジン関係の特許は、全て抑えています。

 しかもアメリカにおいてのケミカル部門、ブラックウィドゥ・スチーム・モービル・スタンダードオイルは、廉価にガソリンを製造できます、一人勝ちですね。

 海運会社も手に入れます。
 ホワイト・スター・ライン――大西洋航路でイギリス政府のキュナード・ラインと争った海運会社、タイタニック号やブリタニック号で有名――を、造船王トーマス・ヘンリー・イズメイ氏より買収したのです。

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