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第三章 エッダの物語 招待状

初めての休暇

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 それから忙しいのか、電話もありません。
 母親のヘディは、気が気ではありません。
 十五歳の娘が、愛人のようなメイド生活をしいられている。
 そう思うと、自らホットスプリングに行こうかと考えたりしているのです。

 そして久しぶりに、エッダから電話がかかってきました。
「お母様!今度一週間のお休みをいただいたの、今、こちらでは午後六時、いまから出るわね」
「いまから?一人で大丈夫なの?」

「ホットスプリングス・メモリアル・フィールド空港から、ディヴィドソンさんがプライベートジェットを用意してくださるの」
「シャルル・ドゴール空港につくわ、そこからウィーンの空港までは、ロッシチルドさんが用意してくれるって」

「なんでもホテル・ザッハーに部屋を用意してあるからって、ウィーンの時間で六時ぐらいになりそうなので、そこに一泊しなさいって、ミコさまがおっしゃったの」
「お土産は何もないけど、迎えにきてくださる?」

「もちろんよ、でも……その、ミコ様はご一緒じゃないの?」
「私一人よ」

 初めて聞くエッダの明るい声、娘がどこか遠くへ行ったような、さびしい思いがした、ヘディではありました。

 ホテル・ザッハーで、夫とともに娘を待っていた二人の前に、別人かと思えるほどのエッダが現れます。

 OLのような、質素で実用的な服を着ているエッダですが、少女のような雰囲気の中に、何かしら大人の女を感じさせる。
 それゆえに、美貌が引き立っているようなところが伺われます。

 ホテルのロビーにいたものは、この清楚ではあるが妖艶がにじみ出ているエッダが、まぶたに焼きついたでしょうね。
 それはエッダがかもし出す自信のようなものが、強烈な印象を与えたのです。

「エッダ!お帰り……」
「お父様も、お元気そうで……」
 母親であるヘディは、一目見て理解したのです。
 娘は女になったのだと……

「エッダ、もう何もいわないわ、大事にされている?」
「ええ、でも詳しいことは部屋でね、ここでははばかれますから」
「それよりお父様、お食事でもいたしませんか、私、お腹が減ったのですが」

「おお、そうだった、何が食べたい?ターフェルシュピッツ――ウィーンの高級牛肉料理――にするか、好きだっただろう?」

「ヴィーナー・シュニッツェル――ウィーン風子牛のカツレツ――にするわ、お肉は好きだけど、アメリカにいるからステーキばっかりで、コートレットのような揚げ焼きフライはあまり出ないの」

「そうなのか、食べたいものを、好きなだけ食べなさい、食後のデザートもね、アメリカではおいしいお菓子などないだろうから」

 三人はホテルのレストランに、でも特別室なのですけどね。

 結構な食事を済ませ、ホテルの部屋に戻ると、ヘディが、
「ねえ、先ほどの話だけど、大事にされているの、他の女に意地悪されてないの、どんなところに住んでいるの、貴女には、女性の嗜みを何一つ教えてなかったけど、大丈夫なの」

「そんなに矢継ぎ早に質問しないでよ、大丈夫、こうして元気に帰ってきたでしょう、大事にされているわ、でも、お仕事もきついけどね」
「お仕事?」

「私、ミコ様の事務担当補助をしているの、大体は事務担当の方がやってくださるけどね、わかりやすくいえばメイドさんを指揮して、屋敷の維持とミコ様たちの身の回りのお世話をすることよ」

「事務担当って誰なの?」
「ディアヌ・ロッシチルドさん、アリシア・ディヴィドソンさん」
「ディアヌ・ロッシチルドは確かに有能ね、それに綺麗だし……」

「お母様、お父様も聞いて、私はもうミコ様に身をささげたの、ディアヌさんもアリシアさんも、私たちはベッドで一緒に愛されたの、恥ずかしいことをしたわ」

「私はもう女なの、ミコ様は公平なの、夜毎のことも公平、不思議なことに嫉妬もないわ」
「ミコ様がそのような女は嫌われるそうなの、だからお側に侍る者は、他人の悪口などいわない、ミコ様にお気に入られるように、努力するだけなの」

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