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第十四章 踊り子

01 方針

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 ここはキリーの亡霊の館、ダフネさんがお話中です。

 私たちは神聖教教団と、どのように接触するかで作戦会議をしています。

 ダフネさんの熱弁を圧縮しますと、教団は組織としては末期状態で、私が突然訪ねても、黒の巫女と認識できる者はほとんど存在しないらしい。

 本来、大賢者がいれば、黒の巫女と出会った瞬間に解るらしいが、その大賢者は空位になって久しい。

 大賢者を支える神官グループ、賢者というらしいのですが、その人たちも、神聖教の権威を利用しようとする各国の利益代表という状態で、教団としての意思が何一つまとまらない。

 そもそも神聖教の最大の存在理由は、世俗の権力には不介入だが、それゆえ各国間の調停をするということ。
 つまり建前上、俗世の利益には関係ないので公平な調停ができる、その調停は神聖教の権威でなされるので絶大である。

 ということは、この調停を有利に下せれば利益も絶大で、その調停をする賢者を取り込むことに、各国の熱が入るという図式が成り立つ。

 このような状態なので、教団組織は各国の寄り合い所帯となり下がり、悪い中での均衡がとれている。
 そんな中で、黒の巫女の存在を認めるということは、調停という美味しい既得権を手放すことになる。

 しかし賢者は既得権を手放さないし、それに繋がる官僚組織も、保身のためにも、黒の巫女を認めない。

 ただ少し有利なのは、私がジャバ王国女王ということ、つまりイシュタルが、黒の巫女になることに対しては、大陸主要三カ国のバランス上、考えられないこともない。

 実力のないジャバ王国が、お神輿状態で乗っかることは、三方一両損の状態になるので、ベストではないがベターとなるだろうと推測できる。
 つまり揉めに揉めたら目がある。

 でどうするかということで、紛糾しています。

 アポロさんは官僚組織の中核あたりを押さえ、つまりお金に物をいわせ、その上部の賢者達を買収しつつ弱点を探し脅迫と買収で、私を黒の巫女として認めさせるという案を押します。

 なるほど実現性はありますが、この手の方法はその後が大変、その地位を維持するのに、多大な労力が必要になり、何かをなす場合、時間がかかると思われます。

 ダフネさんの案は過激です、賢者一人一人に、私が実力行使で否応なく認めさせる、お金ではなく恐怖に物をいわす方法です。
 これにも賛成はしかねます、綺麗ごとではありますが強制は嫌なのです。

「アポロさんの案も、ダフネさんの案も、実現という点では間違いはないと思いますが、私としては何とか空位である大賢者を立てて、その人に私を黒の巫女と宣言して欲しいのですが。」

「難儀ですね……」とアポロさんが云います。
「ダフネさん、大賢者はどのように選ばれるのですか?」とアポロさんが聞きます。
「賢者のグループ総意となっています。」

「つまり賢者のグループを代表するものが、委託を受けて大賢者を選んでも、総意ということになりますね?」
「たしかに制度上はそれでも可能です。」
 と、ダフネさんが答えました。

 アポロさんが私に、
「イシュタル様は大賢者を立てるに際して、ある程度は裏があってもよろしいですか?」
「利益誘導程度なら、やむを得ないでしょうね。」

「大賢者になった後の、それなりの整理はお認めになりますか?」
「それも血の粛清でなければ、いたしかたないでしょう。」

「では私に少し考えがあります、お任せ願えませんか?」
「イシュタル様のご希望に対して、ぎりぎりのグレーゾーンですので、方法論はご勘弁願いたいのですが?」

「分かりました、この件に関してはアポロさんのお腹の中で結構です。汚れ役を押し付けるようですが、アポロさんが云う以上それしかないのでしょう。」

 アポロさんが、
「イシュタル様には、黒の巫女とは知られぬよう、なお且つ目立つように教団領へ入っていただく必要があります。」
「皆さんの知恵が必要です。皆さんが堂々と目立つように教団領へ入る方法を考えてください。」

 ダフネさんが、
「一つ思い当たる方法がありますが、巫女様とサリー、アテネ、小雪の、四人の絶大な協力が必要になります。」

 いま、ものすごく嫌な予感がします、この後を聞きたくないのですが……

「ダフネさん、どのようなことでしょう?」
 と聞かざるを得ません……
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