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第十七章 内定

10 賢者会議を懐柔すべし

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 でも虎口を脱したのは昼近く、疲れましたね。
 私はペコペコのお腹を慰めるべく、猛然とお食事中です。

 でも、ここ中央神殿の食堂の料理は、美味しくないですね。
 同じように、猛然とお食事中のお仲間がいました、ビクトリアさんです。

「ビクトリアさん、大変な食欲ですね、どうしました?」
 と聞きますと、やっと私にきづいたようです。

「あるじ殿か、じつは今朝から騎士団で鍛錬していた、連中、結構な猛者ぞろいで少々腹が減ったんだ。」
 ビクトリアさんが、こんなにお腹を減らすなんて、可哀相な騎士さんたち。

「でも、あの団長は強かったな、やっと勝てた。」
「団長さんは何かいっていましたか?」
「よい鍛錬になったと云っていたが、そういえばお菓子の礼をしたいので、午後においで願いたい、と伝言を預かっていた。」

「ビクトリアさんはストレス発散ですね、いいですね。」
 私なんてストレスの塊ですよ。
「私がストレスを発散させてみせようか、あるじ殿。」
 たしかにそんな気分です。

「私は、今日ははげしいですよ、覚悟していらっしゃい。」
「なんの、このビクトリアが返り討ちにしてくれる。」

 ビクトリアさん、気合いが入りました、
「風呂にいって、昼寝してくる」と云いましたよ。

 私は美味しくない物で、お腹を満たしました。
 この何ともいえない不満をかかえて、ピエールさんのお招きを受けて騎士団へ向かいます。

 ピエールさんは待っていました。
 案内された部屋にはロキさんもいます。

「ヴィーナス様、大賢者についてですが、いま大賢者は空席です。」
「しかし大賢者がいなければ、ヴィーナス様は黒の巫女様の位にはおつきにはなれない、そこで私に、ジャバ王国のアポロ執政から書簡が届きました。」

「それによると、我々の軍事クーデターで賢者会議は有名無実のいま、賢者会議の代表として、誰か都合のいいものを推薦して欲しい。」
「そして、その者と私とで、大賢者を推戴していただきたいという内容でした。」

「その大賢者の候補として、ダフネさんの名が挙がっています。」

 アポロさん、手っ取り早い方法へ方向転換しましたね、最初は各種の利で、懐柔するつもりだったはずでしょうに。
 まぁ、こんどのクーデターのおかげで粛清をしなくてすんだのは結構なことです。

 ダフネさんの大賢者への推戴は、想定の範囲です。
 ダフネさんしかいないでしょう。

「そのことについては、私としては了承しています。」
「ピエールさんにはご迷惑かもしれませんが、ご助力をお願いします。」

 ピエールさんが、
「私たち神聖守護騎士団はヴィーナス様を黒の巫女様と確信しています、その黒の巫女様へ忠誠を尽くすためにあるのです。」

「私は忠誠を尽くす相手が、ヴィーナス様で良かったと思っています、ご存知のように、尽くす相手がボンクラだと酷いことになります。」

「このたびの件については、ヴィーナス様ご自身より直接、ロキとともにお聞きしたかったのです。」
 なるほど、ロキさんに関係を知らせたかったのですね。

「ところで、アポロ執政の案は結構ですが、誰を代表に推すつもりですか?」
「執政の案ではピエールさんに一任していますが。」
「その件については、腹案がありますが、名前はもう少しお待ちください。」

「問題がもう一つあります。これは騎士団の内部の問題なのですが、賢者会議の代表が大賢者を推戴するというのは前例がないのです。だからその……抵抗があるのです……」
 珍しくピエールさんの弱音です。

「行政府ですか?」
 ピエールさんが頷きます。
 どこの世界もお役人は前例が必要ですか。

 !

 うってつけの人がいるじゃないですか?
 どんな理屈でも論理的に見せる神業を持つ人を、私は今朝、見つけましたよ!
 ピーターさんには、さらに貧乏くじを引いていただきましょう。

「ピエールさん、ここを乗り切れる人材がいます、この人を引き入れましょう!」
 とピーターさんの名をあげておきました。

 さて、今日の用事はお終いにしましょう。
 ビクトリアさんが待っていますから。
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