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第二十二章 学園生活

06 突然いい子達に

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 初級クラスの授業です。
「皆さん、解けましたか?」
「……」
 解けなかったみたいですね。

 級長さんが、
「悔しいけど、解けませんでした。」
「答えを教えてください。」

 私は解答を示しました。

「皆さん、納得しましたか?」
「ヴィーナス先生が、算数の問題といわれたのが分かりました。」

「自分で解けたら楽しい物ですよ。」
「楽しいとは思いませんでしたが、もっと算数ができれば、こんな悔しい思いはしなくてすんだのに……」

「できれば算数を、最初から教えて欲しいです。」
「そんなことなら、幾らでも協力します。」

 学長さんが、また私を探していたようです。

「ヴィーナス先生、探しましたよ。」
「初級クラスの生徒が、突然にいい子達になったのですが、先生が遠足に連れて行ったとか?」

「確かに小さい遠足と称して、学園の端っこの庭でお菓子を食べました、その時、パズルを出したのです。」
「パズル?」

 私は初級クラスに出した、パズルについて説明しました。
「確かに算数の問題ですね、でも考える力をつけるには良い方法と思われます。」

「ヴィーナス先生は素晴らしいですね。臨時講師ではなく、正規に就職しませんか?」
「それについては、ありがたいですが、お断りさせていただきたいと思います。」

「残念ですね。」

「学長、そのことで私をさがしていたのですか?」
「いえ、実はまた相談です。」
「ヴィーナス先生は、帳簿のつけ方を知っていますか?」
 商業簿記の基本ぐらいは知っていますので、私は頷きました。

「この学校の女子部でも、実学を教えようと思うのです。」
「ここの卒業女性として、世に出て何か一つでも、生きる手段というか、実際に役に立つものを、身につけさせたいのです。」

 私はこのエラムで初めて、ガルダ村でのお金のやり取りを思い出しました。

「たしかに、この辺りの金銭勘定は、効率が悪い気もします。」
「ここの生徒さんは上流階級出身、家業のためにも帳簿のつけ方を知っていれば有意義でしょうね。」
「でもせめて算数と算盤ぐらいはできなくては……」

「ヴィーナス先生、算盤ってなんですか?」
「えっ!」
「失礼ですが、算盤を知らないのですか?」

 たしか算盤というのは、メソポタミアでもあったと聞いていましたが、古代ローマには溝そろばんがあったはずですし……

「算盤というものは、数を高速で計算する物で、これに慣れると、暗算ができるようになるはずです。」
「そんなものは聞いたことがないです。」
 これは少々まずいですね、どう言い逃れをしましょうか。
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