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第五十二章 ユーラシアの戦い

河西回廊を抜けて

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「芙蓉は元気にしていますか?」
「優秀ですね、自慢の孫娘、私は花をいただいていません、清いままでお返しできそうです」

「オーナーは失礼ながら、女好きと心得ていましたが?」
「好きですが、限度ぐらい心得ています」
「もし芙蓉が望めば、お納め願えるのでしょうか?」
「それは……本人が望めば……」

 やはり切り出されました。
 なぜかこうなるのは、私のチョッカイ癖のせい、いらぬことを言ってしまうのが悪い癖……

「それを聞いて安心しました、『季布(きふ)二諾(にだく)無(な)く、侯えい(こうえい)一言(いちごん)を重(お)もんず』といいますから……」
「女の話になると、立場が逆転しますね」

「そこは親心ですから、近頃は芙蓉の母親も、オーナーの愛人というものがどのようなものか理解したようで、喜んでいるのです」

「中華共同体の他の構成国も、それなりに献上品を差し出しますので必ずお納めください、それとお願いがあるのですが、ぜひ中華共同体にも、抗ボルバキア薬を供給していただきたい……」
「その代価が献上品なのですね?」
 この時ばかりは、劉ボスも真剣な顔で訴えていました。

 やれやれ……サリーさんが怖い、そのまえに高倉雪乃が怖い……
「劉総統、場所が場所ですが、芙蓉とあっていったください」

 長谷川司令官が、
「ミコ様もえげつないですね、まさか『打手』――暴力沙汰を担当する人間のこと――、それもかなり危ない組織を丸かかえですか……」

「その様な風習があるのですから、それを使いましょう、このような状態で機能する唯一の組織とは、最終的には暴力組織なのでしょう」
 その究極が軍なのは議論を待たないのですが……長谷川司令官の前ですからね……

「まぁなんにせよ、人々が飢えて、人でなくなるのは避けられるのですから、それでいいかも知れませんね」
「あとは自分たちで国家を成立させて、なおかつ従ってもらいます、中華共同体は献上品をくれるそうです」

 ここで長谷川司令官は大笑いをしてくれました。
「ミコ様、この大陸をまとめるためですから、たしかに不可抗力は認めますが、女性というのに女難なのですな」
「男から見ると羨ましい限り、よくミコ様が云われる代価ですが、ミコ様の平和を望むその代価は、ミコ様の自由の拘束という所ですな、失礼ながら女は怖いですよ」

「経験がお有りで?」
「若かりし頃に、遊郭の女に入れあげましてな、子ができて、今は妻に収まっておりますが、これがきつい女で、長く尻に敷かれています、ペラペラの薄い座布団という所ですかな」

「堂々とのろけますね、ごちそうさまです、一度奥様に殿方操縦法を教えて頂きましょう」

 蘭州市を出て、盗賊まがいの武装組織を撃退しながら、河西四郡を鎮圧しながら進みます、武威、張掖(ちょうえき)、酒泉(しゅせん)までいきます。

 部隊はついにロプノール共和国の国境あたり、敦煌まで進出しました。
 敦煌で部隊は少し休むことになりました。
「一応は言っておく、略奪強姦は厳罰に処理する、女を抱きたかったら、小笠原より出張してくる娼館で処理せよ」
「今より、三交代で一日ずつ休暇を与える、各自英気を養うように!」

「ミコ様、兵も若い男、性欲もあります、ご不快でしょうが、US―3でその手の女を運んできます、目をつぶっていて下さい」

「理解できますが、料金はどさくさで踏み倒さぬこと、それは守って下さい」

「負傷兵はここらで返してやって下さい、この先は激戦になります、それと警備は厳重に、手抜かりのないようにお願いします」

 私は芙蓉さんを呼びました。
「いままでご苦労でした、この先は戦の連続、貴女はここから帰りなさい、スピンクスが希望の場所へ送っていきます」

「いやです、芙蓉はミコ様の女になると決めました」
「祖父と母と妹の前で誓いました」
「ミコ様は希望を聞くと云われましたね、だから希望を云わせてもらいます」
「私はミコ様の愛人になります、夜伽をさせて頂きます!」

 やはり……
 とにかく、この場所で抱くのは憚れますが……
 ちらっと高倉雪乃さんを盗み見ると、肩をすぼめています……どうやらお許しが出そうですので……

「夜伽の話は後日、ハウスキーパーと相談して下さい、とにかく貴女を側女待遇采女とします、この指輪を受け取りなさい」

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