惑星エラム 第五部 明けの明星編【ノーマル版】

第五十二章 キンメリアの夜は我が手に

１０ 本気と書いて『まじ』と読みます

　さて、今日はリリータウンに戻って、オルゴールのレプリカを作りますか？
　そう考えながら帰ろうかとしていたら、思いつめたようなアンリエッタさんが、
「ヴィーナス様、少しお話があります。」

「情勢は知っているでしょう、私が何をするのかは分からないでしょうが、覚悟はさっしているのでしょう？」
　私は厳しい顔になっていたと思います。
　語気が問答無用といっているのが、自分でも分かります。

「やはりヴィーナス様は、男の心をお持ちのようです、でも別れの品ではなく、祝いの品にしてくださいね。」
「必ず私たちの元へ戻ってください、お約束してくれますね。」
「かなり危険なことをしますが、生きて帰ってきますよ、かならず。」

「夫人の方々に贈り物を送ったら、すぐに行くつもりです、三日後にまたあいましょうね。」

　そういって分かれましたが……
　アンリエッタさん、男は時には、優しい嘘を堂々とつけるのですよ……
　貴女たちは大丈夫、そのことは心底保障します、たとえ私の命と引き換えとなってもね。

　さて、こんどこそリリータウンに戻りましょう。

　リリータウンで、私は源兵衛さんとお話中です。
「本気なのですか？」
「本気と書いて『まじ』と読みます。」

「皆を三度目の戦に駆り立てるのです。」
「せめて犠牲を少なくしなければ、ガルダに眠る英霊に、どの面下げてあえますか？」
　私は続けます。

「もし私になにかあっても、貴女がいるでしょう。」
「出会えれば、絶対に主席は亡き者にして見せます。」
「彼とはここらで、『けり』をつけるつもりです。」

「私と主席がいなくなれば、このエラムも自らの力で成長するでしょう。」
「悪い方向へ向かえば、貴女が何とかしてください。」
「これは命令です、それにサリーさんたちのことを、お願いします。」

　私はさらに続けます。
「今回の戦は私が望んだものです、傷つき倒れる人も出てきます。」
「しかし、この戦いさえ乗り越えれば、エラムにも明日がやってくると信じています。」

「ただ漫然と待っていても、運命は微笑みません。」
「痛くても辛くても、たとえその手が血に染まり、落ちなくなったとしても、人は自ら運命を掴まなければなりません。」

「私が、このエラムにやってくることになったのも、いわば運命。」
「このエラムの人々が、長い年月、運命に耐え忍んで懸命に生きてきた結果、起こったことと私は考えます。」

「女神さまが、私にエラムが救いに値するか、判断せよと命じたのです、運命を託したのです。」
「判断した以上は、行動が要求されます、私は救うべきだ、自らを救う努力をするべきだと、判断したのです。」
「判断した義務を果たします。」

　源兵衛さんは何もいいません。
　先程から愛人さんたちが、こっそりと聞いているのも知っています。
　私はこのギャラリーへも、メッセージをこめて、さらに語ります。

「私は皆さまの水先案内人であると、自負していました。」
「だから美女を囲い、人に様つけで呼ばれる、厚遇に遭っているのです。」
「大規模な戦いもこれで最後です。」

「動乱と内乱に、人々は苦しみ続けていますが、いま一息なのです。」
「そのため、また血を流すことになります。」
「せめて犠牲を、最小限にするためにも、私が主席を亡き者にしなければなりません。」

「相手はあの主席、私以外には太刀打ちできないはずです。」
「先程もいいましたが、もし運よく主席に出会えたら、何が何でも亡き者にして見せます。」
「これについてはお約束できます、あとのことは皆さまにお任せいたします。」

「お願いします、サリーさんたち……」
　皆がいます。

「お嬢様……、動乱の時は脇腹を貫かれ、内乱の時は腕を切り落とされ、そのたびにその比類なき魔力のおかげで事なきを得ましたが……」
「今回、命を落とされたら……ヴィーナス様の魔力といえど……それでも、行かれるのですか？」

　サリーさんが、その大きな瞳に、涙をいっぱいためて云いました。