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第五十五章 黒い森の都シュヴァルツヴァルト
02 海兵隊は不滅です
しおりを挟む「海兵隊は健在なのですか?」
「戦力は大幅に減少していますが、健在です、いまだ組織だって戦えます。」
私は感心しました。
あのガルダ草原の激戦を切り抜け、撤退戦を切り抜け、そして今度の戦いを戦いぬき、まだ組織だって戦えるなんて、やはりあの海兵隊長の部隊……
「見事なものですね。」
海兵隊はレムリア国軍の中核、精神的支柱……
この海兵隊が忠誠を誓ってくれれば、軍は雪崩をうって私に忠誠を誓う、ということですね。
「難儀ですね、しかし嬉しくもあります。」
そう、私は海兵隊が嫌いではありません。
「閲兵してみますか?」
「いたしましょう、案内してください。」
海兵隊員がたむろしています、軍紀厳しいレムリアで異質です。
だらだらとしています、残存隊員は千名を切っているそうです。
そのなかに見た方がいました、アルジャの件以来です、彼は生き残ったのですね。
「第一中隊長、久しぶりですね。」
さすがに驚いた顔をしましたが、すぐにポーカーフェイスになります。
カールさんが、
「生き残りの最高位の士官です、彼がいま海兵隊を指揮しています。」
私は海兵隊の前に立ちました。
無言で皆さんを凝視しています。
自分でいうのもなんですが、全身からオーラが出ています。
多分すごい迫力だろうと思います。
「皆さん、戦は終わりました、それとともに、昨日は終わりました。」
「その昨日に、皆さまの指揮官だった海兵隊長もいます。」
「最初はとても嫌なやつでしたが、幾度か出会い、少なくとも敬意を表す相手と、認識しました。」
「あのガルダ草原で私は戦いました、彼を亡き者にしなければ、私たちは敗北すると確信したからです。」
「しかし相打ち覚悟でなければ、倒せない相手でした。」
「倒して思ったことがあります、敵ながら立派な男、私が普通の女なら、こんな男に惚れるでしょうと。」
「しかし今日、ここに来たのは、思い出話をするためではありません、明日の話しをしに来たのです。」
「皆さんの国は今、危機にあります、戦いの危機ではありません、民の危機、治安の危機です。」
「ご存知の通り、このレムリアには統一政府がありません。」
「各都市は機能していますが、国家というものが壊滅しています。」
「国家が倒壊したらどうなるかは、皆さん、大陸での経験でご存知でしょう。」
だらだらは相変わらずですが、かなり真剣に聞いてくれているのは分かります。
「いまこのレムリアを、何とかしようとしています。」
「そのためには、海兵隊の忠誠が必要と判断しました。」
「今この時、組織だって動けるのはレムリア国軍だけです。」
「しかし軍は、このたびの戦いで私に対して不満があります、それはそうでしょう、否定するものではありません。」
「この軍を動かすために、海兵隊に率先して、忠誠を誓ってほしいのです。」
「巫女様は何のために、その様なことをいわれるのか?」
「巫女様にとって、レムリアがどうなろうと構わないはず。」
「レムリアが朽ち果てた方が良いのでは?」
「軍事的にも政治的にも、今の意見は正しいでしょう。」
「しかし私にとっては、そうもいかないのです、このレムリアは私の国になります。」
「皆さんが私を推戴してくれます、だからです。」
どよめきが上がります。
「巫女様が、我らの主になられるのか?」
「それは確かです、でなければこの混乱は収まりません。」
「しかも皆さまも、私にとってはエラムの民です、私にとっては大事な人々なのです。」
「巫女様は何と名乗られますか?」
「ヴァカリネと名乗りましょう。」
リトアニア神話、宵の明星の女神の名前です。
第一中隊長が初めて声を出しました。
「名誉ある海兵隊諸君、我らが女王に従おうではないか。」
そして、すごい声で叫びました。
「レムリアのあるじ、ヴァカリネ女王陛下に捧げ刀(とう)」
すごい歓声でした。
男くさいのもいいものです、そう思った瞬間でした。
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