上 下
80 / 152
第六十章 黒の巫女ってなんでしょう

05 創造の女神の正体

しおりを挟む

 創造の女神、いまは薄々は理解できます。
 多分アスラ族女性体の、最後のヴァルナ評議会議長を指しているのでしょう。

 でも、なぜ最後のヴァルナ評議会議長は、このエラムをそのままにして、私に託したのか、つまり創造の女神様は、私に何をさせたいのかを、知る必要があります。

 どう考えても、このエラムでの私に強いられたことは、あることのための、入り口と思えてならないのです。
 私に永遠の命を与え、単性生殖のアスラ族女性体のヴァルナ評議会議長に私を据えて、先代の創造の女神は何を考えていたのでしょう。

 マレーネさんもさすがに知りません。
 計算不能の回答しか、返ってきませんでした。

 アスラ族女性体が行き来した、この宇宙が所属する高次元世界。
 言葉を変えれば三千世界より、別の世界へ旅立ったと推測できるアスラ族女性体。

 マレーネさんがいうには、アスラ族の遺物は、私たちが存在するこの世界には、数々存在するという。
 その全ては、私の前にひざまずくらしい。

 いまはその遺物は、稼働していないという。
 そして、エラムにあったこの人工知能『しもべ』が、その科学技術の頂点にあるという。

 私はエラムを、より良き方向へするために、努力してきたつもりです。
 ある程度目的は達したと、思っていますが……
 それでも時々は、良き方向へ向ける努力をする、必要があるのでしょうね。
 なにか上から目線の様な気もしますが。

 でも単性生殖のアスラ族女性体……私はヴァルナ評議会議長ですね、でも単性生殖などは……
 そもそも私は子孫を残せない身、先代のヴァルナ評議会議長、つまり創造の女神は子孫を残せたのでしょうか?
 なぜ私はヴァルナ評議会議長なのでしょう、なぜ……

「マレーネさん、前任のヴァルナ評議会議長には子供がありましたか?」
「ありませんでした、イシス様は一人身でした。」

 イシス……

 ギリシャ語ですね、たしか古代エジプトのアセトといいましたか、オシリスの妹で妻、たしかホルスの母のはず……
 イシスが一人身ということは、イシス信仰、つまりイシス教を想像しますね。

 なぜ、ヴァルナ評議会議長の名前が、古代エジプトの女神の名前なのかはさておいて、このエラムの創世記の話しは、地球の一部の神話とつながりがあります。
 どうやらアスラ族直系子孫の私が、地球人である以上、信ぴょう性があると考えてもよさそうです。

 ならイシス教に、何らかの手がかりがあったとしても、おかしくはありません。
 イシス信仰では、イシスは永遠の処女であり、処女のまま神を身ごもったとされ、『天上の聖母』、『星の母』などと呼ばれてもいました。

 信者が基本的に女性に限られたことや、信者の女性が、一定期間の純潔を守ることを教義としたため、男性からの評判が悪く衰退していったと、ありましたから、なにか意味深です。

 キリスト教のマリア信仰と、重なる感もあるこのイシス信仰に、手がかりがあるかもしれません。

 イシス神殿の銘文には、
「わが面布を掲ぐる者は、語るべからざるものを見るべし。」
 とあり、これは真理の性格をあらわすものといわれています。

 考えなさい、思い出しなさい、ヴィーナスさん!

 イシス教の女神官たちは、『イシスの結び目』という物を、神通力の源として用いていた。
 どこかでこの様な記述を、インターネットで読んだ記憶があります。

 イシスの結び目……
 カルトゥーシュカードと呼ばれる、エジプト魔術を主題としたオラクルカードの中に、その様なカードがあったはずです。
 安産の意味だったか、子孫だけではなく、財産など全ての事柄に幸せと繁栄を与える印、『繁栄には、何かしらの犠牲が必要だ』と、いう教訓も込められているとあったような……

 イシスは星の母……イシスの結び目とは出産と繁栄には犠牲が必要……
 イシスは千の名を持つと呼ばれた、イシス=ミネルヴァ女神、イシス=アフロディーテ女神など多くの女神と同一視されていたとか……

 アフロディーテ?
 前任者はイシス、私はアフロディーテ……

 イシスは確か魔術の女神……結び目とは出産、つまり子孫繁栄……
 その陰で、男性体が居なくなくなる犠牲を払った……そして繁栄するも……

 たしかイシス女神は『来世への再生の守護者』と、みなされたこともあった……
 来世への再生への守護者……自身は来世への再生……

 そしてこの世のために、再生への守護者を残した……
しおりを挟む

処理中です...