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第五章 ジャクリーヌの物語 懺悔

03 救貧活動

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 何処からか声が漏れ聞こえてきた。
 ジャイアール王宮のハレムの外で、王宮内を警備している、衛兵の話し声である。

 ジャクリーヌの佇(たたず)むバルコニーは、ハレム区域を取り囲む、内部城壁を見下ろす位置にある。
 このジャイアール王宮のハレムは、かなり厳重な壁に囲まれており、ハレム内はかなり広いのである。

 その当時は、ここには王子といえど、入ることはできず、王だけが男として出入りできるのであるが、いま男は猫といえず出入り禁止、完全な女の園である。

「しかしこのごろは平和だな……でも、この間の休みに、娼館の飾り窓を見学にいったけど、幼い娘が多く売られていたな……」
「平和になったのに、なんで幼い娘が売られるのだろう?」

「そりゃあ、いろいろさ……俺のところの村でも、よく娘が売られている。」
「ひとつは平和だからさ、夜は長い……考えも無くすることをする……と子供ができる……」
「なるほど……」

「もうひとつは、戦争で男が大量に死んだだろう?女たちを相続しても維持できない、不要な売れる者は売るわけさ。」
「売れる女はいいけど、売れない女はどうなるのか?」

「そりゃあ……捨てるのさ……そこらに沢山いるだろうが……相続拒否された女が……」
「黒の巫女の女官なら、一人でも食っていけるけど、そんな女は食ってはいけないな……」
「食っては行けるさ、でもひどい生活になるけどな……」

「近頃、元ジャバ王族のペネロペ様が、そのような女のために、救貧活動をされておられるのを知っているか?」
「知っている、ペネロペ様って、あのひどい先代ジャバ国王の、従妹だった方だよね。」

「なんでも、先代ジャバ国王の所業を知って、愕然とされたとか、何もしなかったことを後悔して、救貧活動を起こされたとか、偉いね……」

「うちのホラズム王族は、何をしているのだろう?」
「ミレーヌ様以外はなにも。」

「えらい違いだな……」
「ホラズムの女はのんびりしているのさ、お前もそんな女が好きなのだろう。」

「確かに、あまり頭の出来のいい女はな……」
「体の出来のいい女の方がいいもんな……」

 そんな会話であった。

 やはり……思った通りだわ……
 ジャクリーヌはある意味納得した。

 自分は囲われている、勿論、寵妃なのであるから、当然なのであるが、人々の嘲笑を受けている。
 これではいけない……世界は変わったのに、私は変わらず、養われている……
 私も少しは変わらなくては……

 ジャクリーヌは意を決し、イーゼル公館の、ペネロペの居室を尋ねることにした。

 イーゼルには、エラムでも有数の温泉があり、黒の巫女ヴィーナスの温泉好きが人々に広まり、ここはエラムでも有数の保養地になっている。

 イーゼル公館にも勿論、この温泉が引き込まれている。
 このイーゼル公館は、エラム各地にあるハレムの女官たちにも解放されており、エラム各地のハレムと直接、異空間倉庫と呼ばれる、転移魔法により直結されている。

 保養休暇を与えられた、一般女官たちには通過パスが支給され、やってくることが出来る。
 チョーカーを所有する寵妃たちは、無制限で常時通行が許され、皆、二三日に一回は、イーゼル公館の温泉に入りにやって来る。

 寵妃には専用の個室が与えられており、今日はペネロペが滞在しているらしいのだ。
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