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第六章 ヒルダの物語 シュードラ島奇譚
05 下準備は大変
しおりを挟むレムリア都市同盟の寵妃は、ヒルダを含めて三人しかいない。
あと二人とは、女官長のエーデルガルトとジェーンであるが、そのエーデルガルトを見つけた。
「なるほど、わかりました、なんとか巫女様を、こちらにお呼びいたしましょう!幸いジェーンも来ているし。」
ジェーンは、カール国軍最高司令官の娘である。
まだ若く、幼いといっても良い年ではあるが、レムリア都市同盟の為に、黒の巫女の女官として、差し出された。
本人のたっての望みでもあった。
スバ抜けて聡明で頑固なところが、黒の巫女に愛されている。
「ジェーンには、必ずお声をかけていただけるはず。」
「こちらに振り向いていただければ、ヒルダ様にお気づきになる。」
エーデルガルトはそのように断言した。
そこへ、ジェーンがやってきた。
「ヒルダ様、お久しぶりです。」
「ジェーン、幾つになったの?」
「14になりました。」
「そうよね、ついこの間、側女になったのよね。」
真っ赤な顔になったジェーンであった。
そんな事を云いながら、ヒルダは自分の売り方を考えていた。
昼は今まで通り、夜に女々しくなれば……かわり映えしない方法ではあるが、私が行えば意外性がある。
昼は淑女、夜は娼婦か、よくいったものだ……
浴室がざわついた、黒の巫女が入ってきた。
寵妃たちが並んだ。
「皆さん、そんなにかしこまらないでください、お風呂では無礼講、ゆっくりはいりませんか?」
「私にいろいろ願いがあるようですね、ハウスキーパーから聞いています。」
「私は願いを抱えている方はわかります、一人ずつお聞きしますからね、大丈夫ですよ。」
彼女は優雅に湯あみしながら、一人ずつ名前を呼んだ。
ある女は、故郷の町の子供たちの窮状を訴え、ある女は、知り合いの病苦を訴えた。
ただ、黒の巫女も、なんでも叶えるわけにはいかない。
彼女にも曲げられない決まりがある、願いには代価が必要なのだ。
「その願い、聞いてあげますが、代価として、五日の道路清掃をしてくれますか?」
「代価として、その方に孤児院への、三日分の食糧を寄付してください。」
ささやかな代価である、無茶な代価は要求しない。
もちろん女たちも、ささやかな願い事しかしない。
大事はここでは、持ち出さないようにしている。
「ヒルダ、彼方の話はあとで聞きましょう、湯あみの後に私の休憩個室に来てください。」
「代価はそうですね……手付として、とりあえず私の背中でも、洗ってもらいましょうかね。」
ヒルダが黙って背中を洗っていると、
「ジェーンでは役不足ですね、レムリアの件は了承しますよ。」
「残りの代価はね、ベッドでの、貴女の石鹸の香りですよ。」
ヒルダはドキッとした。
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