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第三章 ジャンヌの物語 ヴァラヴォルフ族

ワータイガーはほんと醜い

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「まぁまぁ、アエローさんは今幸せなのですよ、今さら波風など立てないでしょう」
「衣食住が満ちたれば、それで満足しなくてはね……それ以上は身を滅ぼすものですよ」
 案外に、見るところを見ているジャンヌです。

 こんな会話が交わされたのですが、この後、ちょっとした事件が起こります。

 なにか入り口で怒鳴り声がします。
 すごい顔で、誰かが店員さんに難癖をつけているのです。

 アエローさんが、「少し見てきます、失礼いたします」といってかけていきました。

 どうやら、お肉がまずいとか固いとか……ワータイガー、つまり虎憑きが暴れているようです。
「どうしてこれがまずいのかしら?おいしいのにね」

 ジャンヌさんのこの一言が聞こえたようで、ワータイガーが激高して走ってきました。
「なんだ!俺は味がわからないというのか!おっっっ、そんなこといわれたら、誰でも頭に来るぞ、お前もいわれれば腹が立つだろうが!」

 リュシエンヌさん、内心、そんなことでは誰も頭になど来ないわよ……それにしても醜い顔ね……怒りに狂うと、心が顔に出る物ね……ほんと醜いわ。
 でもこの虎憑き、馬鹿じゃないの、相手がだれか知っているのかしら。

「ごめんなさい!許してください、お願いします」
「じゃあ、ここで土下座でもしろ!」
「それはできませんが、許してくださいな」
「お前、どこの者だ!」

「執政官府に勤めていますが……」
「名前は!」
「ドルレアンと申しますが……」
「分かった、後で行くからな!逃げるなよ」
「事を荒立てたくないのですが……」
「お前が悪いのだろうが!おぉ!」

 これだけ云うと、ワータイガーは行ってしまいました。

「ジャンヌ様、なんですぐに謝ったのですか?」
「だって怖いじゃないの、私、臆病者だもの」
 その割に、ジャンヌはせっせとお肉を食べていました。

 ワータイガーは、のこのこ執政官府に怒鳴り込んできました。
「ドルレアンって女をだせ!」
 受付の女性の前ですごんでいます。

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