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第五章 ラダの物語 ブラッド・カレー

フレンズ

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 ラダはこの旅行に従ったときから、心底ルシファー命になりました。
 ルシファーの厳しさなどを、目のあたりにして、その中に示されるさり気ない優しさ、思いやり……
 おかげで鈴姫と親友になれたし、ルシファーから、ある料理も教えてもらったし……

 惑星アールヴヘイムンで、ルシファーがラダや鈴姫などに食事を作って、ふるまったことがあります。

 ヴァンパイアの主食は血、料理などとはあまり縁がない……
 しかしラダの為に、ルシファーが考えてくれた料理が、ラダにとっては大変おいしかったのです。

 料理の名はブラッド・カレー……

 そのレシピとは、辛口に出来上がったカレーに、新鮮血液を入れて、生肉の上にかけただけな物。
 これがヴァンパイアのラダには、感激するほど美味しかったのです。

 このレシピで、ラダは旅行から帰った後、寄宿舎で作ってみました、やはり美味しい……
 皆が匂いにつられやって来て、ラダはふるまったのです。

 これが評判を呼び、ダチア高等女学院の金曜日のお昼には、生徒たちがこのブラッド・カレーを食べることになったのです。

 十月初旬のある日曜日……
 珍しく鈴姫が、ダチアの寄宿舎にラダを訪ねて来ました。
「ラダ、相談があるのだけれど……」
「私に?そりゃあいいけど……何なの?」

「琴音さんって覚えている?」
「貴女のお友達でしょう、一度紹介してもらったけど……たしかメイド任官課程の方だったわね……」

「その琴音さんが、卒業したら結婚される予定……」
「えっ!任官拒否するの?たしか綺麗な方と覚えているけど……私には信じられない……でも……おめでたい事なのよね……」

「確かにおめでたい事なのだけど……こんなこと、貴女にお願いするのは、どうかと思うのだけど……」
 鈴姫は珍しく言葉を濁します。

「いいなさいよ、秘密なら私は守れるわよ」
「琴音の相手のご家族の事を、知っていれば教えてほしいの……」
「相手はヴァンパイア族……総族長の息子……」
「えっ、ゲオルグさん!」

 ゲオルグ・ドン……
 ラダより二つほど年上の男、妹はカミーラ・ドン……

「まずいわよ……お母様のベルタ・ドン様は話の分かる方だけど……お父さまのヴラド・ドン様は……ごめんなさいね……モンスター族を嫌ってられて……」

「やはり……この間、琴音さんが泣いていて……ゲオルグさんから、やはり結婚できないと、いわれたらしいの……」
「……多分、ゲオルグさんの本音ではないと思うわ……ゲオルグさんは誠実な方なのだけど……お父さまに頭が上がらなくて……」

「ねぇ、いまから総族長のお屋敷に行かない、貴女は籠目(かごめ)高女の一号生徒、私のところへ遊びに来たついでに、総族長のご機嫌伺いにやって来た」
「私が貴女の案内役、うまくすればベルタ・ドン様に会えるかも……あとは出たとこ勝負……」

「ラダ……立場が悪くならない……」
「多少はね……でも私はもうすぐ卒業だし……なんとかなると思うの……それに立場なら、貴女も相当悪くなるわよ」
「ヴァラヴォルフ族の二人の執政も、あまりヴァンパイアは好きではないのでしょう?」
 鈴姫は頷くばかりでした……

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