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第六章 ベルタ・ドンの物語 鮮血推戴

言葉は残り、妻は従う

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 モンスター族の二人の執政は、ベルタ・ドンより総族長のこの言葉を伝えられた……
 アンネリーゼとジャンヌは、この総族長の最後の言葉を聞き、恥じ入るばかりだった……

「ベルタ様……今さらながらですが……ヴラド・ドン総族長は偉大な方でした……それに気が付かなかった自分を恥じ入ります……」
 アンネリーゼが言った。
 ジャンヌが、
「ベルタ様……このような時に失礼とは思いますが、ご自身のお気持ちを、お聞かせ願えませんか……」
「夫の言葉です、そしてその夫は亡くなりました、しかし言葉は残り、妻は従います」

 ジャンヌが、
「分かりました、とにかく総族長の葬儀を、まずは立派に行いましょう、そしてその後、総族長の最後のお言葉を、遺言として公開いたしましょう」

「そうだな……ベルタ様、ジャンヌの云うとおりです、まずはご葬儀、そして遺言を公開して、しばらく時を置きましょう……」

「ミコ様はあのような方、時を置き、皆で嘆願すれば嫌はないでしょう……内々で嘆願したら、うやむやにされてしまいます」
 確かにアンネリーゼの言葉は的を得ている。

「では、ご協力願えると?」
「ベルタ様、少なくとも私たちは、共に手を携える者と思ってください」
 ジャンヌが答えた。

 ヴラド・ドンの葬儀は、こうして盛大に行われたのです。
 そして遺言が公開された……

 それを聞いて、ルシファーは渋い顔をしたということです。

「ベルタ様……良からぬ動きがあるようです」
 良人の代わりに、総族長臨時代理を務めるベルタの元に、ゾーイが報告にやって来ての一言でした。

 ベルタはルシファーに、当面ブラッド・メアリーを配下におくことを願い出て、許可を取っていたのです。

「不測の事態に対してですか?」
 ルシファーに図星を刺されたベルタでした。

 その不測の事態が起こるという、ゾーイの報告なのです。

「どういうことですか?」
「ヴァンパイアにもモンスターにも、良からぬことを画策している者がいます」

「まずモンスター族ですが、一部の素行の悪いものが集まり、暴動を起こそうとしています」
「自由勝手にするのだなどと、息巻いています、とりあえずはタナトス・シティ逢魔街で放火をして、商店街を襲撃する計画のようです」

「ヴァンパイア族ですが、こちらの方がまずいかもしれません」
「ヴァンパイア至上主義というか、八十年前の主流派の考えに、賛同するものが居るようです」

「どうも自分たちだけでヴィーンゴールヴを支配、身分制度を確立、モンスター族を昔のように、下僕とするつもりのようです」

「あれほど……ルシファー様のお力を目の前にしたのに……もう忘れたの……言葉がないわ……」
「ゾーイ、この事が表に出れば……ヴァンパイア族には多大な不幸が降りかかる……」

「そうですね……あのルシファー様ですから……良くて、そうなの、分かりました、立派な考えです……とか言われて、お見捨てになる……」

「多分……造血装置は跡形もなく消えるでしょう……悪ければヴィーンゴールヴが……次の朝が来ない……」
「亡き夫もそういっていました……心得違いする者が出るのが、一番危ないと……」

「いかがいたしますか?」
「モンスター族の方は、アンネリーゼとジャンヌに任せましょう」
「あのお二人に任せれば、まず『処分』となります」

「ジャンヌが、目立たぬように処理するでしょう」
「アンネリーゼは小細工などできませんが、ジャンヌならね」

「ヴァンパイアの方は?」
「こちらも『処分』するしかないでしょう……」

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