【本編完結】おかわりはいかが?〜偉大なる魔女たちの優雅なお茶会〜

上木 柚

文字の大きさ
3 / 86
第一章

美貌の侯爵家

しおりを挟む
「まぁ、ご覧になってカパローニ侯爵夫人とご令嬢のアレッシア様よ」

 王宮の庭園にて、ほう…とため息交じりに周囲の女性たちが囁く。

「侯爵夫人はいつお会いしてもまるで女神の様ですわねぇ。アレッシア様も透き通る凛とした美しさがまるで精霊の様だわ…お召しになっているドレスも本当に素敵」

 視線の先にはアーヴィリエバレイ王国カパローニ侯爵家夫人タチアナとその娘アレッシアが談笑していた。

「あら、でも今日もミリアム様はいらっしゃられなかったのね…。お身体が弱くていらっしゃるとか…」
「ええ、ええ。わたくしもその様にうかがっておりましてよ。まだお会いしたことがないですけれど、お母様とお姉様がこれだけの美貌ですもの…。きっと可憐な姫君何でしょうね」
「ああ、それでしたらわたくしカパローニ卿にお聞きした事がございますわよ。なんでも目の中に入れても痛くない程お可愛らしくていらっしゃるとか」
「まぁ、あのエルフの如き美しさの兄君のカパローニ卿がおっしゃるのですから、それはそれはお可愛らしいのでしょうね…。いつもご自慢されていますものね」
「デビュタントにも出ていらっしゃらないのでしょう?なかなかお並びになっている姿が見れなくて残念ですわ」

 そんな周囲の囁きに耳を傾け嘆息しながら、ティーカップを手に取る少女がいた。
 先ほどから話題になっているカパローニ侯爵家次女のミリアム・ファリナ・カパローニその人である。

(今日も認識されていませんのね。わたくし…)

 本日は王妃主催のお茶会にタチアナ、アレッシアと共に出席していたミリアム。予てより美しすぎる家族に霞んで周囲からカパローニ侯爵家の人間として認識されない事が悩みであった。

(お母様とお姉様の出席している園遊会やお茶会には必ず同行していますし、デビュタントだって終えております。と言うより夜会にだって割と出席していますのに…なぜ、床に臥せていることになっているのかしら…わたくし健康だけは取柄でしてよ…)

 ミリアムは心の中で周囲の囁きに反論する。

 カパローニ侯爵家の人間は末の娘のミリアムを溺愛している。どこに行くにも必ず同行させ、傍を離れることもあまりない。
 しかし、ミリアムは周囲からカパローニ侯爵家の人間と認識されていない。

 父は『神々の最高傑作』と呼ばれる美丈夫、母は『女神の化身』、兄は『エルフの如き美貌の次期侯爵』、姉は『社交界の華と謳われる精霊姫』…。

 そんな美しすぎる家族の中、ミリアムは父と母の少しばかり残念な部位が集まった様な容姿であった。だが、あくまでも家庭内での比較である。
 元々最高傑作やら女神やら言われている人間の残念なパーツなので、そこそこ美少女ではあるのだ。
 しかし、この家族が集まる場所にいると“そこそこ美少女”では霞んでしまい、周囲から見れば視界に入らないし記憶にも残らない。

 故に家族から溺愛され、たいてい誰かが一緒に行動しているミリアムは、周囲から認識されない事態となっている。
 いつも姿が見えない(と周囲に思われている)末の娘は、常に周囲を気にしない兄のレオナルドによる2人の妹への溺愛発言も手伝って、『世にも可憐なまぼろし姫』と呼ばれ、憶測が憶測を呼び、ついに人々の中で病弱で常に床に臥せている儚い美少女という認識になってしまったのだ。
 今日も今日とて、口さがない人々の自分に対する噂話に居た堪れなくなったミリアムは、ほんの少しだけこの場を離れたくなり、王宮の庭園を散策することにした。


「お母様、せっかく王宮の庭園に参りましたので、わたくし少し散策をしたいですわ」

 ミリアムが隣に座るタチアナに声を掛けると、タチアナは微笑みながら首肯した。

「ええ、構いませんよ。薔薇がとても美しく咲いたとお聞きしたから、せっかくだし楽しんでいらっしゃいな。一人で大丈夫?」
「ええ。王宮の衛兵の方もたくさんいらっしゃるし、大丈夫です。それでは行ってまいりますわね」
「いってらっしゃい。可愛いミリアム」

 ニコニコと笑いながら小さく手を振る美貌の母に告げると、ミリアムは席を立った。
 その横で姉のアレッシアは冷めた表情でミリアムを見つめていた。
 姉の視線に気付いていたが、何か言われる前にミリアムはそそくさと庭園に向かって歩き出した。

「お姉様、怒っていらっしゃる…。お茶会を抜けて庭園を散策なんて、やっぱりいけなかったかしら。でもお母様はいいとおっしゃったし、大丈夫よね」

 末の娘を溺愛している家族の中にあって、ミリアムの3歳年上の姉アレッシアだけはミリアムに厳しい態度を取っている。
 常にマナーや所作、服装、髪型にいたるまで厳しくチェックしており、ミリアムを捕まえては度々小言を言ってきていた。

「嫌われているんだわ。きっと。お父様とお母様の子供なのに、わたくしだけ美しくないから…」

 思わず口に出すと、目尻に涙が滲む。持っていた手巾でそっとそれを押さえると、ミリアムは母の言っていた薔薇を見に行こうと再び歩き出した。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

お好きになさって下さい、私は一切気にしませんわ

Kouei
恋愛
婚約者のクレマンド様は、いつも私との約束を破ってばかり。 理由は決まって『従妹ライラ様との用事』 誕生日会にすら来なかった彼に、私はついに告げた。 「どうぞ、私以外のご令嬢をエスコートするなり、お出かけするなり、関係を持つなり、お好きになさって下さい。私は一切気にしませんわ」 二人の想いは、重なり合えるのだろうか …… ※他のサイトにも公開しています。

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

処理中です...