【本編完結】おかわりはいかが?〜偉大なる魔女たちの優雅なお茶会〜

上木 柚

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第一章

第一王子の苦悩

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 ◇


 エミリオ・ヴィットリオ・ベゲット・アーヴィリエバレイはここアーヴィリエバレイ王国の第一王子である。

 今年19歳となり、後ろ楯となる婚約者が決まり次第、立太子する予定となっている。
 だがしかし、如何せんこの婚約者が決まらない。
 茶会や夜会などで幾人かの婚約者候補と引き合わされてはいるものの、どの候補者ともなかなか話が進んでいかないのだ。

 原因はわかっている。

 彼の側近として常に側に仕えている男。
 レオナルド・ファリナ・アウレリオ・カパローニの類い稀なる美貌のせいである。

 レオナルドは王国の中でも力の強い大貴族、カパローニ侯爵家の嫡男で、エルフの如き美貌の次期侯爵と社交界だけでなく広く庶民にも知れわたるほどの有名人であった。
 それに加え次期国王である第一王子の側近を務めるエリート。その上、今年21歳と結婚適齢期ながら未だに婚約者が決まっていないため、嫁ぎ先を探す貴族の令嬢たちにとっては最高優良物件なのである。

 エミリオとて、決して見てくれが悪いわけではない。むしろさっぱりと整ったその容姿は清潔感に溢れ好感度も高く、思慮深い性格は温厚で勤勉。おまけに武芸にも秀でている。だが、些かさっぱりとしすぎた容貌はレオナルドの様な圧倒的な美貌が側にいるととたんに人々の目には地味に映り、まったく印象に残らない。

 不幸な事にエミリオの出席する茶会や夜会では側近であるレオナルドも常に共に行動するため、周囲の視線を集めるのはいつも傍らの美貌の側近であり、不敬にもエミリオは気付かれないことすらあるのだ。これではとても縁談を進める気になれない。

 そのためかエミリオは美しすぎるものがやや苦手であった。幼い頃から遊び相手として登城していたレオナルドの事はもちろん信頼しているし、側近である前に気を許してる数少ない友人でもあるのだが、それとこれとは話が別なのだ。

 それもあって彼が溺愛し、常々周りの人間に話している自慢の二人の妹たちのことも『どうせ両親や兄に似て胸焼けがするほどの美貌』と思い、婚約者候補に挙がってはいるものの、会う気にはなれないでいた。

「そう言えば今日は王妃陛下主催の茶会だったな。母上と俺の天使達が朝から準備をしていた。顔は出さなくても良いのか?」

 会議を終え、執務室へと向かう回廊を進みながらふと思い出し、前を歩く第一王子に側近が話しかける。
 レオナルドはエミリオの希望もあり、その場に親しいものだけの場合は側近らしからぬ気安い態度で接する。

「茶会か。今日は執務もまだ残っているし、先程から少し頭痛もする。やめておくかな」

 ここの所、幾度となく夜会で存在感の薄さを発揮した第一王子エミリオは疲弊していた。主に精神が。
 度々悩まされているこの頭痛も精神的なものから来ていると、先日中央の魔女から言われた。
 自分にレオナルドのような華やかさがない事は重々承知しているが、こうも人々の印象に残らないと言うのも一国の王子としてどうなのか。
 王族の務めとして、婚約者を定め婚姻を結ばねばならないことは分かっているのだが、ギラギラと獲物を狙う猛獣が如く、この美貌の友人を攻め落とさんとする令嬢たちを傍から見ていると、どうにも気が進まない。正直少し休みたかった。

「そうか。まあ今日は俺の天使達も出席しているからな。見初められでもしたら大変だ。まだ婚約者など早すぎるし、嫁ぐなんて以ての外だ。無理に迫るような輩が現れたら切り刻んでやる」

 本気なのか冗談なのか、そう言いながら腰に差した剣をカチッと鳴らすレオナルドに、エミリオは苦笑いを浮かべた。

「そ、そうだな」

 溺愛する妹たちの事となると目の色が変わる友人の言い分に呆れつつ、こんな兄がいると妹たちのが嫁ぎ遅れるのではないかと余計な心配をする。

 確か上の妹は自分と同じ19歳、下の妹は16歳だったはずだ。貴族女性ならば嫁いでいてもおかしくない年齢だ。いずれにしてもそろそろ婚約者くらいは決めなければならないだろうに。

「レオの妹たちの評判は耳にしている。心配なのはわかるが、それでは妹たちが嫁ぎ遅れてしまうのではないか?」

 麗しのカパローニ侯爵家の話は社交界では有名だ。
 当主を始め、夫人に嫡男、二人の娘に至るまで一家全員が美男美女だと。もっとも、末の娘は病弱で姿を見た者はいないのだが、両親や兄姉の容姿を見れば想像に難しくはない。ご多分に漏れずであろう。
 と、ふとエミリオは気付く。レオナルドは『俺の天使達』と言わなかったか?

「天使達と言うことは、今日は末の妹君も出席しているんだな。身体が弱いと聞くが大丈夫なのか?あまりこう言った茶会や夜会には出ていないらしいじゃないか」

 エミリオがそう問うと、レオナルドは何故か不思議そうな顔をした。

「皆よくそう言うのだがな、俺の可愛い天使のミリィは別に病弱ではないぞ。それに茶会や夜会にも割と出席している。家族が出席しているものには大抵同行しているのだが、どうして皆可愛いミリィを見ていないなどと言うのだろうか?」
「そうなのか?では、カパローニ家の末の令嬢は身体が弱くデビュタントも出来ず、あまりベッドから起きることもままらない、儚く可憐なまぼろし姫と言う噂は?」
「可憐と言う部分以外は誤りだな。一体なぜその様な話が出るのか不思議でならない」

 確かにそこにいるはずなのに、周囲の人間からは認識されていない侯爵家の令嬢。ある意味『まぼろし姫』だ。
 身に覚えのあるその事象に、エミリオは少し興味が湧いたが、溺愛する末の妹に会ってみたいなどとこの美貌の友人に話せば彼の機嫌を損ね、たちまち面倒な事になりそうだと考えを巡らせるに留めた。
 考え事をしているとこめかみの付近がズキズキと痛む。段々と眉間にシワも寄ってくる。

「レオ、悪いが頭痛が治まらない。ベアトリーチェ様の所で薬をいただこうと思う」
「大丈夫か?では執務室に行く前に寄って行くか」
「ああ、すまない」
「それにしても、今日の会議は長かったな。最近国内外でにわかに勢力を増してきている新興宗教の件…どうも嫌な感じがする」
「今のところ目立った動きはないがな。他にも問題は山積している…まったく、この頭痛がなくなる日はくるものなのか」

 会議が長引いていた為か、今日は頭痛が治まらない。中央の魔女ベアトリーチェに頭痛に効く薬をもらう為、王宮内にある魔女の邸宅へ向かうことにした。
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